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2021.4.10-18/伊勢滞在メモ/三原聡一郎

初めてのお伊勢参りはワーケーション。だんだん頭の中で時と場所がふわっと繋がり、先々で気になる言葉を発見する旅だった。ある一つの日本の姿として神話の世界から近未来まで同時に実感することに。2011年以降、制作のきっかけとして、空気や水のメタファーで語られる母国を考えてきたアンテナも動きつつ。

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これまでの滞在制作でも、まず最初は興味の赴くままに足を伸ばしていたし、今回は特に滞在メインな贅沢な機会、目的定めず色々な軸を交差させながら過ごそうと向かった。まず冬に予定していた滞在はパンデミックの影響で春になり、温かくなってきたので、ふと思い立って人生初の輪行をしてみた。外宮、内宮、神田、御園、二見そして朝熊の東西に魅かれるポイントが20km程に納まる。その圏内には幾つもの神宮が街中はもちろん山中や川や海沿いに点在している。あとは天気と現地で得られた感覚を元に完全に流されてみようと思った。

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125の社から構成される神宮巡りに加えて、神域臨む山歩き、伊勢ならではの美味しさも味わいたいし。あと旅先で映画館に寄り道するのは好きだ。雨の日なら外宮のせんぐう館、倉田山の3つの博物館や神宮文庫へ。おかげバスの巡回ルートで経由して市内一円まわれる。ただ少々の雨ならカッパを被っての参拝やトレッキングが思った以上に心地よかった。更に遙宮にもワーケーション割引!でトヨタレンタカーさんを利用して足を伸ばし、伊雑宮、瀧原宮そして旧南島町の芦浜湖を臨む山も歩んだ。

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滞在中は次に向かう場所を選ぶ為に地図を眺め、神宮、他様々の営業時間、日の出日の入、最終的には干満も調べたりして個人的な地理や時刻のメモや走り書き、いつもはエスキース帳に留めておくのだが備忘録的に清書?してみた。10日もの滞在をお世話になったのは創業明治30年の紅葉軒さん。マップには充実の近隣エリアも反映。もし滞在制作として展覧会があったとしても僕はこんな感じでスタートしている。

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旅館に泊まるのは久しぶりで厚みに歴史を感じる宿帳など素敵な佇まい。毎日、小鉢まで変わる朝食が楽しみな宿でした。日別朝夕大御饌祭に興味があることをお伝えしていたので紅葉軒さんは外宮の北御門に近いロケーション。朝7時に朝食をお願いして半過ぎには日課のごとく向かってた。運良く徒歩圏に滞在を充実させる要素が色々揃っていてワーケーション環境として最適化しているように感じた。ただし旧来の商店街と思われるアーケードは寂しいかも。まず日々湧き出る?を調べられる市図書館(神宮や伊勢文化関連の2つの書籍棚がカウンター前に有)。朝以外は外食なのでスーパーのぎゅーとらコア店、お総菜が美味しい。ハマったのはミエマンのさいみそ(とキュウリ)。隣のとげつ堂はベーカリー朝6時開店。サンドイッチの種類が豊富で美味しくて均一250円。もう片方のお隣さん常磐湯越えて玉城方面に少し進むとKK山本サイクル。ロードやクロスバイクを扱っていてグッズも豊富。ディスクブレーキの不調をさっくり直してもらい保冷ボトルを入手。街の映画館新富座や後述する居酒屋さんも近い。ワーケーション滞在者に頂けるみたすの湯フリーパス(タオル付で荷物軽減できて助かる)も自転車なので度々寄って、滞在中に玉城は朽羅神社から二見そして内宮を結ぶ三角形にぐるぐると走っていた。外宮内宮前では伊勢角屋麦酒がタップで飲めるのでよく休憩。市内一円の飲食店に繋がれてたらなと。そこのあそこが、この裏で繋がるのかと断片的な地図が繋がって慣れてきたところで、おでこの皮が剥けはじめたことに驚く。

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あれこれ回りつつも今回の滞在がこれまでと異なるのは、大御饌際の外宮はもちろん同じ場所にあえて何度も足を運んでみたことだ。殆どの場で飛行系の飛来音もしくは人の喧騒以外がない環境なので明け方、朝、昼、夕刻の音環境が光と陰と共に面白かった。滞在中は晴天から豪雨そして何と雹まで降るような天候だったので、同じ場所の異なる表情を短い滞在ながらも感じることができた。昨年、水循環をテーマに空気中の水分を三態として顕在化する無主物という作品を制作した。存在する場の空気の条件で変化してゆく水の表情を抽象化していくときに、何を匂わせるか?その先のイメージをもらったような気がする。一見、同じ状態と目に映る「系」のダイナミクスに、人間の知覚と想像力の焦点を合わせる方法に思いを巡らせるのは楽しい。雨上がりは社に敷き詰められた御白石と清石の境界が浮かび上がってくる。正宮のとある特定の榊と紙垂のかたちを記憶し日毎の風と湿度と共に眺めていた。人工物を水豊かな惑星で残すこと。何か微細なことに意識が向かうとその対象には初めて聞く響きの言葉が存在している。

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神宮の歴史も調べてみると、20世紀に加わった別宮があることにも気づく。大小の玉砂利と森の土に落ちる雨音が異なって素敵に響いていた倭姫宮は1923年創建。自分の持つ神宮のぼんやりだったイメージが具体的な体験を基に少し晴れてゆく。それぞれの時代の信じる総意が立ち現れて残されていった経緯を想像する。その歴史と継承を現代に向けて表している徴古館、農業博物館、そして神宮美術館にも通じる。朝夕日別大御饌祭の祭具や関連映像(常時上映は唯一か?)が見れる徴古館に吉田初三郎描画の鳥瞰図も。鳥羽から宮川が壮観に描かれていて街を走っていた後だったので時間かけてみてしまった。自転車乗りには外宮から内宮を繋ぐ御木本道路、御幸道路、そして古市街道の起伏がもうちょっと欲しい笑。内宮から神田、そして御園、二見につながる辺りは五十鈴川流域に拡がる田園風景を走るのが気持ちよい。鳥瞰図のように今も大きな印象の直線や面が風景にあまり現れない。現在のバス路線はかつて鉄道だったり設置跡の残るケーブルカー、宇治山田空襲も含めて戦争を経て大きな変化があることを知る。宇治岳道からも臨んだ朝熊にも寄り道して彫刻家橋本平八、詩人北園克衛の兄弟が住んだ街並みを流してみたり。二見の潜島など道を見失って辿り着いた場所も。

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摂社末社所管社他で印象に残るのは、藁葺きが重厚な御塩殿神社、塩を扱った作品はいつかつくってみたい。音無山の音成神社は洒落た響き。音の芸術に意識があるというだけで登ってみた。丘を越えると麦畑にそびえる朽羅神社の存在感、2つ別宮のある伊勢市外の遙宮(とおのみや)にも足を伸ばせて良かった。特に内宮の原形を彷彿させる瀧原宮と苔むす多岐原神社、佐美長御前神社と月讀宮の4つの並び。あさくまと読む朝熊神社などなど。正宮で思いがけず出会った神馬牽参。滞在中に1, 11, 21の日がくるなら、朝8時にお参りへ。朔日にはゆっくりと歩いてきて鳥居前でお礼を。これはかなり可愛い。

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その場にいると何かある時は人も集まり留まるので気配で色々と気づける。そして地元の方と立ち話をする機会も。「月讀見宮はいったかね?いい神社だよ。弟さん祀られているよ」なんていう距離の近い会話から神様や神話についても調べるきっっかけに。天照大御神も豊受大御神も女神と解釈されることを初めて知って、何も知らないで来たのだなと実感。さらにその前の時代だと独神(ひとりがみ)など、興味深い概念がいくつも。現代の性やジェンダーの感覚とは異なった時代に描かれた概念とは?いつかこのようなテーマでの制作をする時に向けて引き出しにしまっておこう。神話と近代、日本という概念が形成される起源に繋がる部分は制作の根底で意識するので、帰宅後、記紀と津田左右吉を読み始めてみた。まずは古事記でもちろん現代語訳。津田黄昏という筆名での芸術に関するテキストも興味深い。

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10日の滞在だと一体どのくらいなのだろうか?水の移動の意識している自分自身にも存在する。よく滞在制作をしていると身体の水分がどのくらい現地で更新されているのか想像する。体内の水分が現地で一回りするとなんだか知覚的にも順応し始めてきたような感覚を覚える。単に美味しいものにありつきたい理由付けだが、向かった先では現地のものをなるべく吸収してサイクルを早めるように心掛けている笑。滞在中は超朝方生活だったのでぎゅーとらで宿戻る前に調達して早寝スタイルだったが、やっぱりいくつかのお店には足を運んでみた。そういえば大御饌のメニューには、現代の食事から想像可能なものも、また新鮮な響きのものもあった。中でもぎゅーとらでも見かけた「さめのたれ」(乾鮫・ひざめ)は気になっていた。イラギと呼ばれるアオザメなど鮫が伊勢で食べられている。湯豆腐、ふくだめの流れで一月屋さんで頼む。独りで立ち寄っても若大将が隣席の常連さんと繋いでくれて美味しいネタ収集。厨房で包む様子眺めるのも楽しいぎょうざの美鈴さん、焼き加減もタレも絶妙な焼き鳥あけぼのさん美味しい。とげつ堂はサンドイッチだと。少し離れて駅北側にうどんの豆屋さん。てんぷらも美味しい。

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直接話せた「なかむら」さんの大将は釣人でもあって、なかなか出回らないネタを出すとのことでワーケーション最後の週末に合流した家族と共に。「大将にお任せで」「まずオニいきましょか」。鬼虎魚が生洲から掬われて毒を含む部位を切り落としてから捌かれてゆく。生命力の強いオコゼの頭付き活造りから骨せんべいに煮付けを時間と共に香りが本当に拡がってゆくひれ酒でじんわり堪能。一番の旬はこれからの6月と聞くだけで再訪したくなる。関西からだと特急で数時間。次は祭典の時にあわせて月次祭か、もしくは秋以降の太陽の低い頃の神宮の姿も気になるので年末の月次祭か。まわれなかった鴨神社、神前神社にも。今回のワーケーションで得たことがこの先繋がるように。2033年の前にも後にも度々訪れてみたいと思っていたら、自宅近くの石清水八幡宮の境内に神宮遥拝所があることに気づきお参り。個人的には定住せずに移動し続けたいので2025年頃に関西から離れるきっかけをぼんやり探し中。引き続き日本を意識的に考えるならまた外に出るか?もしくは伊勢に住まうのも一案かなと。

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それはさておき直近の新作制作として、KYOTO STEAM という企画で、ここ数年取り組んできた空気についてまた別の角度から取り込みます。気象や気体の成分の定量的なデータに基づき、香りや日本の言葉でそのあわいを繋ぐ試みを始めます。来年明け頃の発表。今回の伊勢滞在で得られた感覚をふつふつと意識したことを、芸術として実装してゆく挑戦的な機会になると予感しています。

三原聡一郎(Mihara Soichiro) 
http://mhrs.jp/

【滞在期間】2021年4月10日〜4月18日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)