診療報酬を簡単に、わかりやすく解説
この記事のポイント
・診療報酬のキホンが分かる
・診療報酬の役割が分かる
・診療報酬改定の流れが分かる
・困ったときに助かる知っトク情報が分かる
今回は診療報酬を私なりの視点で簡単に、わかりやすく解説します。
新しく医療介護業界に関わることになった方、診療報酬について今年こそ理解したいと思っている方の参考になれば幸いです。
診療報酬のキホン
診療報酬とは、医療機関が患者さんを診療したときに受け取る報酬の事です。診療報酬は、公定価格として国が定めています。
医師会の図解が分かりやすいです。
診療報酬は、全額を患者さんが払うわけではなく、患者さん3割、保険7割で負担されています。
そしてその診療報酬を原資として、医療機関の経営が行われています。
診療報酬は、基本的に2年に一度改定されます。
医療機関の経営の原資となる大事な収入だからこそ、定期的にこまめに調整していく必要があります。
診療報酬の3つの役割
診療報酬には、医療機関の収入という直接的な機能以外に、3つの役割があると考えています。その役割をご紹介します。
■1 政策誘導としての役割
一つ目の役割は、政策誘導としての役割です。
医療は国民を支えるインフラですが、公的な医療機関は全体の20%程度に過ぎません。民間が運営している医療機関が全体の80%です。
そうすると、国としての医療の方針を決めたとしても、それだけでは、なかなか現場を動かすことができません。
そこで、診療報酬というある種の金銭的なインセンティブを付けることによって医療機関全体を動かしていきます。
例えば、介護医療院への移行定着支援加算があります。(厳密にはこれは介護報酬ですが、考え方の例としてわかりやすいので取り上げます。)
移行定着支援加算は、「介護療養型医療施設」等を、「介護医療院」という別の施設に移行させた場合に算定することができる加算です。
介護医療院への移行を促したいからこそ、「移行定着支援加算」というインセンティブを付けています。
移行定着支援加算は、利用者1日1人あたり93単位(930円)が付きますので、かなりの増収になります。
■2 医療の質を均一化する役割
二つ目の役割は、医療の質を均一化する役割です。
診療報酬は一定の要件を満たさなければ受け取ることができません。そのため診療報酬で設定する要件によって、医療の質を均一化することができます。
例えば、地域包括ケア病棟入院料の要件は以下のように決められています。
看護職員の配置基準や、看護師の比率に関する要件もあれば、「適切な意思決定支援に係る指針を定めていること」という指針の作成の要件もあります。
このように、どの医療機関でも、各自が掲げる機能に必要な体制が整うように、診療報酬の要件が設定されています。そのため、医療の質をある程度均一に保つことができます。
■3 医療機関の運営をしやすくする役割
三つ目の役割は、医療機関の運営をしやすくする役割です。
2020年報酬改定では、働き方改革が大きなテーマとなりました。その中で、医師や看護師の負担を軽減する為に、補助的な人員を配置した場合の加算の点数が上がりました。
このような加算は、医療機関の運営をしやすくする役割を担っています。
以上の通り、診療報酬は医療機関の収入という直接的な機能以外に3つの役割を持っています。
診療報酬改定の流れ
基本的に2年に1度行われる診療報酬の改定は、医療機関はもちろんのこと、周辺のヘルスケアビジネスにまで大きな影響を及ぼします。
そのため、診療報酬改定の流れを知っておくことは大切です。
2020年の診療報酬改定がされたばかりではありますが、改めてどのように改定が行われるのか、整理していきたいと思います。
診療報酬改定の議論は、改定の約1年前からスタートします。
主な登場人物は3者です。
■中医協(中央社会保険医療協議会)①
中医協では、報酬改定の1年前から課題の整理や調査をスタートします。
詳細の議論は、国の予算や基本方針が決まった後に行いますので、それまでは事前調査を行い、改定に向けた下準備を行います。
■内閣
診療報酬に関する内閣の大きな動きは2つです。6月の骨太の方針の決定と、12月の国の予算の決定です。
6月の骨太の方針は、政策の基本骨格とも言われています。骨太の方針に従って、各省庁は政策を作り上げていきます。診療報酬の方向性もこの骨太の方針に従うことになります。
骨太の方針で決まったことはとても重要です。
2020年診療報酬改定のホットテーマである、医療従事者の働き方改革も、オンライン診療の推進も2019年の骨太の方針に記載されている項目です。
12月には国の来年度予算が決定します。それと同時に、診療報酬全体の改定率が決まります。
12月に「細かいところは任せるけど、全体としては+●%に抑えてください。」という国全体の視点での数字が決まりまるということですね。
■社保審(社会保障審議会 医療保険部会・医療部会)
社保審では、6月の骨太の方針を受けて診療報酬改定の基本方針を議論します。そして、12月に基本方針が決定します。
2020年診療報酬改定の基本方針はこちらです。
ここまでくると、報酬改定の主要項目はかなり具体化されていますね。
■中医協(中央社会保険医療協議会)②
12月に内閣から出る診療報酬の改定率と、社保審から出る基本方針を受けて、中医協で詳細の議論を行います。
詳細の決定は2月の上旬ですので、実質1か月ちょっとで詳細を決定していきます。
そのため、1年前の4月からずっと準備を進めているわけですね。
ちなみに、中医協では「医療側」「公益側」「支払側」という3つの立場の人が委員となり、それぞれの立場で議論します。(以下は医師会ページから参照)
医療側は、「現場は赤字で苦しんでるんだ!もっと予算をくれないと厳しい!」という意見を主張し、
支払側は、「国は医療費増大で借金まみれなんだぞ!節約できる部分は節約してくれ!」という意見を主張し、
公益側は、「まぁまぁお二方とも落ち着いてください!公益的な視点では、こうしたほうがいいと思いますよ!」
という意見を主張するイメージです。
(あくまでわかりやすくするためのイメージです・・・)
私たちが気を付けないといけないのは、「医療側」「公益側」「支払側」で主張が全く違うということです。診療報酬改定のニュースを読むときには「誰の発言か」に注目してみる必要があります。
2月上旬に診療報酬の詳細を決定したら、厚生労働大臣に「詳細できましたよ!」と報告します。これが答申です。
その後、3月には疑義解釈を行います。医療機関等から疑問点を受け付け、そこに回答するものです。
そして、4月に診療報酬の改定が行われます。
以上が診療報酬改定の流れになります。
私としては、診療報酬改定の約10か月前に出てくる「骨太の方針」に注目しています。10か月前の段階である程度、次回の診療報酬改定のテーマが分かるというのはありがたいですね。
ここまでが今回お伝えしたかったことのメインになります。
残りは、おまけとして、これから診療報酬について理解を深めようと思ったときに知っておくといいかなと思う情報を「知っトク情報」としてご紹介します。
これを知っておくと、いざ困ったときに助かると思います。
■知っトク① 施設基準や算定要件は調べにくい
具体的な診療報酬を調べようと思ったときの話です。
診療報酬について理解しようと思った人が最初にぶつかる壁が、
「施設基準や算定要件がわからない」
ということではないでしょうか。
診療報酬を得るためのステップは次の通りです。
診療報酬を得るためには、まず施設基準や算定要件を満たす必要があります。
ただ、この施設基準や算定要件を調べることが、非常に難しいです。
個人的には、これが診療報酬を分かりにくくしている大きな原因だと思っています。
例として、入退院支援加算という加算を見てみましょう。
こちらは厚生労働省の資料ですが、まず点数が記載されていて、その後、どのような診療行為を行ったときに点数がもらえるのかが記載されています。
しかし、そもそもの前提となる施設基準や算定要件については、「別に厚生労働大臣が定める施設基準」と書かれているのみで、具体的な記載がありません。
調べようとしても、詳しくないと、なかなか見つけることができません。
このご時世ですが、ネット上で簡単に調べるもできません。診療報酬のまとめサイトでも基本的には、「別に厚生労働大臣が定める施設基準」としており、前提となる施設基準や算定要件はなかなか見つかりません。
慣れてくると以下のように見つけることができます。
元資料はこちらです。
このような資料は厚生労働省の診療報酬改定のページにまとめられています。第3 関係法令等の(3)(4)に主な施設基準がまとめられています。
ただ、やはりわかりにくいです。
そこで一般的には、これらのわかりにくい情報をまとめた本を使っています。
とても分厚い本で、はじめはとっつきにくいイメージを持つと思いますが、具体的な施設基準や算定要件を1冊の中で調べることができてとても便利です。
これから診療報酬に向き合おうとされている方は、施設基準や算定要件のところが難所であると知っておくと心の準備が出来るのではないかと思います。
■知っトク② 診療報酬を調べるときは「いつの情報か」を必ず確認する
診療報酬を調べるときには、必ず「いつの情報か」を確認する必要があります。
報酬改定により、2年に1度はルール変更が行われますので、古い情報を参考にしてしまうと、致命的な誤りをしてしまう可能性があります。
書籍を読むときも、厚労省の資料を読むときも、ネットで調べ物をするときも診療報酬関連のことを調べるときには、いつの情報かを確認していきましょう。
■知っトク③ 診療報酬改定には3タイプある
診療報酬改定と言っても実は3タイプあります。それぞれの違いを知っておくと、より診療報酬への理解が進むと思います。
■タイプ1 通常改定
2年に1度行われる通常の改定です。2020年改定はまさにこの通常の改定でした。
■タイプ2 同時改定
診療報酬は2年に1度の改定ですが、介護報酬は3年に1度の改定です。そのため、この2つの改定が重なるタイミングが6年に1度訪れます。
2つの改定が重なるタイミングでは、ここぞとばかりに大胆なルール変更が行われます。報酬改定の中でも6年に1度の同時改定は特に注目しておく必要があります。
2018年が前回の同時改定でしたので、次回の同時改定は2024年の見込みです。
■タイプ3 消費増税による改定
消費増税が行われたときも診療報酬が改定されます。これは通常の2年に1度のサイクルとは別に行われる改定です。
直近では2019年に行われました。
診療報酬は非課税です。
消費増税が行われた場合、医療機関は、医療機器や医薬品を買うときかかる費用は消費税分増えるのに、収入は増えないという事態に陥ってしまいます。
費用が増えて、収入は増えませんので、利益が少なくなってしまいます。不当に利益が少なくなることを防ぐために、増税に合わせて報酬改定を行います。
そのため、増税に伴う報酬改定では基本的に点数の変更のみで大きなルール変更は行われません。
同じ診療報酬改定でもタイプによって性質が異なりますので、どのタイプに当てはまるのかをおさえておくと良いと思います
■知っトク④ 診療報酬が点数(単位)で設定されている理由
最後に、なぜ診療報酬は点数(単位)で設定されているのかをご紹介します。
診療報酬を○○円と書いてくれたら分かりやすいのに、○○点と書いてあるため、やや分かりにくくなっています。
わざわざ1点=10円で計算し直さなければいけません。
このようにしているのは、物価変動に対応するためと言われています。
モノの値段が全て1.1倍になったとき、診療報酬を変えるのではなく、1点を11円にすることで対応しようという考え方です。
介護報酬と比べると分かりやすいと思います。
介護報酬は、1点あたりの単価が地域によって異なります。地域によって人件費や地代家賃に差がある為です。1点あたり10~11.4円の間で設定されています。
おわりに
今回は、「診療報酬を簡単に、わかりやすく解説」と題して、以下の事を説明しました。
・診療報酬のキホン
・診療報酬の3つの役割
・診療報酬改定の流れ
・困ったときに助かる知っトク情報
今回の記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法を紹介しています。
取り上げる調査項目は以下の7つです。
今回の記事は、項目5の「報酬改定動向」になります。
毎週火曜日に更新していますので、興味を持ってくださった方は、フォローいただけると嬉しいです。
また、Twitter、Instagramでも情報発信をしています。医療介護データ研究所を応援してくださる方がおりましたら合わせてフォローいただけると嬉しいです。
またぜひ見てください。どうぞ宜しくお願いします!
記事を読んでくださりありがとうございます。読んでいただけることが励みになります。もしサポートいただけましたら、研究活動に使わせていただきます。