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NEIGHBORHOODによる一風堂オーストラリアのユニフォーム。デザイナー滝沢伸介さんが語るワークウェア論。

第5弾となる一風堂のユニフォームプロジェクト。今回、オーストラリア地域のユニフォームを担当したのはNEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)です。ユニフォームのディテールを紐解くなかで見えてくる、NEIGHBORHOODと一風堂との共通点とは?オーストラリア現地を舞台に行ったフォトシューティングとともに、デザイナー滝沢伸介氏へのインタビューをお届けします。

ラーメンも洋服も、モノを生み出すことへの誇りは変わらない
それが、「CRAFT WITH PRIDE」に込めたメッセージ

NEIGHBORHOODといえば、東京・原宿を舞台にブランドをスタートして以来、90年代から日本のファッションカルチャーを牽引してきたブランドのひとつ。デザイナー滝沢伸介さんが傾倒するモーターサイクルとそこから派生するカウンターカルチャーを軸に、ミリタリー、アウトドア、トラッドなどの要素を、独自の解釈でベーシックな洋服作りやライフスタイルの提案へと昇華してきました。
その勢いは衰えることなく、ドメスティックブランドの代表格のひとつとして認知され続けています。来年2019年はNEIGHBORHOODにとって創設25周年。節目を迎える直前に、一風堂とのコラボレーションについて滝沢さんが語ります。

INTERVIEW & WORDS by SHOTA KATO
PHOTOGRAPH by SINYA KEITA

海外の一風堂は、
日本のラーメン屋という概念とは違うアプローチをしていた。

―ユニフォームのお話の前に食について聞いていきたいのですが、滝沢さんは日頃ラーメンを食べますか?

滝沢伸介:大好きですね。というのも、僕は実家が製麺会社で子どもの頃から麺類をずっと食べて育ってきたんですよ。いまだに隙があるとラーメンを食べています。ラーメンは豚骨ラーメンが一番好きで、主張がある味が好きだったりしますね。そういうこともあって不思議なご縁を感じていますね。

―では、一風堂の店舗を利用したことはありますか?

滝沢伸介:もちろんあります。明治通り沿いの恵比寿のお店は何度か行っていますし、海外だとシンガポールのお店に行きました。シンガポールの一風堂は日本とはまたちょっと違う趣きですよね。日本の一風堂を含めて、いわゆる“ラーメン屋さん”という概念とは違うアプローチをしていて。今回のユニフォーム企画を通じて知りましたが、日本の店舗ではラーメンはソウルフードだけど、海外の店舗では新しい和食という位置付けというか。

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一風堂スタッフの熱量がきっかけと聞いて、純粋に嬉しかった。

―一風堂からユニフォームの依頼を受けたとき、率直にどう思いましたか?

滝沢伸介:もちろん他のブランドが海外店舗のユニフォームを手がけているのは知っていましたが、いざお話をいただいたときは意外としか言いようがなかったですね。ただ、現地の一風堂の責任者の方がNEIGHBORHOODの大ファンで、その熱量からこういう形に繋がっていったということを聞いて、それは純粋に嬉しかったです。NEIGHBORHOODに信頼を置いてくださっているなら、素直にユニフォーム=ワークウェアという考え方でつくろうと。

―今回はオーストラリア地域の店舗のユニフォームということですが、オーストラリアという国から着想を得たものはあるのでしょうか。

滝沢伸介:僕、オーストラリア自体は未だに行ったことがないんですよ。いつかは行きたい好きな国なので、このような形でお話をいただけたのは光栄でした。ただ、オーストラリアに合うユニフォームという考え方はしませんでしたね。素直にユニフォームということで、ワークウェアという考え方ですね。流行に左右されるファッションではなく、必要に迫られて生まれるものがワークウェアだと思うので、そういう発想とオーストラリア店のイメージ図からプランニングしていきました。海外の一風堂に関しては日本よりもアーバンな雰囲気があるので、都会的なユニフォームがいいだろうなと。

―ニューヨーク店のユニフォームを手がけたEngineered Garmentsの鈴木大器さんも、サンタモニカ店のユニフォームを手がけたnonnativeの藤井隆行さんも、まさにワークウェアは必要に迫られてつくられたものだと話していました。

滝沢伸介:僕が好きなスタイルであるワークウェアやミリタリーウェアは、今ではファッションとしてリクリエイトされています。本来、ワークウェアやミリタリーウェアは必要に応じてディテールが追加されたり、アップデートされたりという歴史を経ているものなので、そこにすごく魅力を感じているんです。ファッションはトレンドと隣り合わせだったりするので、それに応じてさまざまな表現方法があります。そういう一面も好きだったりしますけど、魅力を感じるものはファッションというよりもスタイルというか。その人のライフスタイルや生き様が表現されているものの方が好き。洋服は自己表現、自分のアイデンティティやスタイルである、ということですね。

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「CRAFT WITH PRIDE」という言葉は、
モノを生み出す人たち全てに当てはまる言葉。

―今回のユニフォームには、「CRAFT WITH PRIDE」というメッセージが入っていますが、どんな想いの元に発信されているものなのでしょうか。

滝沢伸介:僕らはこのスローガンを1994年のブランド創設時から使用しています。いつ、どの瞬間でも自分たちのつくるものにプライドを持とう。洋服づくりにまつわる全てにおいてこだわっていこう。そんなアティテュードですね。これは一風堂を含めて、何かモノを生み出す人たち全てに当てはまる言葉だと思っています。

―カラーでいうと黒で統一されていますが、黒は滝沢さんのクリエイションにおけるベースカラーですよね。

滝沢伸介:黒で貫くというほどストイックにやっているわけではありませんけど、やはり自分自身、一番好きでしっくりくる色が黒なんですよね。マテリアルの表情からさまざまな顔を持っている色というか。洋服であれば、コットン、ウール、ナイロンといった素材によって、表情の違いが一番わかりやすく表れる。すごく重々しく感じる黒もあれば、すごく軽く見える黒もあったりする。そこがすごく面白いなと感じる一番の理由かもしれません。黒は、脇役というか空間に溶け込む最適な色だったりすれば、自信に満ちた存在感のある色でもあったりする。状況によってその存在感を変化させるみたいなことは、一風堂で働く人にとってもあると思いますし、そういう相互性を感じ取ってもらえると嬉しいですね。

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そこに所属していることの誇りを感じさせることも、
ユニフォームの役割。

―ユニフォームでは、「CRAFT WITH PRIDE」と「IPPUDO」「NEIGHBORHOOD」を含めたタイポグラフィをわかりやすく配置するというデザインをとっていますが、そこに着地した経緯を聞かせてください。

滝沢伸介:僕が大好きなワークウェアの年代やスタイルのひとつに、自動車メーカーであるフォードの自動車工場で着られていた1920年代以降の制服があるんですね。今も多少その流れはあると思いますけど、つなぎの背中にメーカー名が刻印されていたりするサイン的なものがすごく好きで。そこに自社のプライドや、その人がそこに所属しているプライドが表れているんじゃないかって。そういうことも想像しながら、タイポグラフィをわかりやすく用いています。ちなみに1920~30年代はまだデニムが出現する以前なので、その意味でも個性があって好きですね。

―機能面において、ラーメン店に特化したディテールとしてはどんな部分がありますか?

滝沢伸介:わかりやすいのはポケットのディテールですね。僕らは普段ラーメンをつくることはないですけど、バイクをいじったりとか作業的なことは多かったりします。その辺りから実用的なディテールをずっと実体験として研究しているので、ペンやメモが入れやすいような工夫を盛り込んでいますね。ジャケットはスナップボタンで脱ぎ着しやすいコーチジャケットに決めた点もまさに機能性が表されているかなと。

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心身ともに錆びずにいること。
そのために、常に探究心と好奇心を忘れない。

―一風堂は「変わらないために変わり続ける」というメッセージを掲げています。時代や流行は速いスピード感のなかで変わるものですが、NEIGHBORHOODのものづくりはデザインが新しくなったとしても芯がしっかりとあり続けているというか。そこに一風堂のメッセージとのシンパシーを感じるんです。

滝沢伸介:それはまさに現代にすごく当てはまるというか。今はものすごいスピードで社会が変化しているじゃないですか。ここ数年は特別な進化のスピードだと思いますし、僕はそこを自分には関係ないと見過ごすことはできないというか。ある部分では時代を受け入れてあわせていくということが大事だと考えています。それは「変わらないために変わり続ける」ということだと思うんです。


変わらない「CRAFT WITH PRIDE」というメッセージを伝えていくためにも、ブランドとしては時代とともに変わっていかなければならないと。

滝沢伸介
そうですね。そのためには、とにかく錆びないことが一番大切というか。心身ともに常に使っていないといけない。日本では変わらないことの美学がすごく強いと感じることがあります。全否定するわけではなく、それはその人を表現する方法によっては素晴らしいことだと思うんですけど、その美徳にあまりにも捉われてしまうと錆びついてしまうのかなと感じるんです。常に探究心と好奇心を忘れない。そういうことなんでしょうね。

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これからも、ライフスタイルを高揚させるアイテムをつくりたい。

―一風堂オーストラリアのユニフォームを題材にNEIGHBORHOODのものづくりについてさまざまなお話を聞かせていただきましたが、滝沢さんはこのユニフォームを着られる現地スタッフはどんな方をイメージしていますか?

滝沢伸介:日本人、アジア人、女性もいらっしゃるでしょうけど、強いて言えば映画『クロコダイル・ダンディ』のようにタフでワイルドな方ですかね(笑)。気持ちとしては、このユニフォームを着ることでその人が仕事に向かうモチベーションやパフォーマンスが高まったりすると嬉しいです。一風堂オーストラリアの責任者の方がNEIGHBORHOODのファンだったということが今回のきっかけという話がありましたけど、僕自身も若い頃にロンドンのストリートファッションが大好きで。今のように簡単に入手できるようなものではなかったので、それを苦労して手に入れて来たときの満足感を今でも鮮明に憶えていて。僕とシチュエーションはまったく違いますけど、スタッフの皆さんが着てくれた時に、それと同じような高揚感があればいいなと思います。

―NEIGHBORHOODは2019年にいよいよ25周年を迎えますね。今後のものづくりのビジョンについて聞かせてください。

滝沢伸介:今すでに展開しているんですが、アウトドアメーカーとテントを作ったりしています。ライフスタイルギアというモノが時代的に求められていて、実用性のある道具を作っていければ面白いかなと考えていて。ファッションブランドが作る道具というふうに言葉にしてしまうとすごく軽い感じなんですけど、いつかは釣竿やルアーを作ってみたい。そういうフィッシングの道具にもスタイルが付いてくるので、あわせて提案していきたいですね。ブランドとしては25周年を迎えましたが、もう25年も経ったのかという驚きは率直にありつつも、1994年の立ち上げから何も変わっていない実感があります。25周年の記念というのは僕らが自分たちのためによくやったと祝うのではなくて、周りの方やお客さんに感謝の気持ちを示すということで、コレクションを通じて何かを発表していくという意味合いが大きいかもしれません。25年やったから偉いわけでもないですし、僕ら以外の方たちが楽しめること、喜べることを形にしたいなと考えています。

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滝沢伸介
1967年生まれ、長野県出身。

モーターサイクルやその周辺のカウンターカルチャーに傾倒し、1994年に東京原宿にてブランドをスタートさせる。


NEIGHBORHOOD
1994年創立。モーターサイクル、ミリタリー、アウトドア、トラッドなどの要素を独自の解釈で昇華したベーシックな服作りとライフスタイルの提案が、全てのプロダクトやプロジェクトのベースとなっている。
https://www.neighborhood.jp


WORDS by 加藤将太
編集プロダクション・OVER THE MOUNTAIN代表。

世田谷・松陰神社前と山梨県甲府市にオフィスを構える。紙・ウェブ媒体のクライアントワークから自主企画のイベントまで、さまざまな領域の編集を行う。「ひと山越える」を意味する屋号に込めたのは、クライアントの課題を解決し続け、自らも更新し続けるという心。
http://over-the-mountain.jp


CREATIVE DIRECTION by 小梶数起
クリエイティブエージェンシー・ziginc.代表。

国内外のアパレル、コスメ、フード、ホテル、テーマパーク事業におけるコンセプトワークから商品開発、デザイン、プロモーション戦略まで幅広く携わる。業種、業界、国の垣根を超えた既成概念を覆すプランニングを得意とし、世界文化遺産や日本伝統工芸にも精通するクリエイティブディレクター。本サイト、IPPUDO OUTSIDEの発案者であり一風堂サイトデザインも手がける。日本グラフィックデザイナー協会正会員。


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