『できることならスティードで』感想①

◇Trip0 キューバの黎明

加藤さんがキューバを旅したのは、今の自分と同じ歳の頃であることに驚いた。海外未経験の私とは違い加藤さんは旅慣れているからだろうけど、なんとなくキューバは上級者向けの国のように思えるし、私だったらなかなか踏み切れないだろうなと思う。思い立ったが吉日とばかりにキューバ行きの航空券を購入する行動力を尊敬しているし、加藤さんの好奇心旺盛なところが私はとても好きだ。『行動しなければ、いつまで経っても夢は現実にはならない』。ああ、加藤さんって、いつもそうだよなあ。そうやって生きてきたんだなあ。他でもない加藤さんの言葉だからこそ、これ以上ないほどの説得力をもって胸に響いた。“思う”だけでは、なにも始まらない。私も“行動”を心掛けようと改めて思ったし、今まであまり抱いたことのなかった海外への興味が生まれたエッセイだった。

また、旅のお供に、その旅に合った本を持っていくというのは、私には新鮮な感覚だった。旅先では時間を惜しんでひとつでも多くの場所を回りたいと思ってしまいがちなのだけれど、あえて本を読む時間をとるというのもその本と旅の記憶が結びついておもしろいし、とても素敵なことのように思えた。私も、これから旅行には旅に合わせた一冊を選んで持参してみようと思う。


◇Trip1 大阪

『物を書く』ということの大変さを真剣に語りつつも、思わずくすっと笑ってしまうユーモアがたっぷりと含まれた、とてもおもしろいエッセイだった。大阪の焼肉店でのホルモンのくだりだったり、新幹線で出会った芸妓さんたちに関する妄想(これはもう想像ではなく妄想と言ったほうが正しいと思う)がまるで真実であるかのように「そう」だろうと決めつけているのが、いい意味で変態チックな加藤さんの一面が表れていて好きだ。いい意味で、です。焼肉店の接客をする女性の顔が似ているから家族経営なのだろうとか、新幹線の背もたれに背中をつけない芸妓さんのぴんと伸びた背筋だとか、そういったリアルな描写がとても鮮やかだった。

エッセイにも出てくる、加藤さんが芸妓姿になる番組を運良く観る機会があったのだけれど、「あの時はこんなことを考えていたんだなあ」というのが知れておもしろかった。あまりにも私の想像にも及ばないようなことを考えておられるので、これから仕事をされている姿を目にするたび「いま加藤さんはどんなことを考えているんだろう」と、つい考えてしまいそうだ。

メイクの話も印象的だった。加藤さんほどの人であってもメイクに力を貰っているのだと知り、毎日面倒に思っていたそれにもっと手間をかけてみたくなったし、少し好きになれるような気がする。

加藤さんにとって物を書くというのは、『じっくりと内面に迫り、自分の見せたくない、隠したい場所を見つけて刺激』する作業だと言う。ということは、加藤さんの書いた物を読むという行為は、加藤さんの秘められた中身を覗き見するということだ。ならば、私も相応の熱意と覚悟をもって、生み出される作品とまっすぐに向き合いたいと思う。私も例に漏れず、加藤シゲアキという人の中身を余さず見てみたいと思っている、スケベな読者の一人であるので。


◇Trip2 釣行

加藤さんが楽しそうに釣りをしている姿を見たり、釣りの話を聞くのが大好きなので、釣りがテーマのエッセイが収録されていると知りとても嬉しかった。文字数いっぱい使って、ただただ釣りが大好きだという気持ちだけが詰め込まれていて、饒舌な加藤さんの姿が目に浮かぶようで、顔が緩むのを抑えられなかった。ぜひ、今度はもっとたっぷりの頁数で、釣り愛を語る場があればいいなと思う。いつまで読んでいても飽きない。

昆虫採集も好きという話から”狩猟本能が強い”、そして釣りを好きになるのも自然な流れであるという結論に収束するのがおもしろい。狩猟本能が強い加藤さん。女性がジュエリーを見るときと同じように、カラフルなルアーを見て瞳を輝かせる成亮少年。駐車場でルアーを投げる練習をする成亮少年。とても微笑ましい。

アオリイカを釣る場面はとても臨場感があり、思わず手に汗を握ってしまった。リールの巻かれる音、手に伝わる感触、心臓の鼓動までリアルに伝わってくるようだった。ただ、このエッセイを読むと猛烈にイカが食べたくなるので注意する。挿絵に使われている大きなルアーの写真も、とても迫力がある。『釣り好きには変わった人が多い』という一文があったけれど、その中には加藤さん自身もしっかりと含まれているのだろうなと思う。

このエッセイを読んで、加藤さんを好きになってから生まれた釣りへの興味は増すばかりだ。本気でしてみたいとは思っているのだけれど、なかなか一人で踏み出す勇気がでない。いつか”行動”に移したい。

これからも、加藤さんが大好きな釣りをたくさん楽しむことができますように。

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