編集にあたって

2024年9月17日 09:16

竹内郁雄
（IPA未踏IT人材発掘・育成事業　統括プロジェクトマネージャ）

　未踏事業で採択され，優れた成果や成長を示した人たちを未踏スーパークリエータと呼ぶ．数年前から，未踏事業は3つの事業に拡大しており，ここで「未踏事業」と呼んでいるものは正確には「未踏IT人材発掘・育成事業」であり，年度始めに25歳未満の若い人たちを対象とした事業である．

　未踏事業は2000年度にミレニアム事業として始まったが，この年次報告は，2012年度から「未踏IT人材発掘・育成事業」（以下，この事業だけを指すときは，「未踏IT」と略記する）に採択され，スーパークリエータとして認定された若い人たちの業績や人となりを紹介するものである．日本の若い才能溢れるIT人材の元気さや多様性を広く産業界や学界に知っていただきたい．若い彼・彼女らは，必ずや日本のITを活性化してくれるものと信じている．実際，今年で25年目になる「未踏」はすでにブランドを確立しており，2023年度からはビジネス化や社会的に意義の高いプロジェクトを実施する「未踏アドバンスト事業」と先端技術に特化したプロジェクトを実施する「未踏ターゲット事業」が増強された．

　この記事では若いIT人材を育む「未踏IT」で素晴らしい成果を出したクリエータを紹介するが，これからの時代を担う若い人材に刺激を与えられればと思う．

　2023年度の第30期未踏クリエータは計36名（21プロジェクト）で，そのうちの25名（15プロジェクト）がスーパークリエータとして認定された．2014年から認定率は右肩上がりに増え続けてきて，28期は50％と一服した印象だったが，今年は69.4％と過去最高になった．採択プロジェクトの数はこの10年間ほとんど変化していないが，応募倍率がどんどん上がってきていることもその理由であろう．なお，スーパークリエータの認定は相対基準ではなく，絶対基準であることをお断りしておく．そんなに多くていいのかという声も出そうだが，この記事で紹介された彼・彼女らを見るとうなずいていただけるだろう．

　昨年度は何度も応募した挙げ句に採択された人が多かったが，2023年度は7名で，2回目で採択された人がほとんどだった．そのうち4名がスーパークリエータになっている．未踏ITでは伝統的に不採択の人にも，丁寧な不採択理由を送るようにしている．これが捲土重来の，さらに先鋭度を増した提案につながっているのではないかと自負している．

　いつものことであるが，今期も低レイヤからWebアプリまで幅広くバランスよくスーパークリエータが選ばれた．なんらかの形でハードウェア開発を行ったプロジェクトは6件であった．未踏の最大の特徴の1つである多様性の面目躍如である．

　2023年度にはコロナ禍がほぼ去ったが，ハイブリッドな会合は自然に残った．

　右ページの一覧は，これまでに倣い，代表者であるクリエータ名の50音順とする．タイトルは正式なものではなく，読みやすく憶えやすい「名は体を表す」キャッチに変えてもらった．なお，2024年2月17〜18日の2日間にハイブリッドで開催された成果報告会（Demo Day）のすべての動画は
IPA channel
https://www.youtube.com/user/ipajp/
で見ることができる．最近のプロジェクトはデモなど，動画で見たり，聞いたりしないと面白さや意義が分からないものが多いので，興味を持たれた方，スーパークリエータ以外の発表にも関心がある方は，つまみ食い的に見ることもできるので，ぜひそれをご覧いただきたい．

　この記事ではスーパークリエータだけを紹介しているが，スーパークリエータ認定に漏れた人のプレゼンにも興味深いものが多い．それは未踏修了生のその後の活躍を見ても同様の印象である．ぜひ未踏修了生の今後の活躍に注目していただきたい．

（2024年7月9日受付）
（2024年9月15日note公開）

■ 今村翔太
Capabilityを主軸とするマイクロカーネルCaprese

■ 上田蒼一朗，野崎愛
Wasmを実行するunikernelとWasmコンパイラ Mewz

■ 王方成，松尾勇吾，染谷大河
サッカーのゴールキーパーのための練習データ分析システム Smart Goal

■ 太田涼介
自作マイコンの開発を容易にする開発環境NextMicon

■ 岡田拓真
乳化量最大化を目指したエスプレッソ抽出制御システムConnoisseur

■ 加藤優，森口椋太，木付碧
デザイン性の高い衣服リメイクによる循環型プラットフォームHIZUMI

■ 子安竜司
対話可能な選択的除草ロボットOHANA-ROBOT

■ 芝山駿介
Pythonにトランスパイル可能な静的型付け言語Erg

■ 髙橋亮太
手話認識による逆引き検索が可能なクラウド型手話辞典

■ 竹味和輝，小島聡太，刀禰有紀彦
テーマパークでの満足度を最大化するためのプラン作成支援アプリケーション

■ 土肥正義
ロボット記述言語に基づくドローン開発支援ツールTobas