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箒星人形の物語

 寂れたパブで赤い顔をした娼婦の女性が酒を飲み、隣に座る誰かに話しかけている。
「ねえハンサムさん。今日もいけてるわよ」
 相席者は返事をしない。当然である。彼は箒星人形だからだ。

 箒星人形。それは30年前に流行った人形でぜんまいを巻くとギターを弾いてくれる。それだけの人形だ。当然彼女の話に返事をすることはない。だが彼女はいつもここにきてポツポツと自分のことを話していく。
「見つけたぜ」
 その時、黒服の男が彼女の腕を物でも扱うように掴む。彼女の顔が痛みで歪む。
「離して!」
「店から逃げ出そうってのか!」
 男は抵抗する彼女を引っぱたく。彼女はよろけ、箒星人形に倒れ込む。男はさらに掴みかかろうとする。
 ポロロン。
 その時、ギターの音が響き、男の手を何者かが掴みとる。何者? 箒星人形だ。箒星人形からぜんまいが外れ、独りでに動き出す。これは奇跡の物語だろうか?
 いやなんてことない。一人の女性に恋した箒星人形の物語だ。

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