見出し画像

ロジスティクスとコミュニケーション:Kickstarterでキーボードを買ってみたら

4月末に思い立って、Kickstarterで "Keychron K2" というBluetoothキーボードのクラウドファンディングプロジェクトに参加した。マニアックなキーボード好きがとことん作り込んだこだわりの逸品という触れ込み。5万ドルの目標に対して1万人以上が参加、100万ドルが集まって2000%達成という大人気プロジェクトだ。このビッグウェーブに乗れてよかった。私の手元には既に完成品が到着しており、使い心地も期待通り。

ところで、このプロジェクトがファンディングを完了してから実物が届くまでのコミュニケーションはけっこう興味深かった。アップデートは購入者限定だから一般の人は目にすることは無いはずだ。世界中に分布する1万人以上のバッカー(Kickstarterでお金を出した人をBackerと呼ぶ。製造系案件ではもう「顧客」に近い)に完成品を届けないといけないわけで、これはけっこう大変だ。

5/3にゴール達成の通知が来てから、下記のようなHTMLメールでプロジェクトアップデートが届いている。5月中下旬には、各バッカーの発注仕様と届け先を確認するGoogleFormへの誘導。それを6/10に締め切って以降は、徐々に発送(Shipping)の状況が更新されていく。

6月下旬から発送が開始される。KickstarterのIDに応じて "1st batch" "2nd batch" という発送フェーズのグループ分けがされ、下記のような閲覧専用のSpreadsheetでID検索すれば、自分のオーダー詳細が確認できるという仕組みだ。1万人級のリストに対しても、この「共有ドキュメント方式」が有効であることに驚いた。自分は7000番台で2nd batchのグループ。8/3に発送完了の通知が届き、深圳から宅配便で到着した。

自分の分が届いて以降も、プロジェクト全体のアップデート通知は続く。8月に入ってからは、LEDの種類×キーの種類×フレームの種類で合計9グループに区分され、発送状況がデイリーで更新される。説明もすごく丁寧だ。

アップデートレターの後半では、かなり細かいQ&A形式で状況が補足されている。「○○グループだが発送状況はどうなのか →○○の都合で遅れている」とか、「なぜ○○は発送されているのにうちのはまだなのか」といったありそうな質問に誠実に答えている(実際にあるのかもしれない)。

こうした細やかな連日のアップデートは、製造計画と状況をリアルタイムで正確に把握できるシステムと、それを完全に掌握しつつユーザー向けレターの形で言語化できる統括責任者の存在が両輪でなければ不可能だ。コアメンバーのWill Yeという人がPM(プロジェクトマネージャー/プロダクトマネージャー)の立場でやっているのかもしれないし、CXO的な顧客サポートの専門ポジションがいるのかもしれないが、Keychronにおいては見事に機能していると思う。

「待っている人」が多数いる一方で、製造という「モノが動く/生産量に物理的な制約がある」プロジェクトは、緊張感の高い状態が続くシビアな案件だと思う。これを緻密な言葉のやりとりで支えていくコミュニケーションデザインは、見習うべきことが多いと感じている。

🍻