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エッセイ

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2024年5月の記事一覧

缶詰部屋(そば工場の思い出)

缶詰部屋(そば工場の思い出)

大学を9月卒業してから4月に大学院が始まるまでのあいだ、私は広島に帰っていた。
一人暮らしの家財道具は東京のレンタル倉庫にあずけ、身ひとつでもどってきたが、実家は建て替え中だった。

仮住まいは近所の賃貸マンションだった。半年間の契約で家賃を安くしてもらったかわりに、部屋の障子はボロボロ。壁には穴も開いていた。

マンションの高層階に住むのは初めてだった。ちょっとコンビニに出かけるだけで、エレベー

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星の王子さま(図書係の思い出)

星の王子さま(図書係の思い出)

小学5年の2学期に入ってすぐ、班替えがあって島田さんと同じ班になった。男子2人、女子3人の班で、班長は私だった。

学活のとき、どの班がなんの係活動をするのかを決めることになった。
まず班ごとに話し合いが行われ、私は班員に「お楽しみ係がええんじゃないん」とすすめた。お楽しみ係とは、お楽しみ会を企画・運営する係で、男子のあいだで人気があった。

「読書の秋じゃけ、図書係にしようや」

さっそく島田さ

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模擬面接(プリントゴッコの思い出)

模擬面接(プリントゴッコの思い出)

中学3年の冬休み前、漫画を買いに本屋に行こうとすると、母に「プリントゴッコのイラスト集を買ってきて」と頼まれた。
もう年賀状づくりに取りかからなければならない時期だった。

プリントゴッコとは、年賀状をつくるための家庭用の印刷機だ。2000年代にパソコンが普及するまでは、みんなプリントゴッコで年賀状をつくっていた。その仕組みはつぎのようなものである。

当時、プリントゴッコのイラスト集というものが

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代理告白(ゴールデンウィークの思い出)

代理告白(ゴールデンウィークの思い出)

中学生になると井本くんと一緒に登校するようになった。
毎朝、井本くんが家に迎えにきてくれたが、もともとは田島くんも入れた3人で登校していた。3人ともクラスは別だった。

井本くんと一緒に田島くんのマンションに行くと、田島くんはいつも準備ができておらず待たされた。
井本くんとは小学校のころから仲がよかったが、田島くんとは家が近所というだけだったので、しだいに井本くんと2人で登校するようになった。

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