名称未設定のデザイン

アクセサリーを"設計"しています

はじめに

以前ある方に「強度を考えてアクセサリーを設計しています」と言ったところ「設計してるんですか?アクセサリーってもっと感覚的に作っているんだと思っていました」と言われました。
確かに一言にハンドメイド作品と言っても様々な作成方法があるので、感覚的に作っている方も多いと思います。
他の方がどのように制作工程を記録しているのかわかりませんが、私の作品には設計書(手順書)があり、それが無いと複製することは出来ません
今回はその辺りのことを通して当店について知っていただきたいと思います。

当店のことをご存知ない方のために簡単に自己紹介をします。
私はアクセサリーの重さに悩む方のお役に立ちたいと思い、軽さと彩りにこだわったアクセサリーを制作しています。主に紙を使ってペーパージュエリーを作っています。

設計書が必要な理由

最近新作を発表したのですが、それは以前販売していたイヤリングのリニューアルバージョンでサイズを変更したものです。

画像1

これは試作段階の画像なのでアップしている商品とは違うものですが、右側が以前のサイズ、左側がリニューアルしたサイズです。
元々私は大ぶりなイヤリングが大好きで、"大ぶりでも軽い"イヤリングを作りたいと思っているので、以前のデザインは思いっきり大きく作りました。
大ぶり好きな私でも大きいと感じるくらいのサイズなので、「このデザインをそのまま小さくしてくれたら買うのに」というお声を何度かいただきました。

このデザインに限らず、「もう少し小さく作れませんか」ということは何度か言われたことがあります。
でも皆さんが思っている以上にサイズ変更って大変なんです。

私は現在、主にペーパークイリングという技法を応用してアクセサリーを制作しています。ペーパークイリングは3mm程度の幅の紙を巻いて、円定規の中で広げ、それを潰していきます。

画像2

円定規に書かれている数字が直径です。(円定規は裏返しにすると溝が深くなるので基本的に裏返しで使います。)
私はA4の紙を縦にした状態で3mm幅にカットして、それを巻いていますので基本となる1本の長さは29.7cm。
この写真の状態を設計書に書くと
"1本をキツめに巻いて円定規13で広げる"
となります。
同じ長さであってもキツく巻くか、緩く巻くかによって使用する円定規の直径が変わってきます。逆の言い方をすれば、使用したい直径が決まっている場合は紙の長さだけではなく、力の入れ具合も変わってきます。
キツく巻くと渦の密度が高くなり強度が出るのですが、その分固くて変形させるのが難しくなります。
緩く巻くと柔らかくて弱くなりますが、柔軟に変形するようになります。
デザインによっては渦の強弱をつけているものもあり、"残り3cmまではキツく巻き、20秒ホールドした後に残りの3cmを緩く巻く"のように書いてあるものもあります。
巻く時だけではなく、潰すときの力加減も必要に応じてメモしておきます。

デザインのサイズ変更をするときに、例えば元のサイズで1本を直径14で広げていたとして、それを半分のサイズにしたいなら1/2本を直径7で広げれば良いと思うかもしれませんが、そういうわけではありません。
先ほど書いた固さ・密度のバランスを見ながら、1cm単位や0.5cm単位でカットし、力の入れ具合も変えながら何度も試して最適なサイズを見つけ出す必要があります。
規則的なモチーフ、例えば花モチーフであれば一つのパーツ(花びら1枚分)のサイズが決まればあとはそれを繰り返すだけで済むのですが、私はサイズが異なるパーツを組み合わせることが多いので、それぞれのパーツを微調整しつつ、全体が組み合わさった時にバランスが保たれている必要があります。

巻き方だけではなく、どの位置に接着するのか、どこに圧力を加えるのかによって形が変わってしまうので、工程を写真に撮って設計書に載せています。

個別のサイズ変更に対応出来ない理由

こういった理由で、今回のサイズ変更後の設計決定には1週間ほど要しました。
それでも、同じデザインをそっくりそのまま小さくすることは出来ませんでした。
パーツ同士の流れるような美しさは、やはり元の大きいデザインでないと表現出来ませんでした。
理由は、紙の厚みです。
サイズ変更すると、大きさに対する厚みの比率が変わってきます。小さくするほど固く潰しにくくなってしまいます。
薄い紙を使用すればそのままのデザインで小さく出来たかもしれませんが、それは現実的ではありません。
今回はリニューアルバージョンとして新しいデザインで発表したのでこれで良かったのですが、もしこれが「同じものを小さくして販売してください」というご要望に応えるためであったら、試行錯誤した結果「出来ませんでした」ということになってしまいます。
サイズ変更には対応できないということをお客様に伝えて「ハンドメイドの良さって好みに対応してもらえることじゃないの?」と言われたこともありますが、サイズ変更にかかる時間を考えると同じ金額では販売出来ませんし、結果的に無理なこともあるので私は対応していません。

一点ものについて思うこと

私が常々思っているのは、ハンドメイド業界では"一点もの"という言葉が安易に利用されているなということです。
ちゃんと意識して一点ものにしている方も勿論いらっしゃいますが、個体差のことを一点ものとしてアピールしている方も多いです。
ぬいぐるみとかだと目の位置が違うだけで表情が違ったりするので確かに印象が違うでしょう。以前、粘土で作られた猫の置き物をハンドメイドイベントで買ったことがありますが、そのショップは「全て表情が違うのでお好みの子を見つけてください!」と書いてありましたし、実際に全部の猫ちゃんの顔を見て気に入った顔つきの子を買わせていただきました。その子は私にとっての一点ものです。

基本的に一点ものっていうのは、買ったその人が「私が選んだ、私だけの特別なものだ」と感じることが出来るものだと私は思います。
街中で見かけた時に、"自分の物と同じだと感じるもの=個体差"は一点ものではないと個人的には思うんです。
ハンドメイド作品として売っていないものであっても、個体差ってありますからね。デパートで売っている靴なんかも個体差がありますが、一点ものとしてアピールはしていません。
「同じものを敢えて作らない」のか「同じものを作れない」のか。
安易に「(個体差があるから)一点ものです」というのは、一点ものという言葉の響きに逃げているように感じます。

設計書を書いても、力の入れ具合は感覚的なものであり数値化出来ませんから、やはり個体差は出ます。
私のアクセサリーも、こちらは丸っぽいけどこちらはシュッとしているというようなことは当然あります。
でもそれは二つを並べて見比べてわかることであって、パッと見たときの印象は変わらない程度の誤差ですし、その程度の差になるように努力しています。
ですから、私は一点ものという言葉はカスタムオーダー商品にしか使っていません。
当店では現時点で170色以上の紙の組み合わせと、金具の色、ビーズの色、長さなどを選べるので、お客様もご自分だけの一点ものだと感じていただけると思います。

最後に

とても長くなってしまいましたが、当店の制作方法や思いを少し知っていただけたかと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

今回のアイキャッチ画像に使用している新作はこちらです♪

一点もののカスタムオーオーダーもあります♪


作品を知っていただくためにはイベントへの出店や商業施設での委託販売などしなければいけません。サポートしていただけましたらそういった出店費や委託販売費用に使わせていただきます。