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「ナイフを突きつけるような攻防戦」 2021.9.13 プレミアリーグ第4節 リーズ対リヴァプール:0-3

代表ウィークがあったため、2週間ぶりの再開となりました。

試合は3-0でリヴァプールが勝利。

ピッチではいろんな出来事がありましたが、リーズといえば、やはりビエルサ監督。

グアルディオラ監督も尊敬の念を示している存在として有名ですが、このおっさんは、とんでもない戦術マニアですね。彼の有名な言葉があります。

「自分はこれまで2万5千試合のビデオを分析したが、サッカーの歴史上戦術というのは28種類しかなく、そのうち19種類は守備的なもので、残りは攻撃的なものだ」

 確か、20年前ぐらいに述べていた名言だったはずです。
今のように動画配信で試合を見れる時代ではなく、DVDはおろか、まだビデオテープを入手して試合を分析していた時期ですからね。そんな時代に2万5千試合って、どんだけサッカー観ているんですか、という話ですよ。ちなみにこの言葉には、「だから守備的なサッカーはつまらない。俺は攻撃サッカーを追求していきたいんだ」みたいな意味が含まれています。

 ビエルサ・サッカーの攻撃性は、マンツーマン主体の守り方にも表れていることで有名ですね。

 現在のサッカー界の主流は、ゾーンディフェンスです。
持ち場で構えて、そこに入ってくる選手を捕まえる。チャレンジとカバーの関係で連動しながら、バランスを崩さずに守ります。一方のマンツーマンは1対1でボールを奪ったらチャンスになりやすいですが、もし抜き去られたら一気にゴールまで持ち運ばれてしまいます。マンツーマン戦法が主流じゃなくなったのは、ゾーンディフェンスに比べると、危険と隣り合わせの戦術だからです。

 何より、マンツーマンは体力的に90分やり続けにくい側面があります。
サッカーのピッチは広いです。決められた場所を守るのではなく、動く相手に対して合わせて走り続けるので、守る側はものすごくスタミナを消費するんです。基本的に、体力が持たないです。そんな背景もあり、時代遅れの戦法になってきました。

 ただポジショニングによって相手の守備組織にズレを生み出したり、配置による優位性を生み出していく「ポジショナルプレー」が席巻していくにつれて、場所を守るのではなく、ボールを持っている人をつかまえて守るマンツーマン戦法がハマることがあるというのが、サッカーの歴史の面白いところです。

この試合でもそうでした。リヴァプールのビルドアップに対して、リーズの選手はマンツーマン気味に果敢に食いついていきます。もちろん、リヴァプールもリーズのディフェンスがマンマーク気味に食いついてくるのがわかっているので、引き付けてから空いているスペースや最終ラインの背後を狙って攻撃を展開します。

対面する相手を剥がさなくても、「よーい、どん」で走って空いているスペースにボールを出してもらって競り勝てれば、一気にひっくり返すことができますから。

もちろん、リーズはそこをやらせないように奪い切ろうとする。そして奪った後のトランジション(切り替え)では、一気にダイナミックにゴール前に迫っていく。この迫力は、やはり圧巻です。

 序盤から球際も激しく、かつボールを持った瞬間に、お互いにナイフを突き刺すようなスリリングな攻防戦が見られて面白かったですね。

 ただマンツーマンの場合、1対1のバトルが多くなるので、局面によって個人の質がかなり問われます。1対1に弱い選手がいたり、あるいは相手にめっぽう優れた選手をぶつけられると、例えば、ドリブル突破でマークを剥がされてしまうと、そこから一気にチーム全体が破綻してしまいかねません。そういう難しさがあります。

 攻略する側からすれば、ボールを受けた時に人に対して密着してくるのならば、局面で相手を剥がす作業でボールを運んでいけば、その先はかなりのフリースペースになります。

 リヴァプールの先制点は、まさにそんな形から。
起点となったのは、センターバックのマティブです。リヴァプールの2センターバックに対して、リーズは前線の1人が対応するので、どちらかは後方でフリーになれます。そこでスペースを見つけたスルスルと持ち運ぶマティブに対して、マンツーマンのリーズはカバーできる選手がいませんでした。

結局、マティブは、サラーとのワンツーでゴール前に侵入。右サイドバックのアレクサンダーアーノルドに展開し、そこからピンポイントクロス。サラーが合わせて先制しました。サラーはプレミア通算100ゴールだったとのこと。

後半からリーズは守備の強度をさらに上げてきましたが、セットプレーでリヴァプールが追加点。さらにエリオットの負傷交代もあり、試合はトーンダウンしてしまいました。最後は決定機を外しまくっていたマネが決めて3点目。マネはなかなか調子が上がらない印象ですけど、このゴールで蘇りますかね。何よりエリオットも最悪の事態は免れたようで良かった。


それにしても、最近は配置でサッカーを見ることに目が慣れていたので、場所ではなく、人に対して守りにいくビエルサのマンツーマン気味の守備はやはり新鮮でした。


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