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リアル片腕ムエタイチャンピオン主演『片腕拳王(ドラゴン)2005』

カンフー映画には伝統的に片腕ジャンルがある。
香港の重鎮ジミー・ウォングが巨匠チャン・チェ監督と共に『片腕必殺剣』で創設した隻腕の剣士、ファン・カンというキャラクターは香港で熱狂的な人気を博し、後にジミー・ウォングを中心に様々な続編や類型が作られるようになった。『続・片腕必殺剣』に『片腕ドラゴン』そして『片腕カンフー対空とぶギロチン』など。その全てが大ヒットを記録し、「片腕」はカンフー映画においてアイコニックな存在となった。
そして来る2005年。新たに片腕ドラゴンを継承するものが現れた。名をバクスター・ハンビー。ムエタイ世界王者の実績を持つ、事実上世界最強の男だ。
彼には、本当に片腕がなかった。

マイノリティの役はマイノリティの役者が演じるべきだという意見がある。だがまさか片腕カンフーを本物の片腕カンフーが演じている作品があるとは思わなかった。それも2005年にだ。先進的すぎる。
バクスター・ハンビーは生まれつき右腕の肘から先がないというハンディキャップを抱えているが、想像を絶する鍛錬の果てに克服し、五体満足のムエタイ野郎どもを全てボコボコにして世界チャンピオンにまで登り詰めた。
そんな男を主演にして映画を撮る。面白くなるかどうかは置いといて、戦闘力が高いことは間違いない。

実際、本作のレビューを見てみると(頼んでもいないのに本作の冒頭で業界人のコメントが流れる。スキップできない)、そこにはプロレスラーや格闘チャンピオンなど、錚々たるメンバーの名がずらりと並ぶ。唯一映画に関係のあるリュー・チャーフィーも少林寺三十六房なので戦闘力が高く、「彼こそが真のヒーローだ」と檄を飛ばしている。

実際、本作は非常に戦闘力の高い出来だったと言える。もちろん脚本は破滅的だが、バクスター・ハンビーの蹴りはとてつもなく鋭い。片腕というハンディキャップを感じさせず、五体満足のカスどもを圧倒的なスピードでぶちのめす。
あと、隻腕のほうの腕でも殴る。これは凄い。まさかハンディキャップのある腕で人をシバくとは思わなかった。しかもパワフルだ。これには衝撃である。実際に彼はこうして勝ち上がってきたに違いない。
五体満足だと絶対に至れない発想だ。これもまたリアル片腕カンフーじゃないと味わえなかった衝撃だろう。

ただ不満なのが本作のアクションの大半が試合形式なことだ。肘と急所が禁止されている上にフィールドが制限されているので動きに多彩さがなく、やや単調になって流石の片腕カンフーでも飽きが来てしまう。
終盤にようやくカンフー映画らしい復讐劇の素手アクションが見られるが、こちらも予算が尽きたのか非常に微妙な出来栄えでちょっと残念だったりする。

ただ日本から参戦した松田優が本作で一番のキレを発揮したり、アクション監督も務めたカーター・ウォンも禍々しい拳ダコのついた拳でカンフーを振るったりと、バクスター・ハンビー以外にも見どころはちゃんとある。

もちろん破滅的な脚本など難点は非常に多いが、全体的に楽しい格闘アクション映画であるのは間違いない。そしてそういう映画ほど未知の格闘アクションがあるものだ。そう、リアル片腕カンフーとか。
見たことあるか?マジの片腕カンフー。ないだろ。俺もないよ。
前代未聞すぎるリアル片腕カンフー映画がここにある。完全に未知なアクションがあるだけでなく、その鍛え抜かれた格闘スキルにもビビる凄い映画だった。必見とは言わないが、こういう作品こそオススメしたい。バクスター・ハンビーの極まった身体能力が織りなす真の片腕カンフーを是非その目で確かめて欲しい。

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