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「情報処理」巻頭コラム

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情報処理学会 会誌「情報処理」のバックナンバーから,巻頭コラムを順次紹介していきます.IT専門家はもちろん,教育者,政治家,医師など、様々な業界の方々にご執筆頂いています.
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2020年10月の記事一覧

AI時代の教育はどうなるか?

川上 量生 (株)ドワンゴ 顧問  ディープラーニングの大成功により,AIブームが日本でも始まった2015年頃は,ちょうど,ぼくはN高等学校の設立準備をしていた.人間の大脳新皮質では6層といわれていたニューラルネットワークが,コンピュータだと,もっと多段にも簡単にでき,しかも,そのほうが学習の精度が高いなどの結果が,次々と報告されていて,研究者の方の話を聞くと,もはや,AIが人間の脳を参考にする時代は終わったという空気が出てきている,とのことだった.  であれば,AI

スポーツとテクノロジーの繊細な未来

西薗 良太 NTT コミュニケーション科学基礎研究 リサーチスペシャリスト  NTTコミュニケーション科学基礎研究所,柏野多様脳特別研究室にてリサーチスペシャリストとして研究に従事している西薗良太と申します.20代は学部在学中からロードレースという競技にのめりこみ,卒業後はプロ選手として本場ヨーロッパ各地はもとより,アジア・中東・北米など世界各地を転戦する日々を送りました.各方面よりサポートにも恵まれ,全日本選手権で3回優勝し,アジア選手権代表なども務めさせていただきました

パタゴニアのキャンプで「自宅待機」

真鍋 真 国立科学博物館・標本資料センター コレクションディレクター  約6600万年前のある日,現在のメキシコのあたりに直径約10キロメートルの隕石が衝突した.これによって急激な環境変化が引き起こされ,ティラノサウルスやトリケラトプスなどの有名な恐竜たちは絶滅してしまった.しかし,恐竜の一部から進化していた鳥類は体が小さく,少ない食量でやり過ごすことができたために,恐竜は完全な絶滅を免れたと考えられている.これは隕石衝突前後の化石が数多く見つかっている北米の化石に基づ

教科書通りじゃない情報処理, それが拡張現実

川田 十夢 AR三兄弟長男  新型コロナウイルスの影響で,世界中の市民が先の見えない閉塞感に苛まれている.6月以降のあなたが,どのような心持ちで毎日を過ごしているのか.4月の私は,想像しながらこの原稿を書いている.  最初期は,飛沫感染の啓蒙になるような,目に見えない空気の流れを可視化するべきではないかと考えた.手を動かしてすぐ,悪い意味で無駄なことだと思いとどまった.ウイルス感染リスクがあることを自覚しながら,仕事場へ出かけなければならない人たちが膨大にいる.漫然と

もうひとつのクラスター対策班

奥村 貴史 北見工業大学工学部教授  2020年,世界は新型コロナウイルスによるパンデミックに襲われた.日本の街は,緊急事態宣言に基づく各種施策によって一変した.大きな社会的混乱が生じつつも,ウイルス感染を判別できるPCR検査にはさまざまな制約があり,政府の対策を不安視する声が各所で上がった.この原稿を執筆している2020年6月時点で,緊急事態宣言は解除された.しかし,このあと今までと同じ日常が戻る可能性は低い.それでも,ここに至るまでの第1波の沈静化に,厚生労働省の「クラ