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プレイヤー・ピアノ─ 1950 年代初頭に描かれたSociety5.0 ─

小出誠二(オントロノミー合同会社)

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カート・ヴォネガット・ジュニア 著,浅倉久志 翻訳
早川書房(1975,2005(新装版)),603p.,700 円+税,ISBN:978-4150115012

※本記事のPDFは情報処理学会電子図書館に掲載されており、情報処理学会会員は無料で閲覧できます。(http://id.nii.ac.jp/1001/00206314/

「第三次産業革命」

「これ,とてもすばらしいですわ.とくに第二次産業革命についておっしゃっているところ」
「古い古いお題目さ」
「でも,わたしにはとても新鮮でした ー つまり,第一次産業革命がどんなふうにして肉体労働の価値をなくし,第二次産業革命が単純な頭脳労働の価値をなくしたかを説明なさっているでしょう.わたし,すっかりひきこまれちゃって」

 これは『プレイヤー・ピアノ』(Kurt Vonnegut Jr.,1952(原著))からの引用である.以下,次のように続く(早川書房 2013 年発行の電子書籍版(朝倉久志訳)による).

「どうでしょう.第三次産業革命は起こるでしょうか?」
ポールは自分のオフィスの入口で足を止めた.「第三次?そりゃどういうものだい?」
「さあ,はっきりとはわかりませんけれど.でも,第一次と第二次の革命も,それより前の時代には考えられないことだったんでしょう?」
「機械にとって代わられる人びとにとっては,たぶんそうだったろう.第三次革命ね.ある意味では,その革命はもうしばらく前からはじまっているのかもしれんな.つまり,それが思考機械を意味するならさ.たぶん,第三次革命はそれだよ ー 人間の思考の価値をなくする機械.EPICACのような大型コンピュータは,すでに専門分野でそれをやってのけてる」
「なーるほど」キャサリンは考えぶかげな声を出し,歯の間で鉛筆の先をコツコツ鳴らした.「最初は肉体労働,つぎが単純な事務,それから,たぶん,ほんとの頭脳労働の領分ってわけですね」

 作中の「第三次産業革命」とは現在の文脈でいえば,独のインダストリー4.0 に端を発する第4 次産業革命のことになろう☆1 .第1 次産業革命は英国の蒸気機関による動力革命であり,第2 次産業革命とは電気モータによる動力の分散配置のことであり,第3 次産業革命とはPLC による機械の知的制御のことであり,第4 次産業革命がインターネットでつながった工場の情報通信革命のことである.

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