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47 ズルい芸術

いろんな褒め言葉があるけれど、「ズルい」というのも褒め言葉のひとつ。ズルさとは、カッコよさ。

以前から作品作りに参加させてもらっているシンガーソングライターの女の子と、この間Web制作のことで打ち合わせをした。

秋葉原駅の近くのカフェ。オシャレでゆったりとしたスペースで、子連れのママさん達が集まっていたり、スーツを着た男の人がパソコンで仕事をしていたり。

ランチの時間だったので、サラダランチを頼んで(大量の野菜!)、パンや紅茶なんかを頂きながら仕事の話をしていたのだけど、その女の子が話の流れで「芸術ってズルいですよね」と言い出した。「どんな作品でも、線一本引いただけのものでも、『芸術』って言ったらもう芸術になっちゃう」と言っていて、それが面白かった。

確かに「これのなにがそんなにすごいんだろう」と、正直わからないような時ってある。もちろん経緯とか作者の意図とか、ちゃんと意味があるんだろうけど、知らないと汲みとれない時はやっぱりある。

ずっと前にMV制作のために何かアイディアがないかと思って調べ物をしていて見つけた動画のことを思い出した。背の高さの2、3倍はありそうな大きな紙を、帆を貼るみたいにピンと壁のように立てて、ひとりの人間がそれを破って通り抜けるというもの。

観衆が見守る中、作者の方が思いっきり腕を振り下ろして、バリバリ! バリバリ! と大きな音を立てて破る。大きく空いた穴を通って作者は向こう側へ通り抜ける。その瞬間、観衆の拍手とともに激しいカメラのシャッター音。そこはとごかの美術館で、その作者の方は村上三郎さんという日本の芸術家さんであった。

僕はこれをYouTubeの動画で見つけたのだけど、自分がMVで表現したいこととマッチしていたので、なんだかわかるようなわからないような、簡単にわかってはいけないような。

説明がない。表面上だけではない。わかるようでわからない。それをそのままの状態で良しとする。いろいろと考えていたら、だんだんと「芸術はズルい」という言葉の凄みが染みてきた。

中身を見たら何もなかった、となるとそれはズルいというかただの詐欺だけど、あきらかに深みがあるのに、それを敢えて言い切らない。そういうカッコよさ。「ズルい」というのは、芸術家にとって最大の褒め言葉なんじゃなかろうか。

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