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2020年映画ZAKKIちょ~ 13本目 『カセットテープ・ダイアリーズ』

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2019年製作/上映時間:117分/G/イギリス
原題:Blinded by the Light
劇場公開日:2020年7月3日
観賞劇場:TOHOシネマズ日本橋
観了日:7月3日

希望の光で目もくらむ!恋と夢と友情と!
すべてはボスの歌から始まった!

 「ボス」とは、1973年のデビューから現在までバリバリ現役で活動中のアメリカの国民的ロックスター、ブルース・スプリングスティーンの愛称である。
日本人には1984年に発表された代表曲「ボーン・イン・ザ・USA」が一番有名かと思う。
 今でも世界中のスタジアム級の会場を廻ってツアーを行うほどの人気のボスだが、なんと日本は1997年以来、23年間も来日公演を行っていないという不遇っぷりなのである!
筆者も一度も生でライブを観た事が無い…。

【あらすじ】
1987年、イギリスの小さな町ルートンに住むパキスタン移民の少年ジャベドは、ハイスクールに入学する。保守的で古い慣習に縛られる父や人種差別問題に苦しむ中、ふと、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生が変わり始める!


 そんなボスについて筆者は90年代初頭に某ロック雑誌を通じて初めて知ったが、聴いてもベスト盤ほか数枚のアルバムを聴きかじった程度で、特に大きな思い入れは無い。だが、こうした青春音楽映画は大好物なので、喜び勇んで劇場へ足を向けた。

以下、「良かった点」。

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○良かった点

 若者の苦悩や夢、自立を描いた青春音楽映画として、キッチリまとまった、鑑賞後感もすがすがしい傑作!!

事前になんとなく分かっていたが、個人的な映画嗜好として、
完全にどストライクな作品だった。

過去の同ジャンルの作品では、昨年公開の『ノーザン・ソウル』、『グッド・ヴァイブレーション』や、3年前に公開の『シング・ストリート』などの傑作に並ぶ。(どれもイギリスおよびアイルランド映画)

うだつの上がらない若者が未知の音楽と出会って色めきだち成長していく姿に、自分の叶わなかった願望や、同じようなことを経験した日々を重ねて観てしまうから、ワクワクするし泣きもするしイライラするし喜びに打ち震える。
そして観終わった後すぐさまサントラが欲しくなり追体験してしまう。

そんな本作も、今後、自分が死ぬまで観ていくであろう青春音楽映画の一本として新たに仲間入りした。

本作は、英国でジャーナリストとして活躍中のサルフラズ・マンズールの自伝的な回顧録が原作となっており、ボスの歌を聴いて人生が変わっていったというのは実際の話とのこと。

 ハイスクール入学初日に何気なくぶつかったムスリム系の少年ループスにボスのテープを借りたジャベドが初めてボスの洗礼を受けるのだが、そのシーンがまさしく雷に打たれた衝撃という言葉をそのまま実写化していて感動的なシーンであると同時にちょっと笑いが止まらないシーンだったりする!

でも、自分が多感な十代の時の、色々な頭の整理が付かない状況下で、ちょうど求めていたドンピシャの音楽を初めて聴いた衝撃は、それこそ世界が変わるぐらいの大事件だし、それぐらい大げさな表現でも全然問題無い。

 そんなジャベド少年が、初めて雷に打たれるような衝撃を受けたきっかけでもあるボスの熱い名曲「Dancing In the Dark」を聴いてくれ~~!
(ちなみのこのMV、1億8千万回再生されてるんだぜ?)

 そもそもジャベド少年がなぜボスにハマったのか、それは、自分の進路も勝手に決められたり保守的で古い慣習を押し付ける父との関係に悩む彼が初めて聴いた曲が、「夜通し働いて疲れて怒りの炎も燃やせない、暗闇で踊ってるようなもんだ」と歌うボスに自分の境遇を重ねたからだ!

父の自動車工場で働く少年が、「自爆してこの街を引き裂いてやりたい」と叫ぶ「プロミスト・ランド」や、憧れの女子の前で「夜のドライブに行かないか?」と歌う 「涙のサンダーロード」では最後に「俺はこの負け犬だらけの街で勝ってやる!」と高らかに叫んだり、彼の心を代弁する存在となったボスの、すべての言葉に心酔していく様子は、かつて色々なバンドにハマって救済されてきた自分と重ね合わせてしまう。

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そしてボスの曲がかかる最も躍動的なシーンと言えば、ハイスクールの放送室に無断で入って爆音で鳴らす「明日なき暴走」
そのボスの音楽に合わせて少年たちが街を縦横無尽に踊り走り、解放されるシーンはついニヤニヤして観てしまう。
本編から抜粋したそのダンスシーンの一部を観てくれ~!

 ボスの音楽に心酔する少年の話だけでなく、子供の将来を決めてしまう堅物な父との対立から和解に至るまでの過程も本作の見どころ。いかにして父の気持ちを変えていくのか、それは観てのお楽しみ。
ボスの歌はジャベドに成長する機会を与えたけど、それはあくまできっかけであって、ずっと彼の言葉だけを信じて心酔していていいわけじゃないんだという事も教えてくれて、そこから自分の道を見出していくことの大切さに、グッときた。

 あと、凄く好きなシーンは、ジャベドのいとこの結婚式の日がちょうどボスのロンドン公演のチケットの発売日で、こっそりと抜け出して走ってレコード屋にチケットを買いに行くところ。
こういうシチュエーション、自分でも経験あるから「わかる~!」と頷いてしまった。
家族の行事の合間を抜け出して、好きなバンドのチケットの先行電話予約の開始時間に公衆電話に張り付いて繋がるまでひたすらかけ続けた事を思い出す。

 あと、一般的に誤解されがちな「ボーン・イン・ザ・USA」の歌詞。
この曲は当時、愛国歌として曲解したレーガン大統領が自身の選挙キャンペーンのテーマソングとして使って、ボス本人が使わないように抗議したという事もあった。
 実際の歌詞は、貧しく生まれ育った労働者がベトナム帰還兵として生還するが、帰っても仕事に就けず「俺はアメリカに生まれたのに」と嘆く、戦争の爪痕を残す歌だったりするということも、ちゃんと本編でジャベド少年が語っててそこもさりげなく良かった。

 本作はそうしたジャベド少年に寄り添う、ボスの歌の数々の存在感はもはや実体の無い影の主役と言っていい。
輸入盤だけ聴いていると、歌詞の日本語の対訳が分からないから、ボスの歌の魅力を半分も理解していなかったんだとハッとしてしまった。
本作を通じて、ボスの歌詞の労働者階級を描く世界観がもの凄く気になったので、ボスのCDを買う時には日本盤買わなきゃ駄目だな!

 ちなみに、パンフ掲載の原作者インタビューによると、完成直後の本作を観たボスは、「こんなに美しく僕を扱ってくれて本当にありがとう」と称賛したとのこと。
↓原作者、ボス、監督。

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結論

 鬱屈とした青春を音楽で救われた人、青春音楽映画が好きな人なら何も迷うことなくGO TO 劇場!

 それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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