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市民参加でよりよい社会へ 台湾のデジタルな試み

【編集部より】この記事は、韓国語記事からの翻訳記事です。(韓国語は、こちらから。)時に「デジタル先進国」と言われる韓国や台湾。この記事では、韓国の状況も少し取り上げながら、韓国社会から眺める台湾のデジタル政策や市民セクターでの取り組みを紹介しています。ちょっと異なった視点から「デジタル×社会問題」について知るきっかけのような記事になれば嬉しいです。

新型コロナウイルスの流行が始まって既に二年。ソーシャルセクターや非営利団体など、いわゆる社会問題を扱う分野でも、オンライン会議を通じた非対面コミュニケーションが勢いを増しています。社会的弱者を対象にしたカウンセリングや教育プログラム、社会的なメッセージを込めたキャンペーンなど、様々な領域のプロジェクトやイベントが非対面形式・オンラインで進められました。こうして表舞台に踊り出た「非対面のコミュニケーション」。 事業や政策進行に必要なものとしてこのまま定着していくかも知れません。

直接顔を合わせなくても、社会をよりよい方向へ導くことは可能でしょうか?もし可能ならば、どのようなやり方になるのでしょうか? 

こんな疑問に答えるために、 デジタル基盤で「非対面コミュニケーション」を活発に進めてきた台湾の事例を探ってみました。

社会問題解決の方法、「デジタル」

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(市民開発者たちがつくりだした「中央政府予算可視化」プロジェクトより引用: http://budget.g0v.tw/budget)

中国との貿易協定に異議を提起し、若者が国会を占拠した台湾の「ひまわり学生運動」。国会占拠状況をオンラインでリアルタイム共有という経験後、台湾では社会問題を解決する方法のひとつとして「デジタル」が注目を集め始めました。デジタルが情報公開を通じた政治の透明性を強化し、複雑な政治的事案を把握するツールとなったのです。

上記の写真はその代表的な例の一つ、g0vの「中央政府予算の可視化プロジェクト」です。市民たちにより自発的に進められた政府予算の可視化は、デジタル技術の特性と利点を活かしたプロジェクトであり、政府の予算がどのように使われるのか、税金の細部項目が一目瞭然となるように、ウェブサイト画面に視覚化してあります。

台湾の市民社会においてデジタル技術の活用が増える一方、デジタル基盤の試みは、政府が主導する社会問題の解決にも積極活用されています。そのうちの一つ「離島のための遠隔医療(零時差隊)」 は政府が進める総統杯ハッカーソン*で出てきたアイデアが政策へと繋がった例です。離島で医療サービスが必要なときに、地域の看護士と患者の家族、医者が連携して治療方式を決めるものです。社会問題の改善のためのアイデア、ハッカーソンで受賞したアイデアが政策反映に繋がりました。

また、市民開発者と政府の協力でつくりあげた「マスク地図アプリケーション」もたいへん注目をあびました。マスク販売店や位置、数量や営業時間などが一目で分かるようになっており、在庫状況もリアルタイムで検索可能にすることで、コロナ陽性者や死亡者数を押さえるのに一役買いました。

*hacking + marathonからの造語。プログラミング分野でソフトフェア開発者と企画者、デザイナーなどが、開発やサービスの考案などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催し。(参考リンク

デジタルを活用する主体たち

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(綠色公民行動聯盟・「透明足跡」プロジェクトサイトより引用: https://thaubing.gcaa.org

多様なデジタル技術が社会問題の解決に活用されるには、民間で活動する市民開発者たちの力がとても大きいです。彼らは「シビックハッカー」とも呼ばれ、社会問題を技術を用いて改善していきます。彼らのコミュニティでは、国会議員の政治資金サイトや政府の予算視可視化プロジェクトをつくった「g0v」が代表的な例と言えるでしょう。また、環境分野ではエコ製品製作に関するデータ公開を要求した「綠色公民行動聯盟」が活発に活動しています。緑色公民行動聯盟は、「エコ・環境配慮」を掲げる企業の製品関連公共データを収集し、該当製品が実際には環境を汚染していたことを明らかにしました。また、確保したデータを元に、消費者たちが環境に優しい製品を購入できるように情報を提供する「スキャン・アンド・バイ(掃了再買)」 アプリケーションをつくりました。

このように社会の変化を夢見る台湾のコミュニティーの一員たちは、問題解決に必要な公共データを要求し、これを元に多様な政治的問題や環境問題が解決される基盤を作り上げてきました。市民開発者たちが様々な技術的試みに果敢に挑んでいるとしたら、 その技術自体が日の目を見ることができるように、一般の市民がサービス制作を手助けしています。彼らはシビックハッカーがつくったサービスを活用する過程で意見を出します。また、時には政府のデータを直接収集し、サービス制作をシビックハッカーに要請することもあります。

 ここに政府が市民と技術を連結する多様な窓口を提供します。そしてデジタル技術と市民の間の距離が狭まり、 市民の意見が社会の多様な問題を解決する政策に繋がっていく大きな力となるのです。この過程で台湾政府は三つの価値を強調します。1)迅速、2)公正で、3)面白い(Fast· Fair·Fun)。 問題が起ると 専門家と迅速に協業し、その課程でのコミュニケーションは公正に進められ、問題解決のための政府のメッセージを面白いメッセージと方法で伝達する。これを通じて台湾社会におけるデジタル基盤の様々な試みは、より幅広く効果的に作動しています。

市民の参加を促す政府プラットフォーム

台湾には市民の参加により社会問題を解決するオンライン・プラットフォームがたくさん存在します。まず、「vTaiwan」は政府部署と学者、ビジネス専門家および市民社会団体などが参加するオンライン・プロジェクト空間です。ここでは様々なハッカートンが開かれ、そのハッカートンで論議された アイデアが、政府部署の政策に反映されることもあります。

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(Joi ホームページより引用: https://join.gov.tw/)

また、「Joi」というプラットフォームでは、論議したい事案を案件としてあげ、その案件が一定数以上の支持を得ると正式に論議される内容として採択されます。

Joiと似ている事例は韓国にもあります。政府が運営する「国民請願」やソウル市が運営する「民主主義ソウル」の市民提案、あるいは各自治体の「参与予算制度」がそれにあたります。韓国と違うのは、採択された案件は必ず台湾デジタル部が主催する会議で扱われなければならないということです。そこには 案件を提案した一般市民はもちろん、政府部署の関係者から関連分野の事業家や市民社会団体の活動家などに至るまで、広範囲に一堂に会し討論を行い、 そこでの合議点が以後の政策改善につながっていくのです。実際に2019年当時、ひとりの高校生がJoiを通じて、使い捨てプラスチックのストローの使用を禁止しようという意見を出しました。この提案が受け入れられ法案として生まれ変わりました。

政策構想の過程でできるだけたくさんの人の意見を聞くこと。このようなアイデアから出発した政府サービス「Pol.is」は、一種の人工知能プラットフォームです。アメリカのシアトルのスタートアップが提供するサービスを政府次元で利用しています。 利害関係者会議に参加することができない一般市民の意見まで、政府次元で幅広くカバーする試みです。政府の政策や様々な産業イシューなど、多様なテーマについて他の人たちがどのように考えるかを可視化することができます。誰もがサイトへテーマについての意見をコメントをすればするほど、それらの意見を学習し高度化していくマシーン・ラーニング・アルゴリズムが適用されています。

最後に

台湾の様々な事例を見てみましたが、如何でしたか?台湾のこのような試みは、馴染みが薄く感じられるかもしれませんが、 韓国でもシビック・ハッカーたちがアイデアを出して実行に移された例があります。 「新型コロナウイルス感染拡大対策」のために使用される電話番号の代わりに、「コロナ19個人安心番号」**もその一つです。個人情報漏洩などの心配を解消するために市民がアイデアを出し、これを技術で具現化、政府次元で実行しました。

人々の暮らしにまた一歩踏み出したデジタル基盤の社会イノベーション。社会問題の不便さを解決する試みに注目してみては如何でしょうか?技術で社会問題にアプローチする試み、思いのほか親近感を感じるかもしれませんよ。

**コロナ19個人安心番号=国民らがカフェなどの施設を利用する際に、携帯電話番号の代わりに記載できる番号。数字4桁とハングル2文字の6文字で構成されており、「政府-市民社会-民間協業」で導入(2021/02/20 「wowkorea.jp」より)

この記事は、韓国語記事からの翻訳記事です。(韓国語は、こちらから。)

・文:イサンミ
・翻訳:宮内秋緒
・編集・発行:IRO(代表・上前万由子)
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