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エッセイ

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2024年3月の記事一覧

タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅

タイムトラベルーーウド鈴木とスペースワールドのないスペースワールド駅

押し入れの整理をしていると、ふと段ボールのなかの1冊のアルバムが目に入る。パラパラめくってみると、小中学校のころのアルバムだった。すえた香りとともにたちまち懐かしさに引きこまれた。

スペースシャトルの前で撮った写真が目にとまる。小学校の修学旅行で北九州のスペースワールドに行ったときの写真だった。

スペースワールドは宇宙をテーマにしたテーマパークで、ディスカバリー号の実物大のモデルが飾ってあった

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一人暮らしデビュー(洗濯物は自動的に畳まれて戻ってこない)

一人暮らしデビュー(洗濯物は自動的に畳まれて戻ってこない)

私がはじめてひとり暮らしをした街は所沢だった。大学のキャンパスがあったからで、進学とともに引っ越した。

部屋は家賃4万5000円のアパートの1階。間取りは1Kで、ロフトがあるのを気に入って選んだ。築10年だが、リフォームしたばかりできれいだった。

3月下旬、私は姉と一緒に広島から出てきた。姉は引っ越しの手伝いで来てくれた。

からっぽの部屋につぎつぎと段ボールが運ばれてくる。私が荷物を受け取っ

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my graduation(カテキョのお姉さん)

my graduation(カテキョのお姉さん)

「え? いま中学3年じゃろ。っていうことは、尾崎の『卒業』も知らん世代なんじゃ。カワイソ」と言ってきたのは、当時、家庭教師だった大学生の男である。

その年のお正月のSMAPドラマ『僕が僕であるために』や、小学6年のころの野島ドラマの主題歌『OH MY LITTLE GIRL』で尾崎豊は知っていたが、それ以外の曲は知らなかった。

のちに高校生になってからいっとき尾崎にハマったが、好きだったのは『

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旅館(おばあちゃんと真っ白なシーツ)

旅館(おばあちゃんと真っ白なシーツ)

家の近所に小学校から一緒だった女の子がいた。教室でからかうと、「うっさいねえ。あんたに関係ないでしょ」と叩かれ、いつも夫婦漫才のような掛け合いをしていた。

中学生になったころのある日、学校から帰っていると、彼女がラブホテルから出てきた。彼女の家はラブホテルを経営していた。

「お前、ラブホテルでなにしよったん?」とからかうと、彼女は傷ついたような顔で横を通りすぎた。
いつもと違うリアクションに私

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ミュージック・アワー(フォークダンスの思い出)

ミュージック・アワー(フォークダンスの思い出)

高校生のときの話。体育の授業が終わって教室の席につくと、私はふり返り、
「ええのう、お前は1番上で。俺なんか小学校のときから1番下の土台で」

ななめうしろに座る友人に膝をさすりながら言った。
体育祭のピラミッドの練習をしたばかりだった。小柄な友人は「バカ、1番上に立って手ひろげるのも怖いんで」と言い返す。

「フォークダンスのステップ覚えた? あたし、ぜんぜん覚えられん」

友人のとなりの席の堀

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ブックカバー(ラクダ色の本棚)

ブックカバー(ラクダ色の本棚)

家の本棚をながめると一面ラクダ色である。ほとんどの本に書店のカバーがしてあり、一見してどれがなんの本かわからない。
本を読み返したいときには、カバーの種類とおおよその位置で見当をつけている。

ざっと見わたすと、紀伊國屋書店や丸善ジュンク堂書店など、全国チェーンの書店のカバーが多い。
後者のカバーは丸善のものとジュンク堂書店のものと、MARUZEN&ジュンク堂書店のものの3パターンがある。

ほか

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ティラミスチョコレート(ホワイトデーの思い出)

ティラミスチョコレート(ホワイトデーの思い出)

ティラミス、ナタデココ、パンナコッタ、ベルギーワッフル、マカロン、パンケーキ、タピオカ、マリトッツォ……これまで綺羅星のごとくスイーツブームが起こっては消えていった。

いまや定番化しているものも少なくないが、なかでももっとも思い入れのあるのがティラミスである。
バブルまっただなかの1990年、「イタ飯」ブームに乗って彗星のごとく現れたのがティラミスだった。

とはいえ、当時の私は8歳である。社会

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ひと夏の冒険(ルンルンを穿いておうちに帰る)

ひと夏の冒険(ルンルンを穿いておうちに帰る)

物心ついたときから穿いていた純白のブリーフ。
ボクサーパンツなどなかった時代、中学生になった私の前に現れたのは、トランクスという大人のパンツだった。

母親の買ってきた白ブリーフから、自分で選んだトランクスに穿きかえる。それは蝉の羽化と同じだった。大人への階段である。

『ドラゴンボール』にもトランクスというキャラクターが登場するが、未来からやって来たやはり髪がサラサラのイケメンだった。

当時の

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