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「1/11の夢旅人2022」 (リーグ第17節・北海道コンサドーレ札幌戦:5-2)

 この日の等々力は、ミックスゾーンが設置されていました。

ミックスゾーンとは、競技直後の選手に対してインタビューをすることができる、スタジアム内にある取材用の場所のことです。

 Jリーグでは2年前から密を防ぐためにミックスゾーンがなくなり、オンライン会見になりました。今年から徐々に対面取材も緩和されるようになったのですが、等々力では会見方式の質疑応答による対応でした。

 この札幌戦では、柵越しで選手との距離をとった上でのミックスゾーンが復活。ミックスゾーン自体は直近の公式戦となった天皇杯2回戦・札幌大学戦でも設置されていて、等々力ではこれが今年2試合目です。ただリーグ戦でのミックスゾーン解禁となると2020年の開幕戦・サガン鳥栖戦以来となりました。

 オンライン取材や会見取材ではクラブ側が出席させる選手二人の声しか聞けませんが、ミックスゾーンであれば、自分で選手を呼び止めて自由に取材が出来ます。試合直後の選手が紡ぐ言葉を引き出しながら、その表情からたくさんのことを汲み取る作業は記者の醍醐味でもあります。

 試合後、どうしても話を聞きたい何人かの選手がいました。

 その一人が、小林悠です。

ようやく生まれた今季のリーグ戦初ゴール。ACLでは得点を決めていましたが、リーグ戦となると、去年8月の北海道コンサドーレ札幌戦(リーグ第27節)以来、ゴールネットを揺らしていませんでした。

 J1リーグ歴代得点ランキングの8位にいる34歳のストライカーが、約10ヶ月もゴールから遠ざかっていたわけです。

 そして去年8月の札幌戦といえば、あの「フロンターレは死んでいないってところを見せたかったので」という名言が生まれた試合でもあります。

2試合連続引き分けの後、アビスパ福岡にシーズン初黒星を喫し、リーグ連覇に暗雲が立ち込めた時期に迎えた札幌戦で、自らのゴールでチームを蘇らせました。

 偶然にも今年は、1引き分け2連敗という、去年とも似たシチュエーションで迎えたコンサドーレ札幌戦です。そして自身にとっては、あれ以来となるリーグ戦でのゴールとなりました。

 たくさんの報道陣からの取材対応を終えて、通りがかった小林悠を呼び止めて少しだけ話す。去年の名言を引き合いに、こう尋ねてみました。

「去年アウェイの札幌戦では『フロンターレは死んでいない』っていう言葉がありました。今日の試合ではどんな言葉が浮かびましたか?」

 彼は少し考えてから、安堵の表情でこう述べました。

「そうですね・・・・フロンターレもそうですけど、『小林悠は死んでないぞ』っていうのを見せたかったので」

ーーー「小林悠は死んでないぞ」
自分はまだストライカーとして死んでいない。つまり、今回のゴールは「小林悠を蘇らせるゴール」だったのだと思う。彼は自分のゴールで「生還」してきたとも言えます。

 思えば、リーグ戦連敗を喫することになった前節の京都サンガFC戦。
0-1で追いかける展開となり、次々と前線の選手を交代で入れ替えていく中、鬼木監督はスタメンで起用した小林悠を最後までピッチに立たせました。言い換えれば、最後まで小林を下げませんでした。

 それまでリーグ戦では無得点。かつリーグ戦でのフル出場はありませんでした。そしてこの京都戦の失点場面は、自陣で小林が対応した守備を突破されて、相手のクロスが味方のオウンゴールとなったものです。

だからこそ、小林悠を下げなかった鬼木監督の采配は、「自分のゴールで失点を取り返してこい」というメッセージでもあったと僕は思っています。

 あの試合のアディショナルタイム。
小林悠は決定機を作り出しています。知念慶のポストプレーの落としに反応して、得意の角度からシュート。記者席からは絶妙に決まったように見える軌道でした。実際、これまでの小林が何度も決めてきた角度です。

 しかし、そのシュートがわずかにゴールを外れてしまう。

僕は信じられないものを見たような気分がしました。

 小林悠は、このクラブに携わる人たちが、何かを託すに足るだけのものを示してきたストライカーです。そして何度も土壇場でチームを救ってきた存在であり、あそこで決めてきたのが小林悠が小林悠たる所以でした。

 その小林があの大事な場面で決め切れなかった。
地面を叩いて悔しがる彼の姿に、クラブレジェンドのストライカーが斜陽の中にいることを認めざるを得ない事実を突きつけられたような気がして、負けたこと以上のショックを受けている自分がいました。

 あれから約3週間。
中断期間を経て迎えたこの札幌戦、彼はストライカーとして死んでいなかったことをゴールで証明してくれました。

 では、なぜ蘇ることが出来たのか。
小林悠を蘇らせるこの日のゴールには、こんな思いがあったと話し始めてくれました。

■「やっぱり『行け!行け!』という圧を感じたし、その勢いに自分を任せました」。小林悠を蘇らせたいくつかのものとは?

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