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45 味わう時間

ついつい忘れてしまうな、時間をかけて味わうこと。急いではいけない時間のこと。

この間、作家の西加奈子さんがVOGUEのインタビューを受けている企画動画を見た。本棚を見せてくれて、「ここに並んでいるのは私のファンの作家さんの本です」と本の紹介をしていた。

一冊の本を取り出して、「この、"秘密にしていたけれど、1941年の秋、マリーゴールドはぜんぜん咲かなかった"という一文を読んだ時に、落雷に打たれた」とトニ・モリスンの『青い眼が欲しい』を紹介していた。恥ずかしながら僕はこの本を読んだことがないんだけれど、西さんがその書き出しを読み上げているのを聞いただけで、わあ、いいな! と思って読みたくなった。

それで早速仕事の帰りに本屋さんに行ったのだけど、どの本屋を回ってもその本は置いてなかった。三件目の古本屋さんを出たあたりかな、見つけられなくて少しがっかりしていたのだけど、それより、小説というのはあんなに読むのに時間がかかるのに、どうしてこう人を魅了させるのだろうと、小説の魅力のことを思っていた。

例えば僕はたまにYouTubeを1.25倍とか1.5倍とかの速さで観る。設定が出来るんです。せっかちなようだけど、情報だけ知れれば良いものはとにかく速く理解したいから。

情報系の本や記事もそう。目次と、章の書き出しを見て内容をざっと理解したら「読んだことにする」ということも多々ある。

そんな風に加速に加速を重ねる反面、小説を読む時は、誰も邪魔しないでくれと言わんばかりに、本と自分だけの世界を作ってじっくりゆっくり読む。噛み締めたい。たまに良い文章を見つけると、ニヤニヤ笑っちゃったり、ひとり小さな声で音読してみたり、写真に撮ってスマホに保存したり、一行一行をとても貴重に感じている。

小説の他には映画がある。部屋を暗くして、パソコンの大きな画面で観る。お菓子やオレンジジュースをそばに置いて、映画の世界に浸る。

映画も気に入ったシーンは戻って何度も観たりする。特に演技が上手いシーン、演出が上手いシーン、魅力的なカットの時。これもスマホで動画を撮って保存したりする。本当に何気ないシーンでも、役者さんの表情とかが素晴らしいと何度も観たくなるものだ。

急ぐ時間とゆっくりとした時間。命には限りがあるから、急ぐことは合理的かもしれないけれど、ゆっくりとした時間の中には美しさがある。小説や映画。それらに触れている時、僕はきっと正しさじゃなく、美しさの中にいる。味わう時間の良さは、そういうところにある。

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