見出し画像

35 ストーブの代替わり

うちの電気ストーブが壊れた。今の部屋に引っ越して来てからずっと使っていたものだ。ある朝スイッチを回すと、うんともすんとも言わず冷たいままなので「死んでしまった」と思った。

予兆があった。11月はじめ頃だろうか、押し入れから電気ストーブを出してスイッチを久しぶりに回したら、ジーっと変な音が出た。一回鳴るというのではなくずっと鳴り続ける。本当はその時点で使用を中止しなければいけないのかもしれないが、寒くてしょうがないのでそうも言ってられない。試しにしばらくつけておくと、暖は問題なく取れるようだし、音もたまにやんだりする。

それから2週間ほど使っていたのだが、あっという間に最期の朝が来てしまった。ストッパーのよく効いたダイヤル式の大きなスイッチは、回すと体全体を振動させて乾いた金属音を鳴らした。ガチャンガチャン。この音には愛着がある。回すたびに大げさな音を立てて、ヒーターを赤く灯していた。不器用な人の優しさみたい。それがもう、音だけになった。ガチャンガチャン。

そうして、完全に動くなくなったのを確認してから、病床で亡くなった人の点滴を外すように、電源コンセントをゆっくり抜いて差し上げた。長い間お疲れ様でした。

それから2、3日後、新しい電気ストーブが来た。前のより一回り小さい。まさにおろしたてという感じで、部屋から浮くほど白い筐体。またしてもスイッチはダイヤル式。何気なく回してみると、カチャンと新しい音がした。

気に入ってくださいましたら、ぜひお気持ちを!