【アイカツスターズ!】子供と大人のアイダ

子供の頃、大人とは何かと考えたことがあった。
法律では、二〇歳を過ぎれば成人となる。
大学生でその年を迎えたとき、特に変化は感じなかった。
働きはじめればだろうか。
もしくは、自分で何事も解決できたらだろうか。
今、大人になったと思うが、はっきりとは分からないままだ。

真昼がゆめ達と出会ったのは、七夕の時期だ。
短冊にどのような願いを書こうかはしゃぐゆめ達を、真昼は冷ややかな目で見る。
あこと一緒のときには、今時は珍しいガングロのギャルに声をかけられる。
あこは驚いて、終始慌てる。
しかし、真昼はひるまない。
年上の女子高生達にも、堂々と聞き返す。
真昼は、大人っぽいクールな印象のアイドルである。

夜空の番組で、新作ドレスのデザインを募集することが決まる。
見事に採用された参加者は、その衣裳をまとってステージに立てる。
ゆめ達は、食堂で結果をたしかめる。
選ばれたのは、”ランチ”という名の人物のデザインだ。
突然に真昼が立ち上がる。
小春は”ランチ”の正体が真昼だと見抜く。
仮名を用いたのは、姉妹だからと噂されないためだった。

真昼は話す。
姉と勝負がしたくて、今回の企画に応募したという。
真昼は、期待の新人モデルとして注目されている。
まだデビューを果たしていないゆめ達よりも、明らかに一歩進んだ位置にいる。
ところが、実力も経験も、すべてを上回る存在を真昼は知っていた。
彼女の姉にして、四つ星学園の月のうつくし組のS4トップの香澄夜空である。

いつも通りに冷静に振る舞ってみても、夜空には妹として優しくあしらわれてしまう。
意地を張ったり怒ったりしても、ただ可愛がられるだけだ。
その姉を超えれば、自身は、もう誰からも子供扱いされることはない。
おしゃま、、、、で、おしゃれ好きな女の子達にとっての、本当に理想のアイドルとなれる。

ゆめは、すでに真昼にも夜空にまさっている部分があると返す。
けれども、最後まで聞かずに真昼は立ち去ってしまう。

収録の当日、真昼は夜空と対面した。
本番の直前、ゆめ達が真昼の楽屋を訪れる。
彼女達は差し入れを渡す。
洋菓子屋の娘のゆめが焼いたケーキだった。
真昼は、びっくりしつつも喜ぶ。

箱を開くと、肝心のケーキは崩れていた。
思いがけない事態に、ゆめは焦る。
ローラが、ケーキに描いた似顔絵はあまり似ていなかったから大丈夫だとフォローする。
それで、ゆめはさらにうろたえた。
真昼が少し微笑む。
すかさずゆめが指摘する。
彼女の無邪気な笑顔は、夜空にもない魅力である。
食堂でゆめが伝えようとしたのも、そのことであった。

アイドルの笑顔といえば、以前の記事でも触れたことがある。

そこに、人々に夢を与えるアイドルというものが端的に示されているからだろう。
作品は関係ない。
きっと現実のアイドルでも、それは同じだ。

番組で、真昼は『Summer Tears Diary』を歌う。
彼女のパフォーマンスは相当によかった。
が、司会の夜空はいつものように和やかな笑みを浮かべるだけである。

その後、実力テストが実施される。
各組で最上位の成績だった一年生達は、それぞれS4とともに夏フェスに出場できる。
真昼は美組で一番の点数だった。
別の組の代表が意気込みを述べる。
そこで真昼は、夜空には決して負けないと言い放つ。
ゆめ達は違和感をおぼえた。

かつて姉妹二人は仲良しであった。
第二期「星のツバサ」編の通算第七五話で明かされるように、両親が仕事で家を空けがちだったのならば、なおさらだ。
真昼は、なんでもこなせる頼もしい姉が大好きだった。
けれども、二年前、夜空が四つ星学園に入学した。
ここは全寮制の学校である。
真昼は家に置き去りにされた。
彼女は思い知った。
完璧な姉からすれば、自身は大したことのない存在だった。
まともに相手にするに値しなかった。
真昼は、夜空が無視できない立派なアイドルになると決心した。
妹としては捨てられてしまった。
だから、今度は商売上の敵として姉に迫ろうと考えていた。

夏フェスの打ち合わせの後、真昼は夜空に頼みこむ。
現在の姉の実力を、真昼は自身の目で確認しておきかった。
真昼は圧倒される。
撮影もコーディネートもダンスも、夜空はとてつもなくすごかった。
彼女は正真正銘のアイドルにちがいなかった。

真昼は練習の量を増やす。
食事の時間も自主トレーニングにあてようと、栄養補助ゼリーしか口にしない。
ゆめ達が心配するが、真昼は忙しいからと答えて聞き入れない。
独りレッスン室でダンスを踊っているとき、ついに真昼は倒れてしまう。

真昼は保健室に運ばれる。
過労であった。
先生から夜空はそのことを告げられる。
大急ぎで、彼女は保健室に向かう。

真昼の態度は冷たかった。
夜空は少しだけ安心し、限界まで練習し続けた理由をたずねる。
真昼はいらだつ。
それは姉を追いこすためだ。
もし実現できるのならば、自身がどのようになっても構わない。
姉には何のかかわりもない。
放っておいてほしい、と真昼は吐き捨てた。

夜空は我慢できなくなる。
とっさに真昼をビンタしてしまう。

この場面は、かなりのインパクトがあった。
子供向け、しかも最近の女児向けアニメの中では、めったに見られるものではない。
ほかに印象深いのは、『ラブライブ!』第一期の第一二話だが、この作品の対象は女児ではないのだ。

無言で真昼は保健室を飛び出す。
夜空が呼び止めようとするが、そのまま真昼はいってしまう。
翌日、真昼は学園長に夏フェスの辞退を申し出る。
たちまち、その話は学園中に広がった。
同じ美組の小春は、真昼のことを案じる。
夜、小春は彼女の部屋の扉の前でしゃべる。

真昼が姉に対して抱いていたのは、さみしさだった。
”見返す”などは、ていのよい言い訳にすぎない。
夜空には、妹の真昼と、自分とちゃんと向かい合ってほしかったのである。
真昼は否定する。

別に、彼女は嘘をついていたわけではない。
心の中で、姉のことを倒すべきものだと、ずっと思いこもうとしていた。
そうすることで、さびしさをごまかすことができる。
子供っぽい感情を忘れられる。
赤ん坊が母親を求めて泣いたり、小さい子が駄々をこねたりするときの気持ちは、真昼にあってはならない。
大人の夜空は、仲良しの妹を平気で捨て、それでも友人達S4と談笑している。
だから、それを打ち負かす自分も、当然さみしいはずなどなかった。

しかしながら、実際に真昼は姉が恋しかった。
大人でも、ときにはそのように思うのだから当たり前である。
が、子供の真昼には、その事実が理解できない。
姉への敵対心は、あこがれと現状との間で戸惑い悩む、子供ならではの言動なのだった。

アイドルアニメは数えきれないほどにある。
とはいえ、背伸びをする子供の複雑で不安定な心情を表現するという点において、『アイカツ』シリーズに敵うものはない。
同じく子供向けの『プリパラ』にすら、その要素はほとんどない。

『Summer Tears Diary』のテーマも、まさしくこれだ。
引っ越しで、二人の親友が離ればなれになってしまう。
夏の星空をながめながら、大人っぽく感傷に浸りもする。
だが、その距離は、大人であれば簡単に行き来できる程度でしかない。
車を運転できるし、運賃を払って電車やタクシーにも乗れる。
時間も、である。
数ヶ月に一回、会って食事をしてもよい。
だが、自分にはそれが叶わない。
車もお金もないし、遠出には親の許可が必要な子供だからだ。
シリーズの中には、そのような立場を歌い上げた曲がいくつもある。
『アイカツ!』ならば、『Trap of Love』や『オトナモード』、『約束カラット』、『アイカツフレンズ!』であれば、『6cm上の景色』などだ。

余談になるが、この『アイカツスターズ!』には特に良曲が多い。
『8月のマリーナ』をはじめ、『みつばちのキス』、『未来トランジット』、『荒野の奇跡』、『So beautiful story』、『森のひかりのピルエット』などである。
その中で、私がもっとも好きなのが、この『Summer Tears Diary』だ。
なによりも、シリーズの持ち味が最大限に発揮されているように感じる。

小春の言葉を、真昼は改めて考える。
そして彼女は部屋を出る。
夜空は、学園内の東屋ガゼボに座っていた。
真昼が姉を見つける。
夜空は本心を打ち明ける。
四つ星に入るということは、芸能にたずさわるということだ。
いくら姉でも、真昼の人生を決定することはできない。
自身の願いに、妹を巻きこむことなど許されない。
だから、夜空は独りで家を出た。
今年、真昼が自身の意志でやってきたとき、夜空は嬉しかった。
また一緒に過ごすことアイカツができるからだ。
姉は昔と変わらず、妹のことを想っていた。
けれども、真昼は、それに気づいていなかった。
二人の心は再び通い合う。

真昼は夏フェスの舞台に立つことにする。
姉の希望により、二人で『Summer Tears Diary』を披露する。
会場は大歓声に包まれる。

やがて、モデルとして活動する真昼に女子高生のファン達がつきはじめる。
雑誌でのコーナーを連載する。
真昼は夜空のライバルへと成長していく。
着実に、姉へ、大人へと近づいていった。

S4選抜では、順当に勝ち進んで新S4の座を獲得する。
現役の姉と、新規の妹とによるS4戦は、学園史上初の姉妹対決として盛り上がる。
風の舞組、鳥の劇組ともに新S4の敗北が続く中、真昼は平常心でライブに臨んだ。
結果は、僅差で真昼の勝利である。
とうとう彼女は、あの姉に並び立った。

のちの第二期の第七五話では、兄姉きょうだいが急な用事で出ていってしまう。
オフの日を家族と過ごそうとしていた真昼は、ほんのちょっぴり悲しくなる。
だが、そのような面も、夜空のライバルである人気モデルの中学生、香澄真昼の一部なのだ。
飾り立ててそれを隠そうとするのではなく、ありのままの自分を受け入れられるようになった。
その余裕は、いうまでもなく大人のあかしである。

いまさらだが、私は大人の身である。
今、子供向けのアニメを観て、楽しんでいる。
私の中身は子供なのだろうか。
たぶん、それは認めざるをえない。
ところが、誰でも別れの際にはつらく泣きたいし、逆に素敵なものを見たときにはわくわくする。
どちらにも年齢の区別はない。
面白いものは、面白い。
だから、本作もその例外ではなく、やっぱり面白いのである。

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