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中村憲剛による「逆算の方程式」から生まれた車屋紳太郎の先制点と、計算ミスが起きても逃げ切れる守備陣の粘り強さ。そして「歯がゆいよ」と語る、大久保嘉人が前線で抱え続けているジレンマ。 / ワンポイントレビュー:リーグ2nd第6節・湘南ベルマーレ戦:3-2


BMWスタジアム平塚での湘南ベルマーレ戦は3-2で勝利。

3-0のスコアから2点を返される辛勝に、試合後はまるで負けたような感覚に襲われたのは僕だけではないと思います。試合後のミックスゾーンでも、多くの選手が反省点を口にしていました。

 そんな中で、勝利という結果を強調していた選手がいました。武岡優斗です。

「1年通したときに、こういうゲームもあると思います。今までだったら追いつかれたり、逆転されてしまっていたかもしれない。長い目で見れば、こういうゲームを勝つことが、後々大事になる。全部が全部、良い内容で勝てるとは限らない。そうではない時でも勝てるのが大事だと思います」

 1日経ってから、このコメントをより噛み締めております。勝ったのは川崎フロンターレで15試合負けなしで年間首位をキープ。これが事実ですから。

 この湘南戦では3つのゴールが生まれています。

大久保嘉人のJ1リーグ通算169ゴール、小林悠の6試合連続ゴールなどの話題がありましたが、何と言っても、車屋紳太郎のプロ初ゴールでしょう。2点目のアシストも含めて、素晴らしいプレーぶりでした。

 あの先制点の場面を見ていて、疑問だったことがあります。

それは、「なぜ車屋紳太郎が湘南の右ウィングバックである藤田征也と1対1のシチュエーションを作り出すことができていたのか」ということです。

 ふと頭をよぎったのが、バスケットボールにある「アイソレーション」という戦術です。

 直訳すると「孤立」。得点能力の高いエース級の選手を片方のサイドに1人だけ「孤立」させるように配置して、相手と1対1で勝負させる状況を作りやすくするという作戦ですね。

 漫画「スラムダンク」でもありました。
インターハイ予選・陵南対湘北戦で、序盤の陵南はこのアイソレーションを採用。オフェンス能力の高い福田吉兆にボールを集め、残り4人が逆サイドに偏ることで、福田に思う存分、1対1の勝負をさせました。

 湘北はマンツーマンディフェンスであり、福田の対応はディフェンス力が低い桜木花道でした。そのため、味方がフォローできない距離での1対1で徹底的に来られると、湘北守備陣の明確な穴となってしまったわけです。その結果、湘北は、桜木ではなくディフェンス力のある三井寿を福田のマークに変更して、なんとか修正します。

 試合後に選手を取材してみると、湘南戦での車屋紳太郎の先制点というのは、この「アイソレーション」と同じ狙いから生まれていたとわかりました。そこの背景も掘り下げております。

では、今回のラインナップです。

1.なぜ車屋紳太郎は藤田征也と1対1の状況をあれだけ作り出せたのか。「自分のところにボールが来たら、藤田選手と紳太郎が1対1になる構図は頭のなかにできていた」。中村憲剛が狙っていたアイソレーション戦術。

2.湘南のプレスにひるまないビルドアップを披露。しかし、試合終盤には「つなぎ」を放棄せざるを得なかった、意外な理由とは?

3.試合の流れを変えてしまったパスミス。「2-0だったら、もう一回やり直していました」。失点につながった縦パスを反省する橋本晃司。

4.守り切れる守備陣に起きていた誤算。それでも逃げ切れる強さと、際立っていた守護神の存在感。「ロスタイムがすごく長かったですけど(苦笑)、みんながひとつになって集中できたと思います」。(チョン・ソンリョン)。

5.「今のワントップは難しい。歯がゆいよ」。大久保嘉人が語る前線で抱え続けているジレンマ。

以上の5ポイントで全部約7000文字です。最後の大久保嘉人に関しては、試合後翌日の麻生で、リカバリーを終えたときに聞きました。Q&Aのインタビュー形式でそのまま再現してます。興味ある方は読んでみてください。

なおプレビューはこちらです。→試合をディープに観戦するためのワンポイントプレビュー(リーグ2nd第6節・湘南ベルマーレ戦)

ではスタート。

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