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コラム:「引用発明の認定」の応用類型

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コラム 「引用発明の認定」の応用類型

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 今回のコラムは、特許法29条の対応に重要な「引用発明の認定」について述べる。

 既に、基本的な話は、令和4年(行ケ)第10007号の判例記事で述べた通りであり、詳細は記事を確認して欲しいが、「引用発明の認定」は、恣意的な判断とならないように、本願発明との対比に必要な技術的構成について過不足なく行われなければならない。

 ポイントは、「本願発明との対比」であるという点と「過不足ない」という点である。例えば、引用文献を基準とすれば、「過不足なく」認定するという意味は、引用文献の明細書に記載されている範囲内で、なるべく詳細な技術まで特定することになる。しかし、「本願発明との対比」を基準とすれば、引用文献の明細書に記載されているからといって、本願発明(請求項)に表れていない技術までを特定することは適当ではないことになる。

 つまり「過不足なく」であるから、「過度な認定」もしてはいけないし「不足した認定」もしてはいけないことになる。しかしながら、何が「過度な認定」であり、何が「不足した認定」であるかは、一概には判断がしづらい。

 典型的には、過度な認定とは、本願発明(本願の請求項)に記載された技術的事項に留まらず、さらに下位概念の技術的事項にまで引用発明を認定することである。また、不足した認定とは、本願発明(本願の請求項)に記載された技術的事項に対して、引用文献に記載された技術内容を、抽象化、一般化、上位概念化して認定することである。

 本願発明との対比であるから、下図のように、本願の請求項に記載されている構成要件(技術的事項)をそれぞれ対比していき判断すればよい。基本的な考え方はそれで合っている。

 本願発明と引用文献の両方に構成要件Aが記載されているため、引用発明も構成要件Aとなる。
 本願発明は構成要件B1(Bの下位概念)まで記載されているが、引用文献には構成要件Bまでしか記載されていないため、引用発明は構成要件Bとなる。
 本願発明には構成要件Cが記載されるに留まるため、引用文献に構成要件C1(Cの下位概念)が記載されていても、引用発明は構成要件Cとなる。(構成要件C1と認定することは「過度な認定」となる。)
 本願発明には構成要件D1が記載され、引用文献には、これと同レベルにある構成要件D2が記載されているため、引用発明は構成要件D2となる。(構成要件Dと認定することは「不足した認定」となる。)
 本願発明は構成要件Eが記載され、引用文献には構成要件Eは記載されていないため、引用発明は構成要件Eを備えない。

 このように、論理的にまとめてしまえば、「引用発明の認定」は難しくないことのようにも思える。しかし、そうであるとするならば、「引用発明の認定」が、多くの特許訴訟で争点となることはないはずであり、あらゆるケースが、この考え方で処理できるかというと、そういうわけではない。

 また、適切な「引用発明の認定」が行えないことで不利益を被るのは出願人の側である。審査官によって行われる恣意的な引用発明の認定は、審査官の考える判断ロジックを肯定する方向に働くものであり、基本的には、拒絶理由を肯定する方向でなされるものだからである。

 従って、「引用発明の認定」を適切に行えることは、より広く、より強い権利を取得する上で、重要なスキルといえよう。

 今回は、上記に挙げた基本的な例ではなく、「引用発明の認定」の応用として、下図のようなケースについて説明する。下図は、本願発明に記載されていない構成要件であり、かつ、引用文献には記載されている構成要件を、引用発明として認定するケースである。なお、技術的な一体不可分のように、構成要件D+Fをひとまとまりの技術として認定するというケースではない。(その場合を表現するならば「構成要件D2+F」という書き方が適しているだろう。)

 私自身も、審査において、下図のケースから進歩性を主張することで(審査官の判断が誤りであると意見して)拒絶理由を解消できている(実際に解消できた実績があるからこうして紹介することができるわけで、実績もない脳内思考をただ披露しているわけではない)。

 引用発明の認定誤りは、その後の相違点の認定や論理付けの判断にも大きく影響し得るポイントであるため、知っておけば実務に役立つはずである。

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