見出し画像

美味しい店より通う店

 「おいしい店」より「〇〇さんが、よく通う(った)店」の方に興味が沸きます。
もちろん、「おいしい」も魅力はあるけれど、
「通う」には、それがたとえ、「近い」、「安い」が理由でも、そこで過ごした時間に様々な話が詰まっているんですよね。
 
「作家の古川日出夫さんが、よく行っていた焼鳥屋」
 会食の店として候補に並んでいた中に見つけて飛びつきました。
古川さんは学生時代、劇団を主宰していて、送り主は、その劇団に所属していたらしい。
劇作家としても知られ、書き下ろしの戯曲が岸田戯曲賞の候補になったこともあったよなぁ。
 
さて、その店は高田馬場にあります。
店の入れ替わりが激しそうな商店街の中に、昭和の雰囲気を残したまま、ひっそりと建っていました。
サラリーマンの一人客が多く、新橋のように仕事から家に戻る途中で一杯飲んでリセットして帰る雰囲気を感じ、ホッとし、おじさん二人が猫背で飲むには最高です。
 
今年、原作が話題になった「犬王」の話から、僕は太平洋戦争時、島に取り残された軍用犬の話から始まる物語「ベルカ、吠えないのか?」を思い出しました。
本の内容ではなく、所持していた時のことを。
 
タイの片田舎で読んでいたのです。
食堂とカフェとバーとを足して3で割ったような場所でビールをちびちび飲みながら。
ホテルまでの帰り道、静まり返った市場のような商店街の中で野良犬3匹に出くわします。
道が細く、彼らを抜けていかなければ、先には進めません。
 
1匹がよだれを垂らしている様を見ながら「狂犬病」の文字が浮かびました。
来た道を戻って他の道から帰ろうとしたとき、彼らは近寄ってきたのです。
僕はとっさにウエストポーチのプラスチックのバックルをカチッとはずし、
右手に持って振り回し、彼らを追い払いました。
こうして、無事、その道を通ってホテルまで戻り、
犬の小説が入った鞄で野良犬を追い払った記憶だけが脳に刻まれたのです。

こうして元劇団員から古川さんの劇団の想い出話を聞き、僕はタイの想い出話をしたとさ。

飼い犬なのか野良犬なのか区別できないこともあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?