キャプチャ

あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう(前提知識編)

はじめに

「病院・介護施設のはじめての外部環境分析」と題して、病院・介護施設の外部環境分析の方法について解説しています。(今後は、毎週火曜日に更新していきます。)

これから医療介護経営に関わる方、はじめての外部環境分析に挑戦したい方に向けて、出来るだけ分かりやすく解説していきます。

今回は、「あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう」と題して、各介護サービス事業の利用者を予測する方法について解説していきます。

どんな時に利用者数を予測するのか

画像5

そもそも介護サービスの利用者数を予測するときはどんな時でしょうか。私は仕事柄、年中、外部環境調査をしているのですが、改めてどのようなときに調査をするのかを整理してみました。

・介護施設の経営戦略を検討するとき

・建て替え等の中長期的な大規模投資を検討するとき

・介護施設を譲渡する、又は譲受するとき

・資金の調達、又は融資をするとき

今回は、このような業務に関わる方をイメージして、記事を作成することにします。ほかにもこんなケースがあるよ!というものがあればぜひ教えてください。

地方自治体も利用者数を予測している

市役所

地方自治体(市町村と特別区)も介護サービスの利用者数を予測することがあります。介護保険事業計画を策定する時です。

介護保険事業計画は、地方自治体が策定する介護保険事業に関する計画です。3年ごとに、3年を1期として計画を策定します。介護保険事業計画に基づき、介護保険料や、介護事業の整備計画等が設定されます。介護事業者にとっては非常に重要な計画になります。

最新版は、第7期介護保険事業計画(2018~2020年度)で、2020年1月現在は、第8期介護保険事業計画を作成中です。

各市区町村サイトで公開されていますので、関わりの深い地域の介護保険事業計画を見てみると面白いのではないかと思います。

介護保険事業計画

市町村や特別区ごとに計画の体裁は異なりますが、大筋は同じテーマで書かれています。厚生労働省から指針が出されており、その指針に基づいて、各市町村・特別区にて作成しています。

例として、さいたま市の介護保険事業計画の目次を見てみましょう。「介護保険サービス事業量の見込み」があります。

介護保険事業計画目次

市町村と特別区が、介護保険サービス事業量の見込みを立てるのは、介護保険サービスにおいて市町村と特別区が重要な役割を担っているからです。

介護サービス事業者に支払われるお金の流れを見ると、市町村と特別区の役割が分かります。

介護サービス事業者に支払われるお金

介護サービス事業者は、利用者から1~3割のサービス料を受け取り、残りの9~7割のサービス料は介護保険から受け取っています。この介護保険の運営は市区町村・特別区が担っています。

また、介護保険は、5割の公費と、5割の国民負担(40歳以上が対象)で成り立っています。そして、このうち、65歳以上の方からいくらお金を徴収するのかを決定しているのも市区町村・特別区になります。

このように市区町村・特別区は、介護保険のお金の管轄をしている為、そもそもどのくらい介護保険サービス事業を行う必要があるのかを検討しています。

地方自治体は、どのように利用者数を予測しているのか

画像7

具体的に、どのように介護保険サービス事業の利用者数を予測しているのかは、介護保険事業計画に掲載されています。こちらもさいたま市の例を確認してみましょう。

介護保険料算定の流れ

介護保険料算定の流れを記載したページの一部抜粋です。

地方自治体が介護サービスの利用者数を推計するまでの流れは、以下の通りです。

① 将来高齢者人口の推計

将来的に高齢者がどのように増えていくのかを推計します。

② 性別・年齢別の認定者率

介護保険サービスは、高齢者の中で要支援・要介護認定を受けている方が対象になります。そのため、高齢者のうち、どの程度の確率で要支援・要介護認定を受ける人がでてくるかの確率を推計します。

③ 将来認定者数の推計

①と②から、将来、要支援・要介護認定者数が何人になるかを推計します。

④ 施設・居住系整備見込み

※少しややこしいので、説明を後回しにします。

⑤ 施設・居住系サービスの利用者数の推計

要支援・要介護度別の各種サービスの利用率を計算し、③の認定者数と掛け合わせて、介護サービスの中でも施設・居住系サービスの利用者がどの程度見込まれるかを推計します。

⑥ 在宅サービス利用者数の推計

③の認定者数から⑤の利用者数を除き、残った認定者の中から在宅サービスの利用者がどの程度見込まれるかを推計します。


市町村や特別区は、以上のような流れで、介護サービスの利用者数を推計していきますが、1点、課題となる部分があります。

「⑤ 施設・居住系サービスの利用者数の推計」で、今ある定員数以上の利用者数が見込まれた場合は、施設を増やすことを検討しなければいけないのです。

施設を増やす場合には、施設を立ててくれる事業者を見つけなければいけませんし、市町村・特別区としても補助金や保険料等コストも増えることが想定されます。施設を整備するというのは大変なことです。

高齢者が増えている今、地域の施設の定員数以上に、利用者数が推計されることはよくあります。推計された利用者数の分だけ、純粋に施設数を増やせたらいいのでしょうけれども、そうもいきません。整備可能な範囲で定員数を増やして対応することになります。定員数から漏れてしまった利用者は、施設・居住系サービスの利用はできませんので、代わりに在宅サービスを利用してもらうことになります。

このような、施設の整備計画を検討し、「⑤ 施設・居住系サービスの利用者数の推計」の上限を決定するプロセスが、「④ 施設・居住系整備見込み」になります。

推計に使われる基礎データはオープンデータとして公開されている

データを使った会議

全てではありませんが、市町村や特別区が利用者数の推計に使うデータは、介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)として公開されています。

介護給付費等実態統計は、支払い済みの介護給付費明細書等を集計し、厚生労働省が毎月公表しているデータです。介護サービスの受給者数や、1人当たりどれだけの介護費がかかっているのか、どのようなサービスが何回程度使われているのか等、介護事業に関わる情報が開示されています。

介護給付費等実態統計を参考にすることで、私たちも介護サービス利用者数の推計を行うことができます。

これまで利用者数はどのように増えてきたのか

年間受給者数の推移

将来推計を行っていく前に、これまで、どのように介護サービスの利用者数(受給者数)が増えてきたのかを確認してみましょう。

年間実受給者数の推移を見てみると、2007年には4,675千人だった介護サービスの利用者数は、2018年には7,475千人(約1.6倍)に増えていることが分かります。しかし、一方で2017年から2018年にかけては、それ以前の伸び率と異なり横ばい傾向となりました。

介護サービス、介護予防サービス、総合事業サービスに分けてみてみるとどうでしょうか。

年間受給者数の推移(サービス種別ごと)

直近だと、介護サービスの利用者が最も多く5,179千人。次いで、総合事業サービス1,276千人、介護予防サービス1019千人と続いています。

2015年度介護保険制度改正に伴い、介護予防訪問介護・通所介護は予防給付から、市町村が運営する「介護予防・日常生活支援総合事業(新しい総合事業)」に移行しました。その結果、予防サービスの利用者が減少し、総合サービスの利用者が増えました。直近の2018年の実績では、総合事業の利用者数が、介護予防の利用者数を上回る結果となりました。

今後、介護利用者は増えていくのか。次回以降で解説していきます。

終わりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

今回は、「あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう(前提知識編)」として、介護サービス利用者数を予測するための前提知識について解説しました。

次回から、より具体的に、あなたの地域の介護サービス利用者数を予測する方法について解説していきます。


最近、少しずつ読んでくださる方が増えてきて、とても嬉しく思っています。みなさんの貴重な時間を頂いているわけですので、読んでよかったと思っていただけるような、記事を提供できるように努めていきます。

こちらの記事を含めて、「病院・介護施設のはじめての外部環境分析」シリーズでは、病院・介護施設の外部環境分析をご紹介しています。興味を持ってくださった方はフォローいただけると嬉しいです。

また、Twitter、youtube、tableauでも情報発信をしています。それぞれ始めたばかりで、まだまだこれからですが、医療介護データ研究所を応援してくださる方がおりましたら合わせてフォローいただけると嬉しいです。

それぞれのメディアは以下のように使い分けていきます。

note

医療介護のデータ活用をするための教科書的な記事を提供していきます。時事ネタというよりは、昔の記事を読んでも、学びになるようなストック型の記事を提供していきます。

Twitter

医療介護×データをテーマにしたリアルタイムな情報を共有していきます。ホットなニュースの共有やコメント、noteやyoubube、tableauの更新情報等提供していきます。Twitterでは、タイムリーなフロー型の情報を提供していきます。

youtube

noteで記事を書く中で、動画化したほうが、より分かりやすく伝わるタイプのデータがあるのではないかと思い始めています。まだ実験中なのですが、noteの記事をより伝わりやすくするためのツールとして、またデータの面白さを知っていただくためのツールとして利用していきたいと思っています。

tableau

だれでも使える医療介護データ研究用のプラットフォームにしていきます。今は、私の個人的なデータ研究用プラットフォームになっています。データ分析をしようと思うとデータを収集・加工するフェーズに膨大な時間がかかります。でも、本当はデータの解釈や、データの活用に時間を使うべきです。tableauでデータ公開することで、皆さんのデータ分析がもっとはかどるようになれば本望です。noteで紹介するグラフはtableauで公開していきます。基本的には、noteの更新前にtableauを更新しますので、tableauをフォローいただくと、noteの内容を先取りできるかもしれません。

以上です。

次回もどうぞ宜しくお願いします!

記事を読んでくださりありがとうございます。読んでいただけることが励みになります。もしサポートいただけましたら、研究活動に使わせていただきます。