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コラム:「除くクレーム」の使用上の注意

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 さて、今回は、具体的な事案における「除くクレーム」を題材にして、「除くクレーム」を使用するときの注意点について考えていきたい。

 なお、前以って断っておくが、題材となる特許の出願人や代理人が、今回私が指摘する注意点を考慮することなく「除くクレーム」を用いたと断定する意図はない。
 本願の出願人や代理人は、私が考える注意点を事前に把握し、これを考慮した上で、拒絶理由解消に「除くクレーム」を選択し、権利化を図ろうとしたとも考えられるのであり、今回の記事は、出願人や代理人の対応を非難・批判するようなものではない。
 あくまで、私自身がこの題材を通して感じた「除くクレーム」を使用するときの注意点をお伝えする趣旨である。

 今回の題材は、サイトの「拒絶理由対応のすすめ 第6回」の題材でもある特願2019-131912号(以下、本願という。)である。本願は、出願当初の請求項は「除くクレーム」ではないが、引用文献との差別化を図るために「除くクレーム」を用いた事案である。具体的には、拒絶査定審判の請求と同時にした手続補正により、以下の請求項1となった。

【請求項1】
 繊維幅が20nm以下であるナノ化キチンを15重量%~25重量%の濃度で含有する 、ナノ化キチン(ただしキチンナノウィスカーを除く)のウェットケーキ状の分散物。

 まず簡単に、この「除くクレーム」を利用した補正の経緯について簡単に触れておく。

 本願は、1回目の拒絶理由通知において、請求項1に係る発明に対し、引用文献1に基づく新規性欠如と、引用文献2に基づく新規性欠如の拒絶理由を受けた。そのうちの引用文献2は、アメリカの出願であるが(米国特許出願公開第2015/0011684号明細書)、ナノ化キチンのうち「キチンナノウィスカー」に関する発明を開示するものであった。そのため、本願の出願人は、請求項1に係る発明における「ナノ化キチン」から「キチンナノウィスカー」を除いた「除くクレーム」へと補正を行った。

 本件における「除くクレーム」の使い方は、基本的・典型的なものであろう。本願発明における「ナノ化キチン」から、引用文献との重複部分である「キチンナノウィスカー」を除いたものであり、引用文献2との差別化を図る上で、権利の減縮を最小限に抑えようとした「除くクレーム」である。

 以下では、この「除くクレーム」を題材にして私が感じた注意点を述べていく。

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