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選定にあたって

松原 仁
(IPSJ/IEEE -Computer Society Young Computer Researcher Award選定委員会委員長/京都橘大学工学部情報工学科)

 情報処理学会(IPSJ)とIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)は,情報学の分野において国際的にイノベーションの起点となる重要な研究開発の成果を達成した若手研究者・技術者を表彰の対象として,IPSJ/IEEE-Computer Society Young Computer Researcher Awardを2018年に創設しました.

 本賞は,本会とIEEE-CSが対象とする研究・産業分野において,理論・技術・アプリケーションの発展に寄与した若手研究者・技術者を毎年3名以内で顕彰するものです.受賞対象者は,日本国内の大学や公的研究機関,企業に所属し,本会ならびにIEEE-CSの両学会の正会員の40歳以下の者とし,さらに本会論文誌または本会主催の査読付き国際会議で発表実績があることと,IEEE-CS発行の論文誌またはIEEE-CS主催の国際会議にて発表実績があることを要件としています.7回目となる2024年は,2023年11月を締切として候補者の募集を行ったところ,5名の推薦がありました.本会4名,IEEE-CS2名,合計6名から構成される選定委員会において慎重に選定を行い,本賞の基準を十分に満たしているとして,両理事会の承認を得て,以下の研究業績に関して下記3名の受賞が決定しました.

•鳴海拓志さん:Outstanding Research on Human Augmentation with Virtual Avatars
 鳴海さんは,バーチャル空間のアバターを用いることで人間の知覚能力を増強させるという新しい研究領域を立ち上げて優れた成果をあげています.アバターによって,触覚,嗅覚,味覚などの知覚能力を増強し,そのことを通じて創造性の向上,共感と相互理解の促進,身体的パフォーマンスの向上,共感と相互理解の促進,身体能力の向上,同調圧力の緩和,ディスカッションの質の向上などさまざまな能力を向上させることを示しています.それらについて多くの魅力的な論文を発表しています.

•馬場雪乃さん:Outstanding Research on Machine Leaning for Human-AI Collaboration
 馬場さんは,機械学習における人間とAIの協調に関する研究に取り組み,特に「真実発見」に関するさまざまな成果をあげています.「真実発見」とは複数の情報源から信頼できる情報を見つけ出す技術で,基本的には多数決による判断になりますが,馬場さんは内容に詳しい専門家の情報源が多数決で内容をよく知らない多数派に負けてしまうことがないような仕組みを考案しています.それ以外にも「真実発見」について多くの興味深い研究論文を執筆しています.

•孫 鶴鳴さん:Research on Neural Network-based Learned Video Compression
 孫さんは動画像の伝送と蓄積の負担を減らすためにニューラルネットワークを使用して,動画像圧縮のレート・歪み特性を向上させる研究を行っています.ニューラルネットワークは他の領域でも成果をあげていますが,非線形性と特徴抽出の能力によって動画像圧縮でも大きな成果をあげており,孫さんが開発したニューラルネットワークベースの動画像圧縮はレート・歪みの指標で従来手法であるVVCを凌駕しています.この成果はインターネットの性能の向上に大きな効果があると期待されます.

 受賞者の今後さらなる活躍を期待するとともに,IPSJ/IEEE-Computer Society Young Computer Researcher Awardを通してこれからも情報学分野で国際的に活躍する優秀な若手研究者を顕彰していきたいと考えています.

(2024年7月28日)

(2024年9月17日note公開)

#2024IPSJ_IEEE賞紹介