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死と向き合うことで人生は豊かになる。頑固な爺さんの行動にニヤニヤが止まらない映画『ラッキー』。

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今回はその中から名優ハリー・ディーン・スタントン最後の主演作となった『ラッキー』を。ラインナップには社会派ドキュメンタリーなどが多い中で、気楽に見れてでも味わい深い作品です。

一人暮らしの老人の日常

アメリカ南部の小さな町で一人暮らしのラッキーは、毎日 、朝起きて運動し、牛乳を飲み、行きつけのダイナーに言ってクロスワードパズルをし、家でクイズ番組を見て、夜になったら行きつけのバーでブラッディ・マリアを飲むという日常を続けていました。

しかし、ある朝、コーヒーを淹れていたところで倒れてしまいますが、医者には異常はなく原因はただの加齢だと言われるのです。急に死を意識したラッキーは一体どうするのでしょうか。

ラッキーと老人の仲間たちの日常を描きながら、間近に迫った死について考えさせるドラマ。名優ハリー・ディーン・スタントン最後の主演作で、名脇役ジョン・キャロル・リンチの初監督作品でもある。

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(c) 2016 FILM TROOPE, LLC All Rights Reserved

何も起きないドラマ

はっきり言って何も起きない映画です。一人暮らしの爺さんが理由もわからず倒れたことで「死」を意識する。でも、変わらず頑固で他を寄せ付けない。でも実は死への恐怖を抱いているという話。

映画の展開はエピソードの連なりでストーリーらしいものもありません。一番の盛り上がりどころは、デビッド・リンチ演じるハワードが行きつけのバーで弁護士に自分の死後について相談するシーンでしょうか。ラッキーはこの弁護士に食って掛かり、外に出て殴り合おうと言います。

このシーンの意味がラッキーの死への恐怖の表れに間違いありません。でも、それでなにか起きるかと言うとそういうわけではなく、その後に連なるシーンも不思議で、はっきり言うと意味がよくわかりません。

もう一つの盛り上がりは、行きつけの商店の店主の招待で息子の誕生会に呼ばれたラッキーが突然歌い出すシーン。ヒスパニックの家族や友人の中で完全に場違いなラッキーだがいきなりスペイン語でマリアッチを歌い出すことで場の人たちをひきつけ最後は拍手喝さいを浴びます。

でも、このシーンもそれから特に何かが起きるわけではありません。

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人の優しさが与える作用

ひとつ言えるのは、この町の人達はとにかく優しいということ。行きつけのダイナーのウェイトレスは店に来ないラッキーを心配して家を訪れ、商店の店主は今言ったように息子の誕生会にラッキーを呼びます。

ラッキーは自分が死に迫っていることに気づいて恐怖を抱くわけだけれど、この町の人たちの優しさに包まれてその恐怖に押しつぶされずにすむのです。

ラッキーは基本、人を寄せ付けないタイプで、優しくされることに最初は戸惑います。でも、受け入れてみるとその温かみはラッキーに作用するのです。ラッキーは頑固ではあるけれど、正直でもあり、思ったことはすぐ言うし、感じたことには素直に反応するので、優しさを受けるとそれが行動につながるのです。

誕生会で歌い出すのも、温かいもてなしへの反応として自然と出たもので、それがみんなにも伝わったのだろうと思います。

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人は決してわかりあえない

でも、ラッキーがまちの人と仲良くなって幸せな老後を過ごすというような話ではありません。ラッキーは「人は孤独に生まれ孤独に死ぬ」ということを心から信じているタイプで、周囲とわかり合ったり共感し合ったりすることに重きをおいていません。

そのことは、ラッキーの言っていることが周りに理解されていないこと(とラッキーがそれを気にもしていないこと)からもわかります。

でもそれでいいというのがこの映画。ラッキーの言う通り人は最後には孤独だし、完全にわかり合うことはできません。でも、その中でも人と交流すれば感情を交わし合うことができるし、それで暮らしが豊かになるのです。ラッキーは死への恐怖を抱いたことで、そのことを意識するようになった。それがこの映画から伝わってくることなのです。

だからどうしようということでもないですが、「死」を意識することは人生を豊かにすることだと考えることは意外と誰にとっても重要なことなのかもしれません。

『ラッキー』
2017年/アメリカ/88分
監督:ジョン・キャロル・リンチ
脚本:ローガン・スパークス、ドラゴ・スモンジャ
撮影:ティム・サーステッド
音楽:エルビス・キーン
出演:ハリー・ディーン・スタントン、デビッド・リンチ、ロン・リビングストン、バリー・シャバカ・ヘンリー

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