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5.痛みの評価(尺度)とは?@無痛分娩

 SNSで盛り上がっている無痛分娩ネタを、専門家の入駒慎吾が考察していくシリーズです。今回はTwetter上でのお産の痛みの尺度の話。あくまで個人差が大きいものですが、医学的に少し考察(解説)させていただきます。

 お産の痛みをどのように表現するかについては、これまで多くの取り組みがなされてきました。その最たるものは、「鼻からスイカ」ではないでしょうか?このツイートに対しては多くのコメントが寄せられ、教科書にも載っているような図までアップされていました。(驚きです!)

痛みの尺度

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 この図は無痛分娩業界では、とても有名なものです。図によると、お産の痛みは骨折よりも強く、指切断(昔の反社会的勢力でおなじみ?)よりは弱いということになるようです。はたして、これは多くの人に当てはまるのでしょうか?

 そもそも、みなさんは“痛みの定義”というものがあることをご存知でしょうか?「何をいまさら。痛いと感じるもの全部だろ!」とおっしゃりたい気持ちもわかります。ただ、ここで痛みの定義を知って欲しいのには訳があるんです。少しずつ説明して参りましょう。

痛みの定義

 世界中に色んな学術研究会があります。その中でも、国際疼痛学会(疼痛=痛みに関する学会の親玉)が痛みを下記のように定義しています。

「組織損傷が実際に起こった時あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」

 みなさん、どのように感じられたでしょうか?痛いという感覚だけではなく、気持ちも含まれるところがポイントになります。まさに、今回のお産という個人的なライフ・イベントには、痛みの感覚だけでなく情動的な要素も絡んでくるということになります。

痛みには個人差がある⁉

 当たり前のことですが、痛みには個人差があります。「彼女は、痛みに強いからなあ。」とか、逆に「わたしは、痛みに弱いので・・・。」という表現はよく使われていると思います。私たちは、痛みに個人差があることを前提に生活していると言っても過言ではありません。そうすると、先ほどの痛みの尺度は、あくまで指標にしかならないことがわかりますね。

 このように、個人差を前提としたお産の痛みを、それを経験した個人的な感覚を通して聞き、さらに情動的な要素が絡む。痛みとは、非常に奥が深いものなのです。日本語の“心を痛めた”という表現は、言語としての知性を感じますね。そんな痛みを、分娩中にコントロールしようとする医療行為のプロセスが、無痛分娩ということになります。

無痛分娩での痛みの評価(NRS)

 実際の無痛分娩では、痛みを評価しなければ管理ができません。「ちゃんとお薬使っているから、効いてるよね?」という医療従事者の発言は言語道断なんです。しっかり、痛みが取り除かれているかどうかを評価しなければ、妊婦さんが何のために無痛分娩を選択したかわからなくなりますね。もちろん、痛みを取り除くことだけが、目的ではないと思いますが・・・。

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 図に示してある3つのものが、一般的な痛みの評価法です。中でも、(2)のNRSが一番用いられています。理由は、特別な道具が必要ないからです。(1)のVASや(3)のFRSでは、視覚に訴えるための道具(定規など)が必要になります。一方、NRSは口で数値化するだけで済むのです。想像しうる最高の痛みを10として、お腹の張り(子宮収縮)はわかるけど痛みとは思わないものをゼロします。その間の数字は、個人で刻んで評価していきます。

 ただし、このNRSもやってみるとわかりますが、なかなか整合性を保つことが難しいです。「さっきの痛みが5点だったから、今は4点かな?」といったように、直前の痛みとなら辛うじて比較できるくらいなのです。(私自身も、自分の手術後の痛みを、看護師さんにNRSで答えるときに困った記憶があります。)

まとめ

 ①痛みの感じ方には、個人差があります。②痛みには、情動的な要素も絡みます。③痛みは、個人でも時間が経つとわからなくなりやすいです。

 このような痛みの特徴を知っているだけでも、お産の痛みについての話をするときに心穏やかになれるのではないでしょうか!

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