中級者が上級者になることに関するジレンマ

※見やすさ重視で敬称は略してます。悪意はないです。
※鮮度は大切ですし、少し中途半端でも発信しようと思い執筆してますが、ほぼ6000字です。

1 前文

昨今の日本では、オフライン対戦の重要性が指摘されるようになりました。
なぜなら、なぜパキスタンが世界で頭ひとつ抜けているのか、その主たる理由として挙げられているためです。
そして先日、韓国人プレイヤーのSodamから、こんな意見が発信されました。

sodamの意見のうち、自分の理解を述べます。
(解釈が間違ってる可能性もあるので、リンク先の一読推奨)

① 日本にはまだ残っているゲーセン及びオフライン対戦文化は、韓国内では無くなった。自室からオンラインに潜るだけでイベントに行くことも無い。
② 韓国内でプロ・アマ・コミュニティを問わず、横串を通して意見交換する場が必要である。
③ 現状パキスタンに対抗し得るKneeとLowHighは、負けず嫌いが高じて今の実力がある。
④ 従って、韓国上位層は集まって対戦し、切磋琢磨すべきである。

確かに、年始のEvoJPのAshショックを皮切りに、パキスタンの実態が明るみになるにつれて、オフライン環境で対戦しようとする日本人が増加してきました。

しかし、大会シーンの内側から鉄拳を眺めていた自分には、大きな疑問がありました。

「日本のオフライン対戦会は、パキスタンに対抗する力を持ち得るのか」

そして、もやもやした感想を推敲して意見をまとめていくうちに

「俺に近いレベルのプレイヤーたちは、パキスタンに勝てるようになる機会を失い続けているのではないか」

こう考えるに至りました。

2 ”大会中級者”が抱える問題(今回言いたいこと)

① 中級者から上級者へのステップアップは、「伝承機会の消失」に阻まれている。
② 日本の中級者は、現状から脱出しにくい袋小路に陥っている。

③ 中級者まで含めた情報共有を行い、上級者を増やし、全体的なプレイヤーレベルをより押し上げる必要がある。

ーーー※補足(用語の定義)ーーー
 イ 初級者
 初心者と同一ではない。大会で成績を残すレベルにない人。
 この文章においては、例えば鉄拳神天の経験者も該当する場合がある。
 ロ 中級者
 おおよそ、大手大会でコンスタントにベスト8に残れないレベルから、
 ワンチャンかみ合えば上級者を倒せるみたいな層までをさす。
 自分はここにいるものとして扱っています。
 ハ 上級者
 大会上位常連。
 文脈によっては、経験豊富で過去に実績があるプレイヤーを含む。
 ニ 超上級者
 パキスタン、KNEE、Book等の別格組
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「大会上位に残るために」あるいは「パキスタンを倒すために」という視点で見たとき、上級者が中級者と対戦する意義は、薄い又は不要なのは当然だと思います。
しかし、この当然の回答が、上級者同士の対戦会を内向きに行わせてしまっており、中級者の成長の機会が失われているのではないか、というのが主題です。

ただし、俺が言いたいのは「上級者ばかり集まってズルい」ではありません。

上級者コミュニティはそもそも身内であることが普通で、集まるのはむしろ自然であり、その中だけで情報共有されるのもある意味で当然のことです。
また、対戦会を開催するにあたっても、レベルの設定は主催者の自由であり、重要な項目なのも理解しています。

では何が言いたいのか。
それは上級者が、中級者ではアクセスが難しい、技やフレームによらない部分の攻防についての知識を持っているにもかかわらず、これが供給される仕組みづくりがなされていない点です。

3 技術の伝承について

3-1 ゲーセンコミュニティの変質による弊害

前述の「供給のしくみ」は昔から無かったわけではなく、元来はゲーセン文化がこれを担っていました。コミュニティシーンがコンシューマに移行したことで、この機能が失われつつあることを、再認識する必要があると思います。

ゲーセンに行けば誰か強い奴がいて、知らな奴に挑む・・・
こういった光景は、もう鉄拳では見ることが無くなりました。それこそ、無言で店内対戦が始まったら驚くレベルで。

「同じレベルで戦いたい」「狩られても上手くなるわけではない」というユーザーの声があって、オンラインの向こう側の相手と対戦することが当たり前になりました。この流れは時代に合っていると思いますし、間口の拡大にも一役買ったと思います。なので、挑まない初・中級者を責める意図はありません。
しかし、上級者とのコミュニティの隔絶化は確実に進んだともいえます。

一方で、上級者を開かれたコミュニティに引きずり出さなければならないという趣旨でもありません。コンシューマー版発売前くらいに、アケ店内対戦を積極的にしようという運動が起きました。しかし、上級者間ですら盛り上がりに欠けていたことからも、時流なのだと思います。
これにより、集まる場所がより内輪に、あるいは韓国と同様に自室オンラインになり、コミュニティの細分化が進みました。
(アケの品質が原因で、上級者が積極的にプレイをしなくなったという指摘も可能でしょうが、本旨とズレるので割愛します)

こうして上・中級者のコミュニティのベクトルにずれが生じてしまったと考えています。この状況は、「上級者からの伝承の場が失われている」といえるのではないでしょうか。

3-2 中級者と上級者の差と、情報共有の現状

上級者からの伝承を考えるうえで、その内容は何なのか明らかにする必要があります。
俺の考える中級者と上級者との差は、「勝てない相手に対する、対策の立案・実行能力」です。もっと言えば、これを一人で、かつより早いサイクルで対戦中に回せる力のことです。(以下、これを「戦略」という。)
しかし、この能力を養ううえで重要な、戦略の基礎情報を供給しているサイト等は、現在ありません。少なくとも自分は知らないせいで、上級者に聞く必要があります。

このキャラ対の外、ゲームの根幹とも言える戦略を知ることはとても重要です。
例えば、対戦中の被ダメ分析や、フレームに依らない有利を取られている部分の分析精度が低い場合、その部分を押し付けられて負けてしまいます。

初歩的な例かもしれないですが・・・
「技をガードした」という情報を得たとして、「フレーム有利だから2択をかけられる」と目先の行動で考えるのと、「移動方向を抑制されているから早めに壁位置を調整しよう」と試合全体の流れを考えて選択できるのでは、中期的なリスク管理でかなり差が出ます。
そもそも、ガードさせるために打った技に付き合ってる時点で相手にコントロールされているのに、状況有利という理解に到達し得るのはかなり怖くないですか?

俺自身にはこういった戦略へアプローチする力が欠けているという実感があります。それこそ、未だに大会実況でハメコゲンヤ実況から学んだことがあったりするくらいです。

ともかく、スマブラでいうスマッシュログ的な、信頼に足るソースがある、戦略の攻略記事等がないことは、大きな課題であると感じています。
前述の通り、鉄拳シーンではそれらの多くは口伝や体感で培われていて、文字で残る形になっていません。そのため、実戦的な戦略が全体で共有されることがなく、全体の実力の向上につながらないからです。

現在、発信されている攻略の大半はキャラ対策ですが、それでも公開している人は少なく感じます。
俺のように、特定状況の検証を公開している人は相当数いると認識していますが、具体例でいえば、Gさんの有名プレイヤーによるキャラ対策みたいなコンテンツは、信頼できる情報なので増えてほしいです。他にも、ツイッターでたまに流れてくるブライアンの人の#進拳ゼミみたいな基礎錬も、戦略の情報と同時に盛り上がってほしいコンテンツと思っています。

4 中級者だけでうまくなれるのか

「オフライン対戦会がレベルの底上げに必要である」という意見が根付いてきたというお話をしました。
それならば、中級者同士が集まってオフ対戦をすれば上級者になれるのでしょうか。
残念ながら、これも大筋では正しくはないと思っています。

中級者同士の切磋琢磨は一見よく思える・・・というか重要な要素ではあるのですが、例えばアドバイスの質には影響が出ると思っています。
これは、中・長期的な視点である、前述の戦略を知らないせいで、中級者の認識が上級者の戦略と乖離するという、前項で挙げた問題が起こるためです。

上級者との対戦をこなすに際して、自分に読みあいを生産する能力が「1」あるとします。対して上級者が読み合いを処理する力を「3」持っていたとすると、差分を対戦中に埋める必要があります。
しかしこの差分「2」を無理に生産しても、それはふつう短期的にしか機能しない戦略であり、レベル差が埋まるわけではありません。
中級者一人ではこの状況を打破するのが難しく、対戦や成長において袋小路に陥るのです。

従って、この状況に陥るプレイヤー同士が意見を出し合っても、正確な回答を導くのは難しいだろう、というのが自分の考えです。

この点に関して、俺自身は一人で読みあいを回す力が必要だと思ってこの半年くらい取り組んだつもりでしたが、実際は一人の力の限界を理解するだけでした。
目標として正しいという自信は今も持っていますが、処理できなくて押される状況を打破できなかったために、宿題だけ増えて解決しない状態が続いてしまいました。

補足というか、中級者同士の対戦を否定するつもりはありません。
当然中級者にも教えるのがうまい人はいます。
しかし、中級者のアドバイスには取捨選択が相当量求められる点に問題が残ります。
あるいは中級者同士でも、三人一組で対戦をして、第三者の目からのアドバイスを追加することで、新しい気付きがあったりするかもしれません。
自分が言いたいのは、シーン全体や自分自身の着地点がはっきりしないまま、盲目的にオフライン対戦を信奉する状況に陥ってほしくないということです。

5 今後望むこと

色々と書いてきましたが、結論として言いたいことをまとめると、
たとえ対戦相手が不足して、上級者同士で鍛錬を積んでいたとしても、何かの形で中級者から上級者に上がるきっかけを貰えないだろうか、です。
強くなることを望んでいても、それを得るきっかけがないのでは、あまりにも悲しいです。

この辺の技術の伝承は、ゼウガルやじょうたろう率いるESC勢が成功例だと勝手に思っています。実情は正直知らないのですが、しんちゃん、あおやま333といったプレイヤーが大会で頭角を現してきたことからも明らかではないでしょうか。若手のコミュニティですが、ライセンスプロも含むトップ層としての経験値をうまく還元できているのだと思います。

そういった意味で、最近のプロの活動に対して要望がいくつかあります。
それは、初心者を相手にする以上に、近い将来のライバルが育つための情報を流して欲しいのです。
当然、初級者をないがしろにするのは、シーン全体の衰退に繋がるため重要な問題です。しかし、中級者を繰り返し生産しているだけの現状は、格ゲー全体の活性化には繋がりこそすれ、鉄拳の大会シーンにおいて、打倒パキスタンの道のりとしては、無意味かあまりにも遠回りではないでしょうか。

YouTubeのような媒体が負担なら、文章でもいい。とにかく、ヘタクソがヘタクソを脱出するための情報が少なすぎます。
タダでよこせとか、情報が封鎖されてるのが気に入らないとかそういう話ではなくて、プロの情報として金を取ってもいいと思います。俺は払います。

他にも例えば、大会に行ったプロ含む上級者は、
「誰のどういう部分が強かった。こういう対策を積んでいきたいと思う」
というような発信をしてくれると嬉しいです。
当然、思考を晒すことへのリスクがあるのも承知だから、可能な範囲でいいです。
けれど、敗因分析があると、プレイヤーがどんな視点を持てばいいのかわかりやすいし、対戦環境のレベルは上がってくると思います。
個人的には、「経験になりました。悔しいけど次頑張ります!」以外のツイートがほぼないせいで、本人が言葉通りやるにしろ、正直邪魔なツイートが一個増えるだけって感想しか持ててません。

どういう風に試合を見返したらいいか発信してもらうだけでも、後追い配信が楽しくなるし、観てくれるファンも増えるんじゃないでしょうか。

6 おわりに

国内外問わず、明らかに韓国一強だった時代は一段落し、日本人が上位入賞する場面も増えているように感じます。
(裏でパキスタンが倒してるって話はこの際なしで)
これは、ランチュはじめ韓国プレイヤーが日本に来始めて、大会全体のレベルが急激に上がったからだと思います。引き上げられたという方が正しいかもしれません。
大会シーンに日本勢がやっと戻ってこれたのも、全体のレベルが上がったからじゃないのかと思います。
これからの日本は、大会に参加するプレイヤーの全体レベルをもう何段階か引き上げなければ、パキスタンに追いつけないのではないでしょうか。

だって、国内にノビ、チクリン、ノロマ、ダブルといったプレイヤーのスパーリングができる相手があまりにも少なすぎませんか?
ないから上級者で集まる、中級者がステップアップする機会を失う・・・
こうしてレベル差が開き続けるせいで、大会は似たり寄ったりの顔触れが上位に残り、相対的に世界との競争力が削がれていと思いませんか?

ただなんとなしに強い奴ら同士がやって打倒パキスタンとか言ってるのは危機感に欠けていないかと。
大会シーンの底上げをして、個ではなく中・上位層が一体になってパキスタンに追いつく必要が、今の日本にはあると思います。マジで。

この件に関して、中級者側が努力するのは当然ですし、しないやつを巻き込む必要性は皆無です。勝てないからと環境に責任を転嫁して、駄々をこねてると取られたらそれこそ終わりなので。
だけど、「上がりたい人がその機会を失っているのでは?」という認識が、日本ではかなり欠けているように思います。

「◯◯は俺が育てた」が増えれば、業界も活気が出ていいと思うんですけどね。


以上です。長々と駄文に付き合わせてしいまい申し訳ございませんでした。
無責任な話ではあるのですが、この文章に対する回答が自分の中にない状況です。しかし、漠然とした不安があり、あるいは自身がつまずいた経験から、中・上級者双方からこの問題を認識すべきと思い公開に至りました。
意見があれば、引用でなくリプくれた方が嬉しいです。それでは。