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短編小説「彼女は寝てばかり」


だいたい初めてデートに誘ったときだって、ナオコさんは寝てたんだ。

女の人を、しかも好きになってほしい女の人を起こしてしまったことに焦った僕は、あわてて、昨日一緒に飲んだ者であること、連絡先は幹事の子から聞いたことを手短に説明し、続けて、今度二人で飲みに行かないか、いつが都合がいいか、と一息に尋ねた。

それまで聞いているのか聞いていないのか分からないような相づちを打っていたナオコさんは、そこで初めて妙にはっきりとした声になって、ふざけているような、でも決して馬鹿にしたりからかったりしているわけではないことがわかる独特の調子で、歌うように返事をした。

「来週の水曜日がいいな〜」

僕は起こしてしまったことをもう一度詫びてから電話を切ったけど、それはほんの一分足らずの会話だった。

後になって僕が、

「あの時電話が通じなかったら、意気地なしの僕はきっと、『うまくいく恋はどうやってもうまくいくし、うまくいかない恋はどうやってもうまくいかない』なんて、諦めてたと思う」

と冗談めかして言うと、ナオコさんは真顔で、

「私もよくあそこで起きたと思う。えらいね、私」

と言ったあと、にっこりして、

「でも、たちが悪いって評判の寝起きの私相手に、よくがんばったね」

と褒めてくれた。

そもそもナオコさんは、朝だろうが夜だろうが関係なく、家にいるときは大抵寝てる。

「だって、うちってすごーく寒いんだよう?だから、部屋にいるときはずーっと布団に入ってるのぉ。そしたら、どうしたって眠くなっちゃうでしょう?ねえ、そうでしょ〜う??」

と、例の抑揚をつけて言い訳する声は二つ年上だということを忘れてしまうぐらいかわいらしくて、会って話す時はそれほどでもないもんだから、僕はわざと寝ているところを狙って電話をかけたりする。

にしても、これは寝過ぎじゃないだろうか。アクリルの窓の向こうですーすーと寝息を立てているナオコさんが目を覚ますのを、僕は昨晩からずっと、この固いベンチに座って待っている。

電話さえかけられれば、ナオコさんはきっといつものように、

「は〜ろ〜?」

と、問いかけるような口ずさむような声を聞かせてくれるはずなのに、携帯が禁止のこの場所では、僕はただ大好きな人の寝顔を見つめることしかできない。

photo by hans van den berg

※かれこれ10年以上前に、小学館「きらら」携帯メール小説大賞短編小説に投稿して、佳作をもらった作品です。賞品は1000円の図書カード。うれしかったなあ。電話かかってきたの覚えてます。

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心理カウンセラー・エッセイスト。「察しない男説明しない女」「不機嫌な長男・長女無責任な末っ子たち」など著書多数。「コミュニケーション×心理」を出発点に、恋愛や結婚、編集や文章について書いています。#おとなの寺子屋

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  • 18本

以前、ある媒体で読み切り短編小説の連載をしていたことがあります。その時の作品を中心にまとめた、読み物です。

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