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苦悩と幸福に満ちた、豆腐屋がIT活用で成功するまでの365日

切れるように、寒い冬が、2019年もやってきた。

長野県でSaaSの導入支援会社を起業して、3回目の冬。

地方をテクノロジーで変えるんだ」と夢と希望を抱えて創業した私は、なかなか顧客が見つからない中で死と隣り合わせで、経営していた。

からっ風の吹くこの季節になると、とある町の、とある豆腐屋のことを思い出す。その豆腐屋は、両国屋(りょうごくや)豆腐店という。

長野県富士見町にて創業70年を誇る地元の豆腐屋だ。富士見町は八ヶ岳に抱かれた小さな町で、非常に水質が良いことで有名だ。長野県産大豆を使い、地元の学校などに卸している。

当社と両国屋豆腐店が歩んだ幸福であり、苦悩にまみれた、365日の歴史を、記録しておきたい。

遅くなったが、自己紹介をすると井領(twitterはこちら)という。私の背景などはこちらのnoteを御覧いただければ幸いだ。


"IT、クラウド、自動化"は「怪しい」からの出発

出会いは、富士見町で開催した、クラウド活用のセミナーだ。freeeを退職する前だったが、私は有休を使い、開催した。富士見町にあるコワーキングスペースである、森のオフィスさんに頼み込んで、開場を借りた。

今となっては笑い話だが、当社がクラウド活用のセミナーを開催したのは2017年2月。しかし実際に両国屋から問い合わせが来たのは半年後だ。

というのも、店主の石垣さんは当社のことを「怪しい会社」と思っていたらしい。当時を振り返って、石垣さんはこのように語る。

・クラウド、AI、freee、自動化と知らない単語ばかりで不安だった...
・「東京」「都会」の話は、怪しいと本気で思っていた
・"生産性向上"とかは大企業の話で、自分は関係ないと決めつけていた

当社を、とにかく怪しんだそうだ。当社のクラウド活用の提案も、はじめは全く取り入れる気がなかったと言う。

IT、テクノロジーというものは、情報格差のある地方において、未だ信頼という名の市民権すら得ていないことが往々にして、あるのだ。(もちろん、例外はあるだろうが)

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毎日3時間を事務作業に費やすことは、本当にただしいのか?

しかし、悩んだ末、SaaS活用プロジェクトに足を踏み入れることを決めた。何よりの決めては「このままでは変わらない」という危機感だ。

毎朝、FAXで届いた発注書や電話で受けた注文を全て集計していた。取引先ごとにフォーマットはバラバラで、なんなら注文数を「正の字」で管理することもある。

今日豆腐を何個作るのか、ということを調べるだけで、2時間だ。その2時間は、何も生産するわけではない。しかしこれを365日、行っていた。

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これと合わせて、注文変更やキャンセル、追加注文を処理し、納品書や請求書を作成する。毎日の"3時間"が事務作業に浪費されていた。

新商品開発、新規顧客獲得、情報発信、情報集めなど、やりたいことはたくさんある。しかし、事務作業に追われ手がつかない。毎日の作業が終わると疲れで集中力が切れる。

夜。

20時を指す時計を眺めて、「ああ、今日も、終わってしまった」と、何もできず、眠りにつく。

このサイクルから逃れたい。経営状況も良くない中で、このままではいけない、という危機感が募っていった2017年7月。当社に再度連絡が来て、クラウド活用のプロジェクトは始まった。

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「○○を解決してほしい」という顧客の声を、あえて裏切る勇気

まずは、どう考えても一番時間がかかっている、受注管理〜生産集計、出管理に着手をした。

ここでのポイントは、最初に依頼された内容を私が断ったことだ。両国屋さんからは、「井領さん(元freee社員)ってこともあるし、freeeからやりたい」と言われた。しかし私はボトルネックは会計ではなく受注にあることが分かっていたので、「だめです。kintoneからやりましょう」といって、断る所から始めた。

どこから始めるのがベストなのかこの見極めができなければ、IT導入は絶対に失敗する。成功と失敗の運命の別れ目だ。

変革に大切なこと

両国屋さんは、プロジェクト開始から2ヶ月間の間は、何をされているのかわからず、不安だったそうだ。

2ヶ月の間は、依頼したことを後悔し、「今ならまだ断れるかも」と考えていたらしい。

それでも尚、当社を信頼して依頼してくれた両国屋さんには感謝しているし、目に見えないものの価値を事前に伝えきるのは難しい、という事を教えてくれた。

なぜ、このプロジェクトが成功したのか。

それは、「小さな一歩を踏み出す」勇気と、支援者との間での「信頼」があったから。これに尽きる。

カスタマーサクセス(IT導入の"成功")に必要なのは、知識でもノウハウでもスピード感でもなく、支援者と企業間の「信頼」だ。

双方向の信頼のボタンを掛け違えるとどうなるだろうか?

企業側は「高い金を支払ったのだから、やってくれて当然だ」となるし、導入するIT企業側は、「ITリテラシーが低いから、リスクもあるので、仕事を受けたくない」もしくは「リスクヘッジして、高い金額で請求せざるを得ない」という均衡状態に入ってしまう。

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ここまでが両国屋で起こった一通りの出来事である。何か感じるものがあり、ヒントになれば幸いだ。

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