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「覚悟より切実な現実の前で」 (FUJIFILM SUPER CUP 2022・浦和レッズ戦:0-2)

 試合前。
記者席で取材ノートを開き、公式サイトに掲載されているメンバー表を見ながら、両チームの背番号と名前を順番に書き込んでいく。試合観戦する際のいつもの儀式である。

1番・ソンリョン、13番・山根、5番・谷口、7番・車屋、2番・登里・・・・最終ラインからは、去年と変わらぬ顔ぶれが続く。

長年取材していると、川崎フロンターレの選手名は、背番号を書けばセットでスラスラと出てくる。

ただ長年の習慣というのは恐ろしいもので、14番のところで、ついうっかり「中村(憲剛)」と記入しそうになってしまった。

・・・・違う、違う!今年の14番は「脇坂泰斗」である。慌てて名前を書き直す。

 そうなのだ。
この試合は、川崎フロンターレの14番・脇坂泰斗の公式戦デビューなのである。

この試合前日会見で、14番を着てプレーすることに緊張があるかどうかを聞かれた彼は、「はい、しています」と笑みをもらして答えていた。

 そして「まだ会場にも着いていないので分からないですが」と前置きした上で、「ユニフォームを着る前から緊張は経験したことがないけど、それも楽しめるように」と口にしている。本人も期するものはあるだろう。

 思い返せば、彼がプロ2年目を迎えた2019年のこと。
試合に出始めるようになった彼に、下部組織出身者にとってバンディエラ・中村憲剛はどんな存在なのか。それを尋ねてみたことがある。

「本当に大きい存在で、小学生の頃からフロンターレといえば、ケンゴさんでした」と言い、その思いはフロンターレU-18から阪南大学に入ってからも変わらなかったとのことだった。むしろ、一度クラブを離れたこと、より強くなったとも話していたのが印象的だった。

「ユースの時は10番でしたが、大学の時には(背番号)14番をつけていました。フロンターレの下部組織にいたら14番は意識する番号です。大学で14番をつけて、なおさらフロンターレに帰りたいという思いが強くなりましたし、意識してつけていました」

 そしてプロとして着実にキャリアを積み重ねて迎えた、5年目の2022年シーズン。満を持して、川崎フロンターレの14番を背負うことになった。

同期の守田英正や、田中碧、三笘薫、旗手怜央といった後輩達が次々と海外移籍をしていく中、このクラブで14番をつけるということが、どういう決断なのか。その意味はよくわかっているはずである。そしてその重みに向き合いながら、その番号を自分なりの色に塗り替えていく最初の試合が、この一戦だということだ。

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