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ミステリとしての五等分の花嫁について

最近『五等分の花嫁』を真面目に読み返している。アニメ効果というわけではなく(そもそもアニメ版はあほだ)やはりこの作品はラブコメではなくミステリだということで真面目に考えるために読み返している。

前提としてこの作品はハーレムものだ。学年1位の勉学野郎風太郎が五つ子のヒロインに家庭教師として勉強を教えるというものだ。一見ジャンプで連載中の「僕たちは勉強ができない」に似た設定だが、僕勉がニセコイズムの継承者だとしたら五等分がアンチニセコイズムの作品だと言える。
アンチニセコイズムとはつまり引き延ばしを嫌い、徹底して古来より伝わる王道テンプレを否定して見せる作品だ。
主人公の風太郎はラブコメ主人公によくあるような優男ではなく、唯我独尊で厚顔無恥のオンリー・マイ・ウェイな野郎だ。そんなやつが五つ子姉妹に勉強を教えるうちに徐々に成長を見せるため、こいつがラブコメにおけるただの舞台装置としての主人公野郎じゃないことがわかる。
またヒロインもニセコイズムの作品はヒロインが同じ男を好きなくせして『わたしたち仲良し!』とかふざけたことを抜かしやがる。
正直そういうのは見てる側からしたら薄っぺらいし、まるで説得力が無い。
一方五等分の花嫁はヒロインが全員五つ子であり、さらに五つ子の関係そのものを作品のテーマに組み込んでいる。そのため五つ子の仲の良さには説得力があり、見ている側が納得できる。
さらに最近は二乃という恋する暴走機関車の参戦や、一花という目的のために手段を選ばないマキャベリストが本腰をあげて風太郎攻略をはじめたので姉妹関係がかなりギクシャクしてきた。そうだ、そういうのを見たかったんだ。風太郎を独り占めしたい?俺もだ!

そんなこんなでギクシャクしてきた姉妹関係。といっても全員が全員風太郎を(異性として)好きなわけではなく。今のところ三玖、一花、二乃の順で惚れている。二乃にいたっては一番風太郎を嫌っていたくせして既に告白すら済ませている。
難聴を発動させ「なんのこと?」とかふざけたことを抜かす風太郎に対して再び告白を叩きつけてやった様は、まるで原宿の洒落た小道でゴリラが暴れまわるような爽快感がある。
こんな感じに、この作品はかなり徹底したアンチニセコイズムであると言える。

次にこの作品のミステリ要素を説明しよう。ミステリ要素といっても、Twitterとかに流れてくる金田一とタイトルを組み合わせただけのクソつまらないコラ画像のことではない。
この作品における「花嫁は誰だ」ミステリである。
五等分は現代が舞台のパートの他に、未来が舞台の結婚式パートが度々描かれる。
そこでは五つ子の誰かが風太郎と結婚することが明らかにされており、細かく出されるヒントを元に「花嫁は誰か」を推理することができる。
つまり結末を先に書くことによって「主人公と結ばれるヒロインは誰か?」という古来よりハーレムもので語られてきたテーマを、ただ好きなキャラクターを挙げるだけではなく、ミステリの視点から語ることができる。
といってもヒントが少なすぎる上にミスリードも多く、現時点では花嫁が誰かを導き出すことは不可能だ。
そこで重要になってくるのは「零奈は誰か」ミステリである。
零奈とは小学生の頃の風太郎と出会い、彼が勉学少年となったキッカケである因縁深いキャラクターである。さらに現代パートにも謎めいた姿で登場し、色々あってへこんでいた風太郎をさらにへこました存在だ。
現在は零奈が五つ子の中の誰かであることがわかっており、その零奈に該当する存在が花嫁なのではないかとまことしやかに囁かれている。
ちなみに先週のエピソードではついに現代零奈の正体が明かされたが、ミスリードの多いこの作品ではそれが真実とは言えず、過去零奈の正体は依然霧の中である。

他にも花嫁につながる重要なヒントとして「風太郎にキスしたのは誰だ」ミステリがあり、二重三重に入り組んだ謎が五等分の花嫁を読む推進力となる。
とはいってもこの作品は別に本格ミステリというわけではない。とにかく言いたいのはミステリという視点があることによって作品を語る幅が増えるということだ。
作品を語る幅があるというのはオタクにとって最上級のご褒美であり、それが五等分の花嫁を人気にしている要素の一つと言っても過言ではないと思う。
たとえば最近俺は四葉のことを2PACだと思っている。

四葉

四葉は五つ子姉妹の中で一番精神年齢が低く、自分より他人を優先するような危うい優しさを持っている。そのためエゴが未発達なきらいがあり、風太郎に対して恋愛感情のようなものは持っていない。
強いて言えば仲の良い親戚の兄ちゃんみたいな関係だろう。
ここで四葉のリボンに注目してほしい。
これはうさちゃんリボンだ。

四葉の天真爛漫さと幼さとを象徴する神聖なアイテムであり、これのおかげで風太郎は他の五つ子との見分けをつけている。
だがアメリカ西海岸に、四葉と同じような恰好をしている男がいた。

そう、2PACである。
彼が伝説のラッパーなのは言うまでもないが、そんな2PACもまた四葉と似たバンダナをよくしていた。
四葉のリボンは明らかに2PACと同様のものであり、四葉が2PAC的存在であることが示唆されている。

さらにこちらを見てほしい。

これは五等分の花嫁の最新刊だ。表紙を飾るのは三女の三玖であり、三本指のハンドサインをしている。7巻は一花で指は一本。8巻は二乃で指は二本と来てこの表紙だ。10巻の表紙が四本指のハンドサインをする四葉であることは言うまでもないだろう。

だが四本指のハンドサインといってもその数は限られる。というか正直まったく思い浮かばない。だがあるミュージックアルバムで、ある男が、ある四本指のハンドサインをしている。

2PACである。
特徴的に掲げられた”W”の意味を持つハンドサイン。その指の本数は四。
このジャケットを意識した表紙が作られる可能性は低くないだろう。

閑話休題。

ハーレムものに忌避感を覚える人もいるだろう。なんだか薄っぺらくてそういうのを読むのは軟弱者だけだと感じる人も。
だが主人公の風太郎ははっきり言って最高にイカしている。ラッパーで言えばVince Staples並みにDOPEだ。
さらにヒロインもみんな最高のキャラクターだ。
とくに最近の一花は、風太郎を落とすために汚い手を平然と使う。
繊細なやつはそこで一花に対して侮蔑したような言葉を並べるが、俺はそういうガッツのあるキャラクターが好きだ。
無論二乃のストレートな攻略方法も好きだ。映画で言えばセガール映画だ。具体的にいえば沈黙の鉄拳の駐車場でのアクションシーンだ。最高だ。
三玖は奥手だが真摯に努力している。素敵だと思う。
四葉はやさしすぎる。だからこそ成長が一番楽しみなやつだ。
五月はごはんを美味しそうに食べる。そこがいい。
これらのキャラクターが漫画のアイテムとして消費されることがなく、テコ入れで秒速で主人公に惚れるヒロインが追加されることもない。五つ子と風太郎だけでやっていくぞという春場ねぎ先生の気概が感じられる。
そういうキャラクターに対するリスペクトと丁寧な描写があるからこそ「花嫁は誰だ」ミステリが輝いており、謎にたいする探究心が強まるのだ。
この作品はラブコメとして見ても最高だが(そもそもそういう目で見る人が殆どだろう)ミステリとして見てもなかなか興味深いところがある。
ミステリにおける”謎”=”花嫁を突き止める”に必要なことは”容疑者”=”ヒロイン”のことをより深く知ることである。
それはラブコメファンが日頃からやっていることであり、多くの五等分ファンがストレスなくミステリ要素にのめり込むことができる。
そういう意味では新しいライトミステリの形の一つだと思う。

ちなみに冒頭。ニセコイズム筆頭の作品として僕たちは勉強をできないを挙げた。確かにニセコイズムは最悪だと思うが、それはそれとして僕勉の先生は最高であることをここに明記しておく。

2019年6月19日追記
五等分の花嫁90話を読んだishiika78だ。
この記事に書かれた情報の多くは既に古いものであり、新たに謎が明かされる度この記事に書かれたことが否定されている。
だがそれは真に五等分の花嫁がミステリであるあことの証左であり、それを現在進行形で楽しめてることを嬉しく思う。

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