犬のピピの話 160 クリスマスの夕方の海
そして、同じクリスマスの日の夕方、わたしたちは、再びこの草原へやってきました。
草原の西の端まで、どんどんどんどんと歩いていって、防波堤ごしに海を見おろすと、そこにはうすみどりの海水が、わたしたちの下で夢のようにやさしく揺れていました。
夕方の海までうすみどりとはおどろきですが、それは、緑いろの海水をおおう空が、この日は淡く、しろく曇っているからでした。
海は、いつでも空のいろを映すのです。
そんなうすみどりの湾を見はるかすと、しろい橋が、やわらかく長くその腕を伸ばしていました。
手前では、首の長い鳥が一羽、わたしとピピの存在を気にしながら
ふらふら ふらふら ふらふら
と、しろみどりの海面に浮かんでいました。
このようにして、わたしたちは朝も夕方も、このうすみどりの世界の中、草原の奥深くにある池まで、じっくりと巡り歩いたのです。
その池の周りでは、機械で刈られた太い雑草が乾き、わたしたちの足元で鋭く尖っていました。
するどく、硬い切り口を、わたしとピピは用心ぶかくよけて歩きます。
あの、あついあつい夏の間にびっしりと育ち、固く固く、枯れた草・・
その、まるで槍のような切り株のじゅうたんを、わたしの靴が入るすきまを見つけて進むのは、たいへん骨がおれました。
反対に、ピピの足はとてもちいさくて、便利です。
でも、ピピには切り株のすきまにはめ込まなければならない足が、四本もあるのです。
「ピピも、たいへんだね・・」
疲れたわたしがため息をついて見ていると、ピピは、前足で踏んだあとの地面に、いかにも自然になにげなく、しかもぴったり正確に、次の後ろ足を置いて、じつにじょうずに進んでいくのです。
こうして、どんどんピピにとり残されそうになりながら、いつまでもつづく切り株の槍にくたくたになったわたしは、ついに立ち止まって一息つきました。
それから目を上げて東の方角を眺めると、そこにはなめらかで柔らかい緑の地面があり、クリスマス・ゴルフを楽しむ人々が手に手に長い棒をもって、優雅に歩きまわっているのでした。
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