【ピリカ文庫】雨【ショートショート800字】
雨が降るとお父さんを思い出す。
小さい頃良く晴れた朝一緒に散歩へ行ったこと。
行先は全部僕に決めさせてくれた。
あっちへいきたい、こっちへ行きたい
よく振り回した。
雨が降って散歩に行けない時は
家でいっぱい遊んでくれた。
お母さんやお姉ちゃんたちに内緒で
おやつもいっぱいもらった。
それが見つかった時お父さん
お母さんにもお姉ちゃんにも怒られてたな。
その日は雨が降っていて散歩に行けない
と不貞腐れていた。
大きなカバンに荷物を詰め終えたお父さんは
僕のとこへ来て、頭を撫でながら言った。
『いってくるね』
どこへ行くのか教えてくれなかった。
窓からお父さんが小さくなるまで
ずっと見ながらちょっと泣いた。
次の日からお母さんもお姉ちゃんも
よく出かけるようになった。
どうやらお父さんは病院にいるらしい。
お母さんが言っていた。
早く帰ってきてほしい。
毎日さみしくてお父さんがよく座っていた
大きなソファで待つことにした。
お父さんの匂い。
お父さんは映画が大好きでしょっちゅう観ていた。
テレビにイヤホンを挿した後大きなソファに座って
お菓子を食べながら見る。
いつもの鑑賞スタイル。
僕はおやつのおこぼれをもらうためにいつも傍にいた。
『これは大人用だからダメなんだよ』
と言ってまたこっそり僕専用のおやつをくれた。
お父さん大好き。
お父さんが病院へ行ってから
お母さんやお姉ちゃんが散歩に行ってくれた。
お父さんみたいにみんなも僕に
行先を決めさせてくれるけど
あまり遠くまでは行かせてくれない。
それにおやつも全然くれない。
お父さんはこっそり、いっぱいくれたのに。
僕の健康の為って言うけど、つまんない。
あれから何日ソファで待っていただろう。
今日もまた雨だ。
玄関の扉が開く音がした。
この匂い!
お父さんだ!
僕は全力で走った。
大きなカバンを玄関に置いたお父さんは
僕を抱きしめた。
この匂い。お父さんの匂い。
笑顔のお父さんに僕は全身で答えた。
おもいっきりしっぽを振って。