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エンタメ消費を考える

 前回の記事で、エンターテインメントビジネスは「消費者に体験を通して心理(感情)的価値を提供し、その価値に対する対価を得るもの」と定義した。現代を生きる我々にとっては自明のことだが、エンターテインメント・プロダクトは一般的に営利目的のために制作され、金銭を媒介にして消費者によって消費される。

 この消費者の消費行動に関しては、実用的消費(Utilitarian Consumption)と快楽的消費(Hedonic Consumption)(Hirschman, E. & Holbrook, M. [1982])の2つに大別できる。実用的消費とは、そのプロダクトを消費(利用)することによって実用上の利便性が得られる消費をいう。食品、衣料品、家電などは実用的消費に当たる。一方、快楽的消費とは、消費がもたらす利便性ではなく、消費体験自体に喜びや楽しみを見出す消費形態である。エンターテインメントはこの快楽的消費に分類される。音楽を聴いても空腹は満たせない。しかし、楽しさを得ることができる。

 実用的消費によってもたらされる「利便性」、快楽的消費によってもたらされる「楽しさ」は、経済学で言えば個人の「効用」に当たると考えられる。実用的消費の「利便性」は目に見えやすく、多くの人で同じことが成立する。一斤のパンは大抵の人の空腹を満たす。しかし、快楽的消費の「楽しさ」は目に見えにくいし、人によって変わる。ある人にとってヘビーメタルを聴くことは喜びであっても、他の人にとっては苦痛であるということもある。「鬼滅の刃」をもの凄く面白いという人もいれば、大して面白くないという人もいる。このような状況が、経済学やゲーム理論の期待効用仮説(意思決定者は自らの期待効用を最大にする選択対象を選ぶとする仮説)を用いてエンターテインメント消費を論じることを難しくしている。個人による「効用(関数)」のバラツキがかなりあるのだ。このような状況を打破しようという試みがいくつかあるのだが、それはまた別の機会に述べることにしたい。

 さて上では消費形態を述べてきたが、そもそもの消費動機はどのように考えられるのであろうか?消費行動論においては、以下の図1のように消費動機が分類されている。

図1 消費動機の分類 (出所:田中洋 [2015]「消費者行動論」p.32)

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一次動機とは生命維持のために必要不可欠は欲求を指す。二次動機は、一次動機以外の欲求で、個人的動機と社会的動機の2つに分けられる。

 エンターテインメント・プロダクトの消費は一次動機に基づかない。人文社会科学のエンターテインメントの消費活動に関する先行研究を見てみると、二次動機の個人的・社会的動機の要因である「独自性」「自己尊厳」「達成」「権力」「親和」の全ての項目が、多かれ少なかれエンターテインメントの消費行動に影響を与えているとことが示唆されている。

 すなわち、各自が楽しむエンターテインメントは文化的であると共に社会的であり、所属集団やその集団における自己のアイデンティティの影響を強く受けているといえる。

参考文献

Hirschman, E. & Holbrook, M. [1982], "Hedonic Consumption: Emerging Concepts, Methods and Propositions," Journal of Marketing, Vol. 46(Summer), pp.92-101.

田中洋 [2015]「消費者行動論」中央経済社.


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