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『孤狼の血 LEVEL2』は血がいっぱいのバイオレンスエンタメ邦画だったのでおすすめです(感想)

だってみんな好きでしょ、血。

上映後の舞台挨拶中継を見て印象に残ったのは、主演の松坂桃李も白石和彌監督も繰り返し「この作品を見て元気になってください」と言っていたことだ。
オリンピックはスポーツで日本を応援する側面もあったそうだ。その是非はともかく、スポーツを見て元気を貰った人も確かにいただろう。そしてそれは出血量も同じである。暴力は元気が出る。出血量で日本を応援することができる。そんなメッセージを、『孤狼の血 LEVEL2』から受け取った。

あらすじ

ド腐れ野獣刑事vsド外道サイコヤクザ

かんそう

暴力的な映画をスクリーンで見た。それも邦画で、エンターテインメントだ。
かつて、日本にも暴力映画が世界一おもしろい時代があった。激突!殺人拳では千葉真一が極まった表情で人のチンポコをむしり取ったりしていたし、座頭市シリーズでは盲目の按摩が必殺の居合で死体の山を築いたりしていた。だがどういうわけか日本の暴力映画は徐々に衰退していき、千葉真一が人の頭蓋をドンする代わりにイケメンの俳優が廊下の壁をドンするようになった。
そんな中、『仁義なき戦い』のような昭和暴力映画のMEMEを継承し、暴力をスクリーンに復活させたのが前作『孤狼の血』だった。豚の糞を人に食わせる冒頭から始まり、生々しい暴力が全編にわたって繰り広げられる。
そしてその続編が『孤狼の血 LEVEL2』だ。そう、LEVEL2である。そう銘打ってあるように、明らかに暴力と血の量がアップしていてすごい。イケメン俳優の松坂桃李はもう完全に仕上がっており、和製ニコラス・ツェーといった風体だ。そしてなにより特筆したいのが、エンターテインメント性がパワーアップしていることだ。前作にあった生々しさや湿度のようなものは消えたものの、その分よりハードなバイオレンスが映画の骨子となっている。結果、ヤクザ映画というより韓国のバイオレンス映画のような雰囲気を身に纏っている。前作が好きな人はそこが好き嫌いが別れるところかもだが、自分はもうめちゃくちゃ琴線に触れてしまった。プロットもザックリ言ってしまえばマ・ドンソクの犯罪都市だ。イカレたサイコヤクザとキレキレの野獣刑事がド突き合うやつであり、血で血を洗う地獄絵図がスクリーンで繰り広げられる。
とにかく血の量がすごいし、殺ると決めたヤツはマジで殺るというビッと決まった殺る気に満ちている。これがマジですごいことで、誰もウジウジしたりしないし、悲しいことがあっても雨が降り注ぐなか、道路の真ん中で膝をついて…感情の発露…ワアアアアーなんてこともしない。出てくるキャラは村上虹郎や早乙女太一など大体決断的で、そして作品自体もそういうビシッとした殺意に溢れている。そしてその殺意をたった一人で体現したのが鈴木亮平演じるド外道サイコヤクザ、上林だ。

ド外道サイコヤクザ上林

ヤクザ映画において、「こん腐れ外道が~」と言ってるやつのほうがだいたい外道なのだが、これほどまでに腐れ外道なのは上林だけと思う。
こいつ、とにかく殺意がヤバい。殺すと決めたら100%殺すし、その殺し方もチョー猟奇的。しかもマーキングのように必ず目をくり抜く。もうただのヤクザやってるだけの連続殺人鬼だ。悪いものと悪いものを掛け合わせてもより悪くなるわけではないが、ヤクザと連続殺人鬼のかけ算はものすごく凶悪なキャラクターを生み出してしまった。言ってしまえばサイコパスの大友勝利だ。
しかし上林。こいつは本当に凶悪で最悪だし、近所に住んでいたら絶対引っ越すが、実はこいつなりに筋の通ったところのあるキャラなのだ。
親分に対する仁義は徹底的に貫き通すし、ヤクザによくあるような手練手管を弄せず正面からものを言う。そのせいか子分からもめちゃくちゃ慕われてるし、気合を見せた子分にはヤクをプレゼントする懐のデカさもある。そういう意味では広能昌三的であるとも言える。サイコパス広能昌三。最悪すぎる。
こいつがいるだけで画面が引き締まるみたいなキャラクターが一人いればその映画はだいたい成功だが、上林は間違いなくそんなキャラクターだった。シャツを羽織るちょっとした動作で威圧されるし、あまりに決断的な振舞いは爽快感すら覚える。
上林が前作で凄まじい存在感を見せつけた役所広司の不在を100%カバーしており、この作品の格をムルンムルンに上げている。ブレードランナーにおけるロイ・バッティ。レオンにおけるゲイリー・オールドマンだ。
まさにこの作品をレペゼンするようなキャラクターと言っても過言ではない。
では本作の主人公、日岡は上林に存在感負けしているかと言うと、それがまた違ったりする。

ド腐れ野獣刑事日岡

もう一目瞭然だ。ヴィジュアルだけですごくいい。パッと見ただけで主人公とわかるヴィジュアルはすごく強い。マッドマックス2のメル・ギブソンや用心棒の三船敏郎、ブレイドのウェズリー・スナイプスなんかもパッと見ただけで主人公とわかる。そして彼らに共通するのが、黒を身に纏っているということだ。
なんと本作の松坂桃李も黒を身に纏っている。男は黒に染まれということだ。もう黒ってのはそれだけでなんかかっこいいし、それを松坂桃李が身に纏うことで明らかにすごいことになっている。
松坂桃李と言えば元々爽やかでカワイイ顔立ちをしたイケメン俳優だ。特撮のヒーローを務めるくらい整った顔立ちをしている。実際前作での松坂桃李は彼本来の雰囲気を踏襲した、青くて若々しい刑事だった。
しかし役所広司演じる大上から孤狼ぶりを継承した結果、黒を身に纏い……こうなった。
この変遷は、香港を代表するイケメン俳優であるニコラス・ツェーの変遷を思わせる。

松坂桃李も最終的にこうなってほしい

あと、本作の松坂桃李がめちゃくちゃタフだ。精神的にはまだヌルいところがあるものの、肉体的にはすごいことになっている。完全に不死身の杉元とかジョン・マクレーンとかインドネシア人とかそういった系譜のタフさがる。
出血量の盛んな本作だが、うち七割は松坂桃李が出血していると言っても過言ではない。イケメン俳優がこれほど出血多量な映画もなかなかないだろう。

ド外道サイコヤクザvsド腐れ野獣刑事

ヤクザ同士の抗争を描いた前作に対し、本作はタフな男とタフな男の対決を描いている。
デッケェ男(肉体的にも、精神的にも)二人がぶつかり合うというジャンルは、恐らく本能的にアッパー系の麻薬成分が生成されるようになっており、見ているだけでドバドバと脳が多幸感で溢れてくる。酷い場合には幻覚作用もある。
それは今年公開された『ゴジラvsコング』や『モータルコンバット』といった男二人のド突き合いムービーがインターネットで異様な熱量を伴って支持されていることからも明らかだ。
前者は表題通りゴジラとコングという映画界を代表する二人の巨大怪獣がド突き合い、後者はスコーピオンとサブ・ゼロという二人の真のニンジャがド突き合っている。
本作『孤狼の血 LEVEL2』もその延長線上にある映画だ。日岡と上林というモンスター級にデケェ男二人が呉原というヤクザ都市でド突き合い、その過程で人がたくさん死んだり街がメチャクチャになったりする。
そういう本能的に素晴らしい映画が、スクリーンで見れるというのはやはり何事にも代えがたい幸せだ。
あと、男二人ってド突き合っていると顔が自然と近くなるんですよね。ホントそういうところだと思います。孤狼の血 LEVEL2でも日岡と上林の顔が近い。

孤狼の血 LEVEL2がヒットして欲しいなあという気持ち

『孤狼の血 LEVEL2』はとても贅沢で元気の出るような暴力描写がたくさんあるバイオレンス映画なので、時節柄難しいもののやはりヒットして欲しいという気持ちがある。
『孤狼の血 LEVEL2』がヒットすれば、金を出す鼻持ちならないアホどももさすがにムムッとなって『孤狼の血 LEVEL2』のような映画がたくさん増え、映画館のスクリーンが血で染まるというわけだ。
それは『パラサイト/半地下の家族』が日本でちゃんとヒットした結果、『パラサイト/半地下の家族』っぽいポスターが増えたことからも完全に証明されている。
映画館を血で染め、日本を応援…!そういうのが、今求められているんだと思う。少なくとも松坂桃李も白石和彌監督も、この時代に暴力的な映画を見れば元気になれると本気で信じてこの映画を撮っている。
そんなビシッと決まった暴力映画を、感染対策等しっかりキメてから映画館で見て欲しいと願う。

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