2026年 大声で叫びた

大声で叫びたい気分だから

芝生に伸びた影 女はさっき服を脱ぎ捨てたので裸のはずだ
スタジアムのすり鉢内の空気が熱狂と歓声で揺れる
無観客のスタンド 八万人分の静寂と重圧
黄金に光る体毛 黒く伸びていく影 女はまだ叫ばない

女は生き血を吸った後のように口を拭う
唇は紫 肌は白 下を向いている
叫べ 叫べ 叫べ
海から風が吹いてきた 重く荒っぽい夕立風
音 臭い 肌寒さ 水 夕立はいつもこの順番でやってくる

女はくるぶしまで水に浸かっている
雨の濃淡は揺れるカーテン
女は歩いている 天を仰いでいる 口を開けている
右足の一歩はゆっくりと着地 左足の一歩は素早く着地
目的地はない 雨への恐れもない 飲み干してしまえ
そして叫べ 夕立の轟音と吸音 叫ぶなら今だ

芝生に影が伸びる
夕陽が戻ってきて雨が七色に変わり夏の熱気で息苦しくなる
いつもの順番だ
レイリー散乱に向かって女は叫んでいるかもしれない

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