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コロナ禍も三人寄れば遠隔化


赤池英夫(電気通信大学大学院 情報・ネットワーク工学専攻)

[受賞論文]
FPGAを用いた論理回路設計実験のための遠隔実験システムの作成と評価
情報処理学会論文誌 教育とコンピュータ(TCE) Vol.8, No.2, pp.51-63 (2022)
赤池英夫,島崎俊介,成見哲(電気通信大学)
http://id.nii.ac.jp/1001/00218606/

 このたびは本会論文賞を頂戴し大変嬉しく存じます.編集委員,査読者の方々に深く感謝いたします.本論文はコロナ禍が猛威を振るい始めた年の奮闘の記録です.本稿では背景,実験にこぎつけるまでの様子を述べたいと思います.2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行のため筆者らの所属する大学でも4月から全面的に入構が禁止されました.本学には3年生を対象とした実験があるのですが,筆者ら3人の担当する課題ではFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて作成した回路の検証にスイッチやオシロスコープの操作を要するため機材のある学内でしか行えませんでした.本課題の実施は例年より遅くしてもらい7月初旬でしたが,対策の検討を開始した時点で与えられた猶予は3カ月を切っていました.当時,筆者らは毎日何通もメールを交換して実験の遠隔化のアイディアを出していきました.結果,数日で方向性が決まったものの,技術的な細部を詰めるにはもう少し時間が必要でした.ほんの一部ですがやりとりを紹介します.

  • 方針:「実機を使わずソフトウェアによるシミュレーションはどうだろうか」「いや,なるべくリアルにいきたい」「FPGAトレーナボード(図中トレーナ) のLEDの点滅やオシロスコープの波形が観察できるようにWeb カメラで撮影しましょう」と可能な限り例年のような実験環境を目指しました.

  • 学外から学内(図中CED)の計算機に接続された装置の制御:「ラズパイとFPGAトレーナボードを接続してスイッチを操作できるようにして結果をLAN経由で得るのはどうでしょう」「電圧レベルが違うのでArduinoがいいんじゃないでしょうか,それもポートが多く必要なのでMegaとか?」「スイッチとはオープンコレクタで接続すればいいですよね」と既存機材を改良することとしました.

  • 課題実施前の学生へのサポート:「初めてVNCを使う学生も多いので各OSごとにマニュアルを用意しましょう」「本番前に練習日を設けたほうがいいですね」とこれまで必要のない作業が必要でした.

 結局,遠隔操作のためのGUI アプリケーションが完成したのは実験初日の3日前でした.遠隔化したシステムの概要を図-1に示します.最終的に大きなトラブルもなく終えることができましたが,急ごしらえ故の問題もありました.今思えばさらなる臨場感や学生へのきめ細やかな対応が必要だったと反省しています.

図-1 遠隔化したシステムの概要

 最後に,本稿のタイトルを「... 三人寄れば...」としましたが正しくありません.まわりの多くの人に支えられてなんとか乗り越えられた,というのが正確です.

(2024年5月15日受付)
(2024年7月16日note公開)

■赤池英夫(正会員)
1988年電気通信大学計算機科学科卒業.1994年同大学院博士課程単位取得退学.同年同大学大学院情報システム学研究科助手.2010年同大学大学院情報理工学研究科助教.修士(工学).HCI,インタラクティブシステムに関する研究に従事.