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Age of Eternity

 街道に立ち込める霧が汚物を包み隠す。誤魔化されない臭いに顔を顰めながら進む。足元を注視すると、ゴミめいて転がる浮浪者の群れ。生を手放した者たち。死ぬことが出来ぬ彼らは、文字通り路傍の石となった。

 西暦2150年、人類は死を手放した。

 数刻後、連絡のあった民家に辿り着く。チャイムを鳴らしながら、ポケットの手帳を取り出しておく。程なく住人が現れ、私は笑顔で応える。

「やあどうも、”回収局”エドガー・ヴィアンキです。貴方がヴォルターさんですね?」

 その住人の顔面は蒼白で、いつ路傍の石になってもおかしくない絶望を帯びている。

「ええ、私がヴォルターです。それで、妻のことは……」

「ご安心を、私が弔います」

 はじまりは、某国の医学者が公表したナントカ細胞が世界中に広がった事だ。万病を取り除く希望。それが家庭でも再現できる。喜々として体内に細胞を取り込んだ人々を待っていたのは、永久的な死の喪失だった。

「こちらです。鍵がかかっています。この先に……喪失者がいます」

「ご案内ありがとう。この部屋から離れてください」

 始めのうち、皆気丈に生きていた。変調が生じたのは2100年頃。限りない生の中で、限りある感情を使い潰した者たちは、二通りの道を迫られた。一つは路傍の石、もう一つは――

 BAAANG!ドアが吹き飛び、現れたのは異形。”喪失者”。細胞により人体が変異した存在。他者を襲い、感情を奪う人類の敵。

「Shooe!」

 喪失者が襲い来る。口は八つに裂け触手化し、脳から強制的に感情を奪う。私はそれを側転で躱すと、懐から回収器を取り出した。

 今の人類に通常兵器は効かない。心臓すら再生するからだ。ならば対抗策は一つ、対象の知性、感情に飢える本能を直接抜き取る他ない。それを可能にする技術を持ち、生業とする者たち。回収局。私はその構成員である。

「喪失者と接敵。これより”回収”を開始する」

【続く】

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