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葬式からみる死生観

最近、『人はどう死ぬのか』を読みました。
人の死、そして自分の死について考えさせる素晴らしい本です。

死に関する考え方も、国によって違いますね。この本でも語られていましたが、死とは必ず全員に訪れる1度きりのイベントなので、自分の希望通りにはいかなくてもそれなりに納得のできる死を体験できればいいなと思います。

そのためには生きている間のコミュニケーションが鍵。
しかし死について、表立って話すのはなんと無く憚られる日本。

今日はそんな死生観の違いを感じさせる、アイルランドの葬式の話です。語弊があるかもしれませんが、私はアイルランドの葬式が素敵だと思っているんです。

遺族をハグで慰める

私は30の頃にアイルランドに移住しているので、日本であまり多くの葬式には参列したことがありません。なので比較対象が少ないことを前提にお読みいただければと思います。

アイルランドの葬式に、初めて参列してともかくびっくりしたのは参列者が多いということです。300人程度が通常の規模で、教会の中に人が入りきらず、教会の周りに参列者が行列をなしている光景が一般的なものとなっています。

アイルランドはカトリックが主流なので、亡くなられた時にお通夜のようなイメージで、家族や身内だけの小規模なミサが行われ、後日、一般の参列者を含んだ葬式が教会にて大々的に行われます。

葬式では、神父によって進行され、身内の方がスピーチを行ったり、参列者がご遺族の方に順に抱擁したりします。

この家族への抱擁が、素敵だなと思う一つ目のポイント。
故人の死を悼むために集まった何百人もの人が、残された家族に順にハグをして、慰めの言葉をかけるのです。故人が大切に思われていたこと、そして残された家族に対して、私たちがそばにいてあなたたち家族も大切に思っているよ、という愛情を表現する素晴らしいセレモニーだと考えています。

義父は私と旦那さんが出会う前に亡くなったのですが、彼の葬式の思い出話を聞くと彼の人柄が浮かんでくるようで、なんだかほのぼのします。
義父はリタイアしてようやくゆっくりできるね、と言っていた矢先に突然亡くなり、義母も家族もショックが大きかったようです。

しかし葬式には1000人ほどの人が集まり、教会はおろか、その庭や敷地内からも人があふれ、非常に盛大な葬式になったようです。
アイルランドの葬式の参列者は多いとはいえ、一般人の葬式としてはかなりの規模です。

ちなみにアイルランドの葬式は、身内や親しい人には開催日時を教えますが、それ以外の参列者は公告される葬儀情報をもとに、自発的に集まってくる感じです。
多くの人が、義父の死を痛み、そして義母や残された家族を勇気づけに集まってくれたのです。
あんな葬式は今でもみたことがない、と誇らしげに義母と旦那が話しているのを見て、義父が多くの人に愛された人であったことがわかります。

人数が全てと言っているわけではないのですが、個人の死を悲しむ人たちが葬式に駆けつけ、慰めの言葉をかけ、抱擁をしてくれると、残された家族の悲しみも少しは癒えるのではないかと感じるのです。

アイルランドの葬式は社交の場?

葬式では、棺の中のご遺体を男兄弟や親族などが担ぎ、教会に運び入れ、式が終わるとまた同様に担がれ、墓地や火葬場などへ運ばれ、個人の望んでいた方法により埋葬が行われます。

その後、集まった人々は、パブやレストランに行ったり、そのまま教会に留まるなどして、社交(?)の時間が始まります。

パブカルチャーがあるアイルランド。天気の良い日はパブから溢れ出した人々が、店の周りで飲みながら話しています。

葬式が開催されている教会から溢れ出した人々が、久しぶりに集まった旧友たちと楽しそうに話しているのをみると、それと同じように、葬式が社交の場になっているなと感じます。

もちろん若くして亡くなった方の葬式は、辛さとやるせなさで重い雰囲気となってしまうのは当然なのですが、お年寄りの葬式は誤解を恐れずにいうと、和気あいあいとしているのです。
しっかり長生きできて旅立つことができておめでとう、といった祝福のメッセージが込められているように感じます。

おじいちゃんおばあちゃん集団が、次は自分達の中の誰かな〜と和やかに話している様子や、あいつ医者に酒やめろって言われたのにやめなかったな、などと言っているのを目の当たりにすると、アイルランド人にとって死とは必ずしも恐れおののき、言及するのを避けるべきもではないのかもしれないと思います。

それを裏付けるように、天気の良い日は多くの人がアイルランドの墓地を、散歩しています。お墓参りをするというよりは、緑の多い墓地をリフレッシュや犬の散歩のために歩いているのです。アイルランドの人々は、死を語ること、死を身近に感じることを、タブーに捉えていないように感じます。


アイルランドのお墓はケルト十字と呼ばれる十字部分に環がかかる形式をした美しい形をしており、下の写真のように緑豊かな墓地が多いです。

Glasnevin Cemetery


秋の収穫を祈り、故人を悼むハロウィンも、元はアイルランドなどケルト文化が発祥とされています。
アイルランドならではの死生観も参考にしながら、毎日の生活を大切にしていきたいと思います。

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