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材料開発を加速するAI基盤モデル

2023年度業績賞紹介
【受賞業績】
AIを活用した材料開発ソリューションの産業応用展開

武田征士(日本アイ・ビー・エム(株))

岸本章宏(日本アイ・ビー・エム(株))

浜田梨沙(日本アイ・ビー・エム(株))

Indra Priyadarsini(日本アイ・ビー・エム(株))

篠原 肇(日本アイ・ビー・エム(株))

 今回は我々が開発している材料用AI技術であるMolGXおよび基盤モデルが業績賞をいただく運びとなったので,それぞれについて簡単に解説する.

 高度な性質を持つ新材料は,情報・医療などあらゆる産業の発展に不可欠である.近年,マテリアルズ・インフォマティクス(以降MI)と呼ばれる,AIやHPCなど情報処理技術による材料開発の加速が試みられている.特に,融点,耐熱性など材料の特性を決定づける分子構造の設計は数カ月以上かかるため,材料開発のボトルネックである.我々は,グラフ理論を用いた分子生成ツール MolGXを開発した.本技術は,所望の特性入力(例:「融点が100度以上で低毒性」など)に応じて,材料科学者の約100倍程度の速度で新分子構造を設計・出力する¹⁾.本技術をカーボンリサイクリング用ポリマーフィルム²⁾などの設計に用いることで,通常は数年程度かかる材料開発全体のプロセスを半年で達成した.また,生成モデルOSS「GT4SD」に実装し,PyPIおよびGitHubにて,さらに一部の機能をWebアプリとして一般公開した.

 また,我々はMI用のマルチモーダルな大規模基盤モデルの研究開発を進めている(図-1).本基盤モデルは数10億のパラーメータ数を持ち,5種類以上のモダリティにわたる数10億の学習データサンプルにより学習されたモデルである.材料構造のマルチモーダルな特徴表現(SMILE,分子グラフなど)を同時に捉えるため,物性予測などの下流タスクにおいて高い精度を発揮することができる³⁾.また,1つのモデルで物性予測・分子構造生成・スペクトル予測など複数のタスクを実行することができる.今後,コンソーシアムAI Allianceを通じたオープンソース化も含め開発を進める.

図-1 MI用基盤モデルの概念図

参考文献

1)Takeda, S. et al. : Molecular Inverse-Design Platform for Material industry, KDD (2020).
2)Giro, R. et al. : AI Powered, Automated Discovery of Polymer Membranes for Carbon Capture, npj Computational Materials (2023).
3)Kishimoto, A. et al. : MHG-GNN: Combination of Molecular Hypergraph Grammar with Graph Neural Network, NeurIPS (2023).

(2024年5月25日受付)
(2024年7月16日note公開)

武田征士(正会員)
2010年慶應義塾大学大学院博士課程修了.同大学院特任助教,Ecole Central Lyon 客員研究員を経て,2012年日本IBM入社.

岸本章宏
2005年アルバータ大学コンピューティング・サイエンス科博士課程修了.IBMダブリン研究所等を経て,2020年より日本IBM入社.

浜田梨沙
2019年慶應義塾大学大学院博士課程修了,工学博士.同年より日本IBM入社.

インドラ プリヤダルシニ
インド・バンガロールPES工科大学にて学士号を取得.2019年静岡大学大学院修士課程,2022年同博士課程修了.2023年より日本IBM入社.

篠原 肇
2018年ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所博士課程修了.外資系コンサルティングファームを経て,2023年より日本IBM入社.