見出し画像

1.本当はあまりわかっていないという事実を認識しよう!@無痛分娩

 「こんなツイートがバズってるよ。」と仲間からのメール。そのつぶやきには、多くのいいねやリツイートが。それらを読み、少し整理した方が良いと思い、無痛分娩の専門家として考察してみました。(この最初のツイート自体は、面白く表現されたシュールなコンテンツだと思います。)

 はじめまして。世界初の無痛分娩コンサルタントという仕事をしています入駒慎吾と申します。無痛分娩の教科書も執筆している産婦人科および麻酔科の両方の専門医を持つ医師です。少しでも皆様のお役に立てるように、このつぶやきに関して考察してみました。

 「無痛分娩」は麻酔を用いて出産の痛みを軽減することですが、出産に関わる医療従事者ですらその詳細は理解できていないのが現状です。一方、人類すべての方々が出産と縁がありますので、何かしらコメントができる訳です。客観的に見ますと、皆さんが良くわからないことを、それぞれの価値観や安全性などの自由な論点で議論し合っていることになります。とても不思議な状況と言えるでしょう。

 わかりやすくするために、別の医療行為で考えてみましょう。例えば、「ロボット手術」というものをご存知でしょうか?おそらく、無痛分娩と同じような比率で日本人が受けている医療行為の1つです。このロボット手術、通称「ダ・ヴィンチ手術」について、どのようなご意見をお持ちでしょう?

画像1

 「ロボットが手術するの???」「暴走したら、どうするの?」「人間の手が一番じゃないの?」「保険効かないのもあるんでしょ?」などなど。

 結局、よくわからないということが理解できたと思います。そうなんです。ロボット手術と同じように、本当は無痛分娩のこともよくわからないはずなんです。先ずは、「無痛分娩のことはよくわかっていない」という事実と正面から向き合うことから始めていきましょう。

 それでは、どうすればいいのか?

 是非、無痛分娩の専門家である入駒に整理させていただきけないでしょうか。これまで、全国各地の無痛分娩に関する市民公開講座で登壇させていただいた実績があります。一回で理解していただくには、専門的な内容も多く難しいと思いますが、一緒に論点の整理から始めて参りましょう。

画像2

 最初に、これだけは知っておかなければ始まらないという知識として、無痛分娩が麻酔で陣痛を緩和する医療行為(プロセス)を表した言葉であるということです。実は、「痛くなかった」や「痛かった」という結果を表す言葉ではないんですね。漢字で書くと、“痛みの無い”分娩となってしまうところに、最初の誤解を生む原因があるのでしょう。ただし、これは医学用語なので、用語改正でもない限り変わりません。“麻酔をするお産”を「無痛分娩」として受け入れなければなりませんね。結果として、無痛分娩にはお産そのものに関するメリット・デメリット以外に、プラスアルファした麻酔に関するメリット・デメリットも付随するということになります。無痛分娩について、少しご理解いただけたでしょうか?

 次に、この無痛分娩の議論を空中戦にしている論点について整理していきましょう。この論点には、大きく2つあると思っています。1つは、「価値観」という論点。もう1つは、「安全性」という論点です。

 1つ目の論点、価値観について。日本には、昔から「お腹を痛めてこその我が子」や「将来、子供を育てていくために陣痛は乗り越えなければならないもの」という考え方に由来した独特の価値観があります。これ自体は、認められるべきものだと考えます。ただし、ご本人にとっては、の話です。勘のいい方は、もうおわかりかだと思いますが、価値観というからには他人に強要すべきではありませんね。もちろん、親子でも、夫婦でも、恋人でも。以前流行ったダイバーシティとは、正に相手の価値観を認めることで成り立つものでした。価値観を認め合うことが、人間社会を豊かにしていく根本となるのでしょう。

 2つ目の論点、安全性について。これは、ファクトベースで考えるべきものです。この記事の前半部分でも述べましたが、分娩に関わる医療従事者でも無痛分娩のことをちゃんと理解している訳ではありません。これは、自分自身に無痛分娩を提供する医師に説明を受け、実績などを数値化していただかなければわからないでしょう。つまり、無痛分娩のリスクの一般論を理解し、自分の受ける無痛分娩のリスクと比較することではじめて安全かどうかの判断が可能になります。さらに、分娩自体にもリスクがあるため、プラスアルファの麻酔だけのリスクは測りにくいことも問題を複雑にしています。これを、専門家以外が議論することを、みなさんはどうお感じになるでしょうか?結局のところは、自分が主治医をどれだけ信頼できるかどうかに収束していくものではないかと思います。

 それでは、具体的に上記のツイート内容で深堀していきましょう。

 この本質は、夫&姑ブロックですね。ここには、許さない(反対する)理由が必要になります。価値観の問題であれば、自分の価値観を認めてもらえないことをどう受け止めるかという家族問題にあたります。ひょっとしたら、将来的に離婚の可能性も検討しなければならない事態になるかもしれません。それはそれで、悲しいことですね。また、安全性の問題であれば、ファクトを示して説得しなければなりません。逆に、危険が明らかであれば、ファクトを示して説得するのが家族の役割です。このツイートの表現だけから推測すると、頭ごなしの否定に受け取れるため、ファクトのない対応、つまり価値観の押し付けにあたりそうですね。

 今回は触れませんでしたが、分娩自体も保険診療ではありません。無痛分娩には、さらにプラスアルファの金額が掛かります。それがネックとなる場合もあるでしょう。今回のツイートにその気配を感じませんでしたので、無痛分娩費用に関しては述べませんでした。(これもまた、ややこしいのです。)

 最後に、無痛分娩の一般論についてわかりやすくまとめたサイトを紹介させていただきます。私が2019年4月に設立した非営利団体・一般社団法人日本無痛分娩研究機構のホームページに一般方向けのものがあります。「1162club.com(いい無痛クラブドットコム)」と言います。そのなかで、ほぼリアルに近い無痛分娩の流れを表したアニメーション動画があります。これは、大河ドラマのオープニングを手掛けたクリエイターさんの作品です。どうぞご覧になってください。また、私が登壇した市民公開講座のYouTube動画も非営利団体の別サイトにありますので、こちらもリンクを貼っておきます。みなさまの無痛分娩のご理解に貢献できれば光栄です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?