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【講演記録】第3回「10日間で作文を上手にする方法」(Part1:はじめに)いぬのせなか座連続講座=言語表現を酷使する(ための)レイアウト

はじめに

 第3回目の講座は、2019年2月2日(土)に三鷹の上演スペースSCOOLで行われ、2019年5月19日までに講演記録を公表すると決まりました。春が近づくと、日本で働くひとはいつにもまして忙しくなりがちで、いぬのせなか座もその例外ではなかったのです。長らくお待たせして、ごめんなさい。
 3ヶ月が経ちました。10連休明けの地下鉄で、大切な短い会議に向かいながら、第3回を担当したぼく(=笠井)は、2月初週の土曜の夜が、持論のなかで区分した、「あまり多くのひとには読まれないけど、長い記憶のなかで残って、ずっと愛されるテキスト」になれただろうかと自問しています。

 うれしいことに、上演用テキストは終演後も読まれていました。読んでくれた方の誤操作が、Googleドキュメントへの修正提案として通知されると、その度にぼくはそこを読み返したものです。来場者のみなさんが書き寄せてくれた「メモ」も残っています。すべてがぼくの(紙の)ノートに貼られています。どれをどなたが書かれたのか。もうぼんやりとしか思い出せません。だけどぼくに決意させてくれます。それぞれの問いにきちんと応えるものを書かなければと。


この文書について

 だからこそ――だなんて、ひとつの理屈にはとうてい回収できないけれど、この講演記録は不揃いなままで発売されることになりました。「メモ」への応答を目指すエッセイや、第2幕の全4章でなされた議論の改稿、対話のなかで芽生えた論点への追記といった収録内容(コンテンツ)は、このあと少しずつ、追加されていきます。元の素材も消さずにおいて、編集の手つきを検証しやすくします。

 つまり、いくつかの苗をひとまとまりの素材集として店先に並べておいて、手にとってくれたひとの声を吸収しながら、歳月をかけて成長させる。そういうプロセスが始まる兆しを売り出すわけです。例えば、ICOのホワイトペーパーみたいに。スマホゲームの先行登録みたいに。仔犬とその小屋をセットで買うように。


その狙い

 といっても、奇抜でもなく、目新しくもないやり方です。Webの広くて浅い海を泳ぐのに、適切であり、安全であって、もはや古風ですらあるでしょう。その狙いは簡潔です。じゃこじゃこのテキストがたっぷり詰まった、お手軽サイズの「小さな部屋」を作ること。そのコーパスのなかでは、あらゆる言葉が、出自や身なり、考え、ふるまいその他いっさいの理由で差別されないこと。古びた束縛や、おろかな制約から自由でいられること。

 たとえどれほど醜い、拙い、劣った、くだらない、誤りだらけの言葉であっても、ささやかな居場所が与えられ、その痕跡を消そうとする火の手から守られていること。たとえいつかは損なわれてしまうとしても、記録された事実が、その時のその姿で愛されること。

 まぁ、きれいごとの理想論ですし、そうまで言うほど不朽の価値が保証されたものを世に送り出すわけじゃありません。そのために、いぬのせなか座のみんなには(かなりの)無理を(強めに)言って、その日その場で話された言葉の、即興の生々しさと言葉足らずの不格好さをなるべく残してもらったのだけど、本当にそうすべきだったのかはまだ分からない。


特色

 いぬのせなか座の〈座談会〉は、編集と書き換えを当然の作業工程として、繰り返し、制作されてきました。雑にいえば、濃縮と洗練を得るためです。そう思うと、散漫と雑然を志したこの講演記録は、これまでとは一風変わった仕上がりのラインナップとなるでしょう。施されたのは、最低限のブラッシングと、プライバシーへの配慮だけ。当日のハプニングも、司会の(僕の)しくじりも、中断された議論もそのままです。

 要するに、2010年代の終わりに、日本語圏で尖った言語表現を志した数人の若者たちが、50名弱の観客を招いて語った3時間強の対話を、数十分くらいで読めるように再現したテキストです。動画配信のアーカイヴならさておき、その種の記録文書はあまり世に出ませんから、その限りでは珍しく、わりとお買い得な商品かなという気はします。


お知らせ

 というわけで、次のPartからは、本文へのURLリンクと、ちょっとした解説を載せてみました。お買い上げいただくと、どのURLも好きなだけお読みいただけます。ひとくさり読み終えたところで、他に足してほしい文章があれば、ぜひコメントをお願いします。質問や「メモ」を寄せていただくのも歓迎です。

 なお、連続講座はその回ごとに独立した内容を企画しています。第4回以降に参加するとき、過去の講演記録は読んでいなくても大丈夫です。話者ごとの考え方にゆるいつながりはあるけれど、気にし始めるときりがありませんし。

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有料ページには、収録内容の一覧と本文へのURLリンク、それからちょっとした解説を載せてみました。お買い上げいただくと、どのURLも好きなだけお読みいただけます。

第3回目の講座は、2019年2月2日(土)に三鷹の上演スペースSCOOLで行われました。講座の要約、上演用テキスト、書き起こされた対話、ス…

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