「秋にもサクラが咲くんですか?」(ゲス漢7)

今日の漢字「秋桜」読めますか?
答えは最下段にあります。小説内にもお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。

 机の上に足先を乗せて新聞を読んでいた。
 つまらん。
 時計はまだ11時を過ぎたところ。昼飯に出てもいいが腹が減ってない。
 部下達はマジメくさった顔をしてパソコンモニターを見つめたり、電話したり、何が楽しくて仕事なんかしてるのか、俺にはわからん。
「あ、部長もお茶い圧されてりますか?」
 入社一年目のB美だ。だるま体型の女で、腹の肉におされて制服のボタンが左右に引っ張られている。男の社員からは人気がない。仕事もできない。というか気が利かないのだ。
「部長“も”、じゃねえだろ。俺に一番にもってこいよ。この部屋で一番偉いんだぞ」
「だって飲むかわかんないじゃないですか。飲まないのに作っても無駄な仕事になっちゃいますし」
 そう言いながらB美は海星みたいな指で茶を置いてから、俺が放った新聞の記事を覗きこんだ。
「へえ、秋にも桜が咲くんですか?」
「そういえばニュースでやってたな。今年は台風の影響で春と勘違いして咲いた桜があるとか」
「そうなんですか。見てみたいですね」
 B美のぷりぷりと尻を振りながらもどっていった。
 トンカツが食べたくなった。
 俺はB美を呼び戻して、
「桜、見せてやるからついてこい」
と、会社を出た。
 寿司をご馳走して浜離宮へ連れていく。海水を引き入れた池が見どころの庭園だが、一画に秋桜の咲いてる広場がある。
「桜、どこにあるんですか?」
「目の前に咲いてるじゃないか」
「え、だって、これ秋桜じゃないですか?」
「そうだ、漢字で秋の桜って書くだろう」
「詐欺じゃないですか。まあ、せっかく仕事サボれたからラッキーか」
「もう少しサボるか?」
 俺はB美の尻を鷲づかみにした。柔らかい弾力が想像通りだ。
「ちょっと止めてください。セクハラで労組に訴えますよ」
「な、なんだよ、お前、寿司の特上も喰ったくせに」
「上司なんだから奢るの当たり前じゃないですか。それにバブル世代なんだし、私達に還元すればいいんです」
 あっぱれB美。男の社員から人気がないのもうなずける。
 こんな女でも拒まれると惜しい気がするから不思議なものだ。秋の桜も散るらしい。

今日の漢字:「秋桜」(こすもす)
花言葉は少女の純真、真心。山口百恵さんの歌はしりませんでした。

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