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時がつくる建築 リノベーションの西洋建築史【東京大学出版会】

時がつくる建築 リノベーションの西洋建築史【東京大学出版会】



加藤耕一 著
四六判/372頁/3,600円+税

建築の長い歴史からみれば,既存建築の再利用(リノべーション)はきわめて重要な建築的創造行為であった.西洋建築史にみられる数々の既存建物の再利用の事例や言説を読み解きながら,スクラップ&ビルドの新築主義から脱却し,より豊かな建築とのつきあいかたを示す.

新しい都市や建築の建設が主流であった20世紀の成長時代に対し,現代は人口減少や空き家増加な

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週末に現れるオンライン美術館HERALBONY #ZoomArtMuseum -JINENJO CLUB-展、開催。

週末に現れるオンライン美術館HERALBONY #ZoomArtMuseum -JINENJO CLUB-展、開催。

6月6日(土)〜6月28日(日)まで「HERALBONY #ZoomArtMuseum -JINENJO CLUB-」展示会の開催が決定しました。

おかげさまで、連日大好評をいただいているHERALBONY #ZoomArtMuseum 。すでに、700名以上の方々にご来館いただいております。

HERALBONY #ZoomArtMuseum とはウェブ会議ツール「Zoom」が提供するユニークな

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ことばの根っこをどう育てるか。

ことばの根っこをどう育てるか。

ゲスいことは書かない。

もしも若いライターさんに文章力向上についてアドバイスを求められたとしたら、ぼくはそう答えるかもしれない。テクニック以前の、身の置き場として。自分がどういうフィールドで切磋琢磨するかの話として。たぶんこれ、多くの人が思っている以上にたいせつな話だと思う。

たとえば、「あの人、書いてることはゲスくて賛同できないことも多いんだけど、文章はうまいんだよなあ。なーんか読ませちゃう

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「思う」について思うこと。

「思う」について思うこと。

これ、よそで言ったら大変なことになっちゃうね。

気のおけない友人たちとおしゃべりしていると、そういう話題に踏み込むことがある。SNSに書いたら間違いなく炎上しそうなこと。炎上するほど有名人じゃなかったとしても、たくさんの誤解を招き、軽蔑を招きそうなこと。そういう話題はなるべく避けて、ぼくらはSNS社会を生きている。

なんとなくこれ、「いいこ」を演じて、「いいこと」だけを言って、やればやるほど自

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1.コーヒーの話し言葉(パロール)

1.コーヒーの話し言葉(パロール)

 今あなたの目のまえに、黒々とした液体があります。湯気立つ香り高い飲み物Coffee、一杯のカップに現象化されるものの背後には、どのような歴史が持続しているのでしょうか?

 コーヒーがまだ商業生産物として扱われる以前、エチオピアの人々は森に生育している野生のコーヒーの木から赤い実を摘みとり儀式に使用しました。

 かれらはコカのようにコーヒーの葉を噛んで茶を作り、それを見たシバ王国の商人たちはコ

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2.コーヒーの書き言葉(エクリチュール)

2.コーヒーの書き言葉(エクリチュール)

 わたしは自分のことを、スペシャルティコーヒーにおける第二世代、サードウェーブコーヒーにおける第一世代のようなものだと思っています。

 「自家焙煎店」における第一の波、「シアトル系」における第二の波、「理念をもった個人店」がワインやクラフトビールのように個性を持った商品を提供する第三の波。第一の波には、職人という観念がありました。コーヒーという飲み物は気難しい職人が淹れるもので、コーヒー店は敷居

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3.コーヒー諸学の危機と超越論的現象学

3.コーヒー諸学の危機と超越論的現象学

 コーヒーをひとくち飲みます。そのコーヒーはどんなコーヒーですか? 美味しいコーヒー、不味いコーヒー、苦いコーヒー、酸っぱいコーヒー、熱いコーヒー、冷めたいコーヒー、そのコーヒーは本当にあるのでしょうか? ある! なぜならわたしは今コーヒーを飲み知覚したのだから、それはある。

 我コーヒー飲む、故にコーヒーあり。

 我々は感覚に依存して物事を認識しているが、はたしてそれは認識したとおりに存在し

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4.コーヒーと戯れる

4.コーヒーと戯れる

 ―先生、お借りしていた本お返しします。ありがとうございました!
 ―虹は何色かね?
 ―えっ? 七色、ですか
 ―フランスやドイツでは五色だよ
 ―そうなんですか?
 ―言語の語意により、色の分け方も変わる

 先生は机の上のA4用紙をひっくり返して書きはじめた。いつもの調子だ。

 聴覚映像/概念
 ☕/コーヒー

 ―言いたいことは分かるかね?
 ―ええ、なんとなく分かります
 ―君はいま〈

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『神々は渇く』あらすじ

『神々は渇く』あらすじ

 歴史を書くのは、過去を脱却する一つの方法である。
 ゲーテ

 もちろん、読むこともだ。

 ゆっくり二週間ほどかけて、アナトール・フランスの『神々は渇く』を読んだ。

 エミール・ゾラと共に生まれマルセル・プルーストと共に死んだこの作家との遭遇は幸福であった。たちまちフローベールやロマン・ロランを飛び越え、自分の中でフランス文学最高傑作の棚に入った。

 しかし、悲しいかな。Wikipedia

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永遠の父親〔どうして校則を守らなくちゃならないの? その2〕

永遠の父親〔どうして校則を守らなくちゃならないの? その2〕

 歴史とは人間が人間となる場である。

 人間は、反抗の行為によって進化を続けてきた。良心や信仰の名において権力者にあえて〈ノー〉と言った人びとがあったからこそ、人間の精神の発達がありえたのだが、そればかりではなく、人間の知的発達も、反抗の能力にかなっていた―新しい思想を抑圧しようとする当局者や、昔ながらの考え方を守り、変化をナンセンスときめつける権威者の反抗の能力に。

 反抗の能力が人間の歴史

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5.ディコンストラクション

5.ディコンストラクション

 ―降参です! 先生、僕には『声と現象』が読めません。僕に理解できたことはあのポストモダンという文体こそ、〈差延〉なんだということです
 ―ふむ、あれはデリダの混乱だ。それで君は、あきらめるのかね?
 ―まさか! あきらめるわけにはいかないから、こうして先生に教えを乞うのです。今日はひとつ真面目に答えてくださいよ、先生!
 ―真面目とは? 君の言う真面目は自己に対してかね? それとも社会に対して?

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6.令和元年のホットコーヒー(コーヒーの社会学)

6.令和元年のホットコーヒー(コーヒーの社会学)

 日本人とコーヒーの接触は、ペリー来航以来、長崎や横浜などの貿易港に開店した、西洋料理店のメニューの一部で出されていたものにあるようで、文明開化をみても、そこにはまだ、コーヒー店の存在はありません。

 日本で、最初の喫茶店は、一八八八年に東京に開店した『可否茶館』とされていますが、これがいかにおくれていたかというと、日本とおなじように近代化のおくれた、ロシアで、一八八〇年に出版された『カラマーゾ

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7.コーヒーの詩学

7.コーヒーの詩学

 わたしに一遍の詩が書けるのか?

 純粋なコーヒーの〈概念〉は歴史の内に生成されるが、資本主義社会の内で〈概念〉は構造に組み込まれ、記号となって通過し、消費される。

 1. スペシャルティコーヒーはイデオロギーであると仮定する
 2. あるイデオロギーは、他のイデオロギーとの差異によってひとつのイデオロギーとなるのだから、あるイデオロギーには必ず対立する概念がある。
 3. スペシャルティコー

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8.コーヒーの美学

8.コーヒーの美学

 常々気になっていたことであるが、〈美味しい〉という日本語は〈美〉と〈味〉から成る。そのうち〈美〉は悟性に、〈味〉は感性に、おもに属するものである。

 スペシャリティコーヒーは、コーヒーの〈味〉を感性的に論じることであり、これからわたしが論じることはコーヒーの〈美〉についてである。

 『判断力批判』を手元に置き、わたしなりに論じよう。

 人間は、〈事物〉を感じ、考える能力を自然に授かり生まれ

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