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ランサーズでLLMラボを立ち上げて1年。新規プロダクトの立ち上げと葛藤、苦労したことなど。

こんにちは、入江慎吾です。

2023年8月にランサーズで生成AIの研究と新規プロダクト開発を行うLancers LLM Labsを立ち上げ、はや1年が経ちました。

この1年は、めまぐるしい日々でした。生成AIはご存じのとおり進化が激化、未知の領域、チームでの開発、そして、幾多の壁。

今回は、LLM Labsでどんなことをやってきたのか、その裏側をお話したいと思います。ちょっとリアルな話なのでここまで書いていいものかはちょっと悩みましたが…これから新規事業を立ち上げようとしている方、チームをつくる方、プロダクトをつくっている方のお役には立てる話だと思います。


ChatGPTの衝撃

僕がChatGPTに出会ったのは、2022年の年末のことでした。

それまでのAIといえば機械学習でテキストベースでここまで自然に会話できることに驚きました。人類の集合知であり、これに聞けばなんでもできるんじゃないか・・・そのような衝撃がありました。

特に僕はエンジニアとして開発をしてきましたが、コード生成がこうもすんなりできてしまうことには驚きました。これは自分が書くより書いてもらったほうが圧倒的に早い。

すぐにChatGPTをプログラミングに活用し始めました。

生成AIは、僕にとって、まさに自分の力をパワーアップさせてくれる「魔法」でした。これなら人を雇わなくても個人で結構なことがやれそうだという感触もありました。個人開発者にとっては本当に魔法だと思います。

しかし、一方で、周りを見渡すと生成AIを仕事で活用している人は、ほとんどいませんでした。エンジニアすらそうだったのです。

「こんなにすごいのに、なんでみんな使わないんだろう?」

そのギャップに、僕は大きな疑問を感じました。

オートロン開発のスタート、そして苦悩

その流れからLLMラボでなにをつくるか「この生成AIの力を、もっと多くの人に届けたい」課題解決としてこのテーマを選んだのでした。

そして、開発したのが生成AIアシスタントサービス「オートロン」です。

オートロンは、ChatGPTをもっと使いやすく、もっと業務で活用しやすくするために生まれたサービスで、開発環境としてはフロントはNext.js、バックエンドはFastAPIを使って開発を行っています。

内容としてはモダンな構成となっていますが、最初は僕はこれまでLaravelやVue.jsを使っていたので未経験スキルからはじめたので、まずその勉強をしながらの同時開発となったので苦労しました。そのうえで、3か月で開発しようとしていました。

裏側では自社データを読む部分でLlamaIndexを使ったり、Web検索ではBingを使ったり、もちろん各社LLMはそれぞれAPIを使っています。このようにいろんなサービスやライブラリを裏側では使っており、情報も少ない中でなかなか開発は難易度が高かったのでした。

技術的な面以外でも困難だったのはチームワークです。

実はチームを組んで開発を進めるまではよかったものの、チーム内で衝突が起き、なかなか進まなかったり、手戻りが発生したりしていたのでした。

原因は、大きく2つありました。

1つ目は、ほぼフルリモートでの開発だったことです。

メンバーは、それぞれ別の場所で仕事をしているため、コミュニケーションがテキストベースになりがちでした。テキストだけのコミュニケーションでは、どうしてもニュアンスが伝わりにくく、誤解が生じやすい。

また、リモートだと、雑談やちょっとした相談もしにくいため、メンバー同士の相互理解が深まりにくいという問題がありました。

2つ目はも1つ目とつながっていることではあるのですが、チームができたばかりで、メンバー同士の関係値が築けていなかったことです。

お互いのことをよく知らない状態で、3ヶ月という厳しい時間制限を設け、開発をスタートさせてしまったことが、大きなミスでした。

エンジニアとしてのスキルが高くても、新規事業の立ち上げに向いている人と、そうでない人がいます。

立ち上げの初期段階では、仕様は作りながら決めていったり、使ってもらった後に変更が相次いだりします。僕の発言では、朝言っていたことと、夕方言っていることが変わることも、しばしばあります。いろいろ試したり調べていると変わることが往々にしてあります。

そんな状況の中で、関係値ができていないと、どうしても衝突が起きてしまうのです。

朝会で相互理解を深めることから

そこで、僕たちは毎日の朝会を取り入れることにしました。

毎朝10分ほど、チーム全員で集まり、その日の予定や進捗を共有するだけでなく、雑談やちょっとした相談をする時間を作りました。

最初は、ぎこちなかった朝会も、回数を重ねるごとに、メンバー同士の距離が縮まっていくのを感じました。これは一気に進むものではなく、長い時間が生むものだと思います。ローマは一日にして成らず。

お互いのことを知っていくことで、テキストベースのコミュニケーションでも、誤解が減り、スムーズに仕事を進められるようになってきました。

また、ちょっとしたことでも、ビデオ通話を入れたり、どんな説明をすると理解できるかをお互いにわかるようになったりしました。

開発ガイドラインを取り入れたり、コーディングルールを一緒に決めたり、チームで働くための指針を、少しずつ作っていきました。

たとえば、朝会では顔出しをする、といった細かいことも決めました。

そうやって、チームとしての一体感を高めていくことで、開発は、少しずつ、スムーズに進むようになっていったのでした。

オートロン開発メンバーにて

オートロン、ついにリリース!

そして、2024年2月、ついにオートロンを正式にローンチすることができました。

当初は、月額1,000円でChatGPT(GPT-4)やClaudeといった、複数のLLMが使えるという、破格の安さもあり、一部のインフルエンサーにも取り上げられ、注目を集めました。

しかし、実際にビジネスとしてやってみると、APIの利用料もあり、単体サービスとして成立させるのは、非常に難しいことがわかりました。

Google広告などを試してみましたが、LTV(顧客生涯価値)が低く、広告を出せば出すほど赤字になるだけでした。これはよろしくありません。

ターゲットを「ビジネスパーソン」に

そこで、オートロンのターゲットを個人から法人、つまり「ビジネスパーソン」に変更することにしました。

とはいっても、もともとオートロンは「仕事をサポートするAIアシスタントサービス」として考えていたので、この方向転換は、自然な流れでした。

ランディングページ(LP)も、資料も、すべて作り直し、企業に導入してもらえるように、営業活動も開始しました。

個人的にも4月からは、オートロン一本に集中するために、個人開発や副業もすべてストップ。

「オートロンをかならず成功させる」

その一心で、がむしゃらに走り続けてきました。

東京での1ヶ月、そして発見

7月には、立ち上げ強化月間として、東京に1ヶ月間滞在しました。(普段は福岡で仕事をしています)

家族にも協力してもらい、仕事に専念できる環境に身を置くことで、新たな発見がありました。

ランサーズ社で、50人ほどの人と直接コミュニケーションをとることで、仕事の解像度が格段に上がりました。

ランサーズ社内での打ち合わせ
サムギョプサルがおいしかった
秋好さんとの社長メシ

誰がどんな仕事をしているのかを知れば、課題も見えてきます。オートロンは仕事をサポートするツール、それならばどんな仕事のどこで使えるのかを知ることが大事です。

初めての法人営業に挑戦

これまではMENTAをはじめ、ほぼtoC(個人向け)のサービスしか経験がなかったので、法人営業は、新鮮な体験でした。

XのDMやLinkedInやフォームメールで営業したり、生成AIの役に立つコンテンツ発信をしてオートロンのことを知ってもらったり、ウェビナーを開催したりして、商談へ。

商談で資料をもとに説明していくことがこれまでなかったので毎回緊張の連続です。とはいえ、話をしていくと自社の業務のどこで使うとよさそうか視界が開けていくことで導入のイメージがわいてくることを実感しました。

使い方と効果をイメージできてないからこそ生成AIの活用が進んでいないのです。

ウェビナーにも挑戦

8/8にも開催予定です。

導入定着をサポートすることの重要性

当初、オートロンは「生成AIを活用できていない人にも届けたい」という想いから、誰でも簡単に使えるAIアシスタントを開発しました。

しかし、実際に営業活動をしていく中で、「業務のどこで生成AIを使えばいいのか、イメージできない」人が大半であることがわかってきました。

これは最近の日経の記事をみてもあきらかです。

そこで、オートロンで「導入定着サポート」もオプションで開始しました。

このサービスは、企業にオートロンを導入するだけでなく、実際に業務で活用できるようになるまで伴走サポートするものです。

導入定着サポートは、とても好評です。

多くの社長や経営陣は、ChatGPTを個人的に試したりはしているものの、現場では全く使われていないことが多いのです。生成AIのツールを導入するだけでは、業務効率化は実現できません。

社長の鶴の一声で導入しても、現場で定着しなければ、意味がありません。

生成AIを、業務に組み込み、実際に使ってもらうことで、初めて、その効果を発揮することができます。そのためには導入推進役は必須です。

日本で一番生成AIを活用する会社を目指す

ランサーズ社内でもオートロンを導入してから推進を進めてきました。現時点での利用率はこのようになっており、一般的にいわれる30%程度の数値は超えている状況です。

しかし、利用率は部署によってはまだまだです。現在、日本で一番生成AIの利用率が高い会社を目指すべく、9月までを目途に全社で80%の利用率を目指して普及プロジェクトを推進中です。

80%もの工数削減を実現

この中で特に利用率が高いのがランサーズのIT人材マッチングを行うテックエージェント事業部です。社内で最初にタッグを組ませていただき、導入推進を一緒に進めてきました。

その中でも毎月2-300件の履歴書や職務経歴書を人の目でチェックしたり、電話をかけてヒアリングする業務にかけている時間は膨大でした。オートロンを導入することで、履歴書などのチェックと必要な情報の抽出を自動化。

電話からの文字おこしと要約をオートロンにすることで、全体として80%もの工数削減を実現することができました。

これはかなりのインパクト効果があり、事業部内でも話題となり、もっと活用しようという働きが内部で起こりました。現在ではなんと利用率90%を超え、自分たちでアシスタントを日々開発・改良しています。

エンジニア募集中です!

7月には、導入定着サポートを含め、5件ほどの契約をいただくことができました。ありがたいです。お話さえさせていただければ、導入したいと思っていただける企業様が多くプロダクトをつくって間違ってなかったと感じる日々です。

しかし、まだまだ必要な人に届けられていないという、もどかしさがあります。それは、営業不足ということもありますが、同時に、機能開発が追いついていないという問題もあります。

例えば、大企業では、権限設定をもっと細かくできるようにしてほしいという要望があります。また、たとえばGeminiの大量トークンを使って、さらに業務効率化を支援できるような機能も開発していきたいと考えています。

しかし、僕たちのチームは、まだわずか3名…

そこで、僕たちと一緒に、オートロンを開発してくれるエンジニアを1名のみ募集しています。

生成AIという、新しい技術を使って、世の中をもっと便利に、もっと楽しくしたい。そんな想いに共感してくれる方、ぜひ、一緒に働きませんか?

まずは、カジュアルにお話だけでも、お気軽にご連絡ください!


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