最弱奴隷の俺、ステータスの穴を見つけて成り上がる。『第五話 魔法使いの奴隷』
俺は妙に重い目を開ける。
「ここは?」
視界に広がったのは規則正しく編まれたツタの様な物。それが一つの部屋の様に俺を取り囲んでいた。さらに俺の寝るベットはそれが何重にも重ねられ、寝心地はあまりよくないが地べたに寝るよりもはるかに柔らかくなっている。
「起きた?」
耳元で女性の声が聞こえる。
俺は首を動かして彼女の方を見る。
茶色の髪を肩甲骨の下あたりまで伸ばしている。ぱっちりと髪と同じ色の瞳を開け、俺を覗き込むように見ている。
「君は……」
「私は、アリス。よろしくね」
彼女は顔を綻ばせる。
「ここはどこなんですか?」
俺は質問を投げる。
「ここは森の中心部。私はここに住んでいるの」
「あなたが助けてくれたのですか?」
うん、と言いながら彼女は頷く。
この子が助けてくれたのか。
いやでもならなぜこんなとこに住んでいる。この子――アリスは魔法らしきものを使っていた。ならこんな所に住まわずに王都とかに向かえばいいのに。
「私からも質問良いかな」
「勿論です」
「君は何であんな場所にいたの?」
俺は起き上がり、
「それは言えない、です」
一言。そう答えた。
もし彼女が国にとって重要な存在だとして、そんな人に最弱奴隷である事がばれたらここで生き残る可能性が縮まる。
なら、今は秘密にしておくのが最善なはずだ。
「そっか。……ああ、聞き忘れてた。君の名前は?」
名前程度は良いだろう。
「アルトって言います」
「分かったよ。アルト君!」
アリスは大きくうなずいて手を握る。
「ところで、アルト君はどこか行く当てはあるの?」
「……ないです」
「そっか。……じゃあ、ここに住む?」
「えっ……いいんですか」
嬉しい申し分だ。魔法を使えるであろう人が近くにいるんだ。魔獣の脅威におびえなくて済む。安全だ。
「勿論!」
「ぜひお願いします!」
俺はベットから飛び出て頭を下げる。
礼儀正しい方ではないと思うが、それでも感謝の意は伝えたい。きっとこれなら十分伝わるだろう。
「うーん、堅いな~。アルト君、敬語は今後無しにしよう」
アリスは出会った時から砕けた口調だった。たぶん堅苦しいのが嫌いとかそんな類なのだろう。農民でもそういう人は多かった気がする。
「分かった」
俺が頷くと、アリスは少し考えるように顎に手を当てる。
「アルト君は職業は何?」
「えっ……」
不味いな、どうするか。
奴隷という訳にもいかないし、かといって農民とか言うとどうして行く当てがないのかと聞かれるだろう。
万事休すか。
「特に、言う程のものではないよ」
「もしかして、奴隷だったりする?」
勘付かれている。とりあえず奴隷と判断せれる事だけは防がなくては。
「そんなわけないだろ!」
俺は大きな声で否定する。
「うわっ! そんな怒鳴らないでよ。奴隷、そんなに嫌?」
「それはそうだろ」
何を言っているんだ。当然だろ。
「そっか、私、奴隷なんだけどなっ」
「えっ……嘘だろ……」
「本当だよ」
「魔法を使っていただろ。それはどういうことだ」
「私、魔法適性だけすごいステータス上がってるんだよね。大体130」
130だと……。
俺の捕食者で30だぞ。奴隷がそんな値になるはずがない。奴隷の上限値は知らないが、あって30程度だろう。
あり得ない。
「私も少し怖いんだよ。でも村にから追い出された以上、頼ざる負えないかなって思って、使ってるんだ」
「じゃあ、どこで魔法の使い方を知ったんだ。俺は知らないぞ」
「研究したんだ」
いや、そんな話が信用できるはずがない。アリスは恩人だから信じたいが、そんな信憑性の低い話信じられるわけがない。
怖いのは俺が奴隷と知った瞬間、見捨てられること。だからアリスが俺と同等であるという確証が欲しい。
ステータス画面は水晶なしでは他人が見る事はできない。
アリスが奴隷であると確証が得られれば、俺も職業を教えて、そんで互いに生きていきたいが、あるだろうか、証拠。
「証拠を見せてくれないか」
「証拠……じゃあ、ステータス」
アリスがそういう。
アルスの眼にはステータス画面が開いているのだろうが、当然俺には見えない。何か思いついたようだが、何をするつもりだろうか。
「目、瞑ってもらえるかな」
俺は指示に従って目を瞑る。
「そのままね」
「ああ」
ガサッ、ゴソッ
衣擦れの音が聞こえる。
この家にそんな音を鳴らす要因はあっただろうか。それこそ衣類ぐらいだろう。見た感じこの家には壁などを構成するツタくらいしかなかった。
だとすると、アリスは何をやっている?
エロい事で証明とかそんな笑えない事しでかさないといいが。
「はい、開けていいよ」
俺が目を開けると、アリスは普通に服を着ていて普通に笑顔を浮かべていた。とりあえずエロい事じゃなくてよかった。
アリスは掌を広げて近づけてくる。
その上に乗っていたのは緑色の丸い塊。
「これは?」
「これはね、私が生まれてからずっと私の体に纏わりついてる変な球体」
「これがどう証拠になるんだ」
「ねえ、緑助、アルト君に私のステータス見せてあげて」
その言葉に反応したのか、緑助と呼ばれていた謎の球体は、体積を増やし始め、そして形を変える。
丸い形は徐々に四角く平面になっていく。
そして、ちょうどステータス画面程度のサイズに変化したと思ったら、今度はその表面に文字が浮き出始めた。
それから数秒後、色以外、ほぼ見慣れたステータス画面の形となった。
そこには職業奴隷、身体能力5、魔法適性130と書かれていた。
「これが証拠か」
「不十分かな」
どうだろうか。
魔法でできると言われれば、知識のない俺は、頷くことしかできない。こんな知らない概念が来るとは思っていなかった。
「この球体は……体のどこにあるんだ?」
「まあ、一応、お腹の辺り」
見せてくれは変態的か。でも今は仕方ないだろう。
「見せてくれないか」
「それじゃ目を瞑ってもらった意味ないじゃん。それに私が嘘ついてるみたいになってるけど私がアルト君に住む場所を提供しようとしてあげているんだよ。信じてほしいから構わないけど、さすがに職業教えてほしいな」
それもそうか。確かに証拠は提示してくれた。
ここまで自分を奴隷と訴えるなら、そして俺が奴隷と勘付いても気にしていないようだし、俺が奴隷でもこの人なら見捨てないかもしれない。
「俺は、奴隷だ」
「うん、だと思った。ありがとう。私も実は奴隷仲間が欲しかったんだ。だからこれからよろしくね」
「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」
俺らは強く握手をした。