『高校数学のロードマップ』A_4(関数編)3『ユークリッド空間と多様体』

(2019/11/27差し替え)

(※注:「理系に進学したいが数学が苦手な知人の高校生に、数学の良さを教える」というミッションのための草稿を、あらかじめWebに掲載して、ダメなところを指摘してもらおう、という趣旨の記事です)

(2022/5/26追記)
このA_4の記事はことさら使用に堪えません。今ではベクトルと微分の順序がおかしいと思います。論点先取をやっている疑いが極めて強い。とはいえもう納品してしまったので(そしてこの高校生は今は国立大学に見事合格してしまったので)今更しょうがないんですよね…困ったな。

***

〇ユークリッド空間と多様体

●ベクトル空間から距離へ

・さて、今からは、小学校算数でやっているような図形の扱い方をする、非常に馴染み深い幾何学、ユークリッド幾何学の章に入ります。
 入るのですが、そのために最低限必要なキーワードについて考えなければなりません。具体的には、距離(きょり)と曲率(きょくりつ)についてです。
・ベクトルの演算は面倒なので、もうちょっと扱いやすくしたくなります。
 そのために、ベクトル空間でベクトルの演算に使える距離を考えるようにすると、しばらく分かりやすく計算出来るようになります。
(ベクトル空間から距離を作る方法ですが、説明が面倒なので、参考編を読むことを勧めます。
また、B参考編で書くように、この距離をユークリッド距離と呼びます。
 説明を飛ばす場合、「ベクトル空間からユークリッド距離を作ることが出来て、これがユークリッド幾何学に使える」ということだけ頭の片隅に入れておいて下さい。)

●距離から三角関数へ

・さて、図形に対して、本当に私たちが考えるような扱い方をするためには、図形の舞台となる空間は、平面とかの真っすぐな空間であってほしい。例えば、球面の上だと、直線と言われても「本当に私たちが考えるように真っすぐだと言っていいのか」と不安になってしまいます。
・平面が真っすぐであることを確認するのには、実は小学校算数でもやった角度(かくど)を使います。
・さて、角とは、(平行ではない)直線2本によって挟まれて作られるものなのでした。
それでは、その角の角度はどうやって作るかというと、直線2本から線分2本を作り、その線分2本の距離から作ります。具体的な作り方については以下の通りです。

・さて、急にびっくりするかもしれませんが、高校数学で出て来る三角関数の話をします。
・(平行ではない)直線2本の片方を、適当な距離で、線分に区切ります。
そこから垂直に線を引くと、(平行ではないので)もう1本の直線と交わり、そこでもう1本の直線を区切ると線分になります。
引いた垂直の線も、そこで行き止まりなので、やはり線分になります。
結果的に、直角三角形が出来ます。
直角三角形の各辺の距離から、まずは三角関数を定めます。
そして、その1種類が、傾きと同一視出来ることを見ていきます。
 傾きと三角関数をうまく応用すれば、角度が作れる。というやり方です。


・小学校算数でやった直角三角形の性質で、「直角に接している線分aの距離の2乗+直角に接している線分bの距離の2乗=直角に接していない線分cの距離の2乗」というものがあったのでした。
線分cの距離を基準(分母)として、線分aの距離の比率(分子)や線分bの距離の比率(分子)を導き出します。分母を無理やり1にすると、この組はいろいろなパターンがあります。これらを計ってみると、両者の長さの数値の組は、片方か両方が実数になります。(両方とも自然数や整数や有理数にしたいと思う人がいるかもしれませんが、残念ながら面倒な実数がどうしてもどこかに出て来てしまいます。)

・しかし、この実数の組、なんかの法則があったりするんじゃないか。そうすればもうちょっと扱いやすくなるんじゃないか。
 ということで、直角三角形の線分aと線分c、線分bと線分c、線分aと線分bの関係を探る努力がなされました。前者2つの関係を「サイン(sin)orコサイン(cos)」、後者の関係を「タンジェント(tan)」といい、総称して三角関数(さんかくかんすう)と呼びます。

・サインとコサインについて、非常に目立つ特徴を、一つだけ説明します。
 サインは実際にはsinθ,コサインはcosθと書くことになります。これは、角度を変数θで表し、その時のサインとコサインをsinθとcosθで表すものです。(θの話は後でします。前もってネタバレすると、直感には反しますが、角度からサインやコサインを作るのではなく、サインやコサインから角度を作る、という発想になります。
 サインやコサインを2乗するときは、sin^2θとかcos^2θとか書きます。(θには2乗がかからないようにします。これをすると普通は角度が変わって、サインやコサインの値が本来の値の2乗からかけ離れて、訳が分からなくなるからです。)
さて、さっきの話を思い出すと、
 sin^2θ+cos^2θ=1
 です。それぞれの2乗を足すと1になるような実数の組み合わせと、sinθとcosθの組み合わせは一致する、ということです。確かにそういう実数の組み合わせがあると使い道がありそうですが、それは実はsinθとcosθのことでもあったんですね。
 その他いろんな性質がありますが、説明しません。高校数学で教わったら慣れていきましょう。

●三角関数から角度へ

・なお、今から角度を作るのに、タンジェント、tanθも欲しいところです。
 どういうことかというと、垂直に線を引く前に、引く時の土台となった線のことを思い出して下さい。これを移動させてx軸に持って行き、x軸と同一視します。
垂直に引かれた線は、垂直なので、y軸と平行になります。
もう1本の線は、斜めの直線になります。
ここでぎょっとするのですが、tanθの値が、斜めの直線の傾きの値と一致します。つまり、tanθの値は傾きの値と同一視していい。ということになります。
傾きは、微分やベクトルから、比較的簡単に求められるので、これをtanθと同一視すると便利だったりします。
(sinθやcosθだとこう簡単にはいきません。
また、簡単に傾きが求められない場合もあるので、便利にならない場合もありますが、そういう場合はやむをえません。)

・今まで角度θの話を避けてきていましたが、sinθ, cosθ, tanθの値の組み合わせから、角度θの値を決めることが出来ます。
(三角関数と角度の表が教科書やネットにあると思いますが、あれは三角関数と角度の対応を見るために使うものです。
三角関数の正や負の組み合わせによって4パターンの角度があり得ますので、少し面倒ですが、やむをえません。
逆に、角度が分かれば、3種類の三角関数はそれぞれ1パターンに決まります。こっちの方が便利なのですが、「どうしても角度を他のものから定義したい、最初から既に決められているかのように扱いたくない」という動機がある場合、三角関数から角度を作るパターンを採用するしかありません。)
とにかく、こうして、角度が決められます。

●角度から曲率へ

・そんな訳で、こうして作った角度を使って、平面が真っすぐであることを計る方法が存在します。線分三本で三角形を書いて、その三角形の内角を足すんですね。これでキッチリ180度になれば、たいていは平面であり、そうならなかったら平面ではない、曲面である、という考え方をします。
(もし、地球の表面などの球面のようなタイプの曲面でこれと同じことをすると、三角形の内角の総和は180より大きくなります。
赤道から北極に行って、90°曲がって、北極から赤道に行って、90°曲がって、元の地点に戻って、90°曲がると、最初の道をもう一度行くことになります。
これは、移動している人の感覚では確かに三角形になるのですが、単純に足し算して、この三角形の内角の総和は270°になってしまいます。
曲面のデコボコの都合で、曲面なのにたまたま180°になる可能性はありますが、話がややこしくなるので、あまり考えたくない事態ですね。)
・なお、角度によって測ることが可能になる、線や面や3次元空間の真っすぐでなさ、つまりは曲がり具合を数値化したものを、曲率といいます。
(大学でやることなので、覚えなくてよいですが、この後の説明でちょっとだけ使います。)

●曲率からユークリッド空間へ

空間がちゃんと真っすぐであるような、つまり曲率が0の空間のことを、ユークリッド空間と言います。
ユークリッド空間は特殊なベクトル空間であると考えてもらって結構です。

ベクトル空間では図形(直線)だけは一見真っすぐでしたが、空間が本当に真っすぐなのかは保証されていませんでした。そこも達成されていると、演算が楽だということも保証されるわけです。
また、ユークリッド空間はユークリッド距離を持つため、これを基に「馴染み深い図形」の面積等の計算がますます容易に出来ます。

●ユークリッド空間と「馴染み深い図形」を扱うユークリッド幾何学

ユークリッド空間を前提とすることで、直線をはじめとした「馴染み深い図形」を、何の心配もなく扱えるような、便利な幾何学が出来ます。空間と演算と、それに加えてユークリッド距離と角度と曲率0を前提とした幾何学です。これをユークリッド幾何学といいます。私たちにとって最も馴染み深い幾何学がこれです。
そして、ユークリッド空間に基づいて、「馴染み深い図形」が出来る、と考えて下さい。
・とはいえ、じゃあ「馴染み深い図形」とは何か? という問いがあると思います。何だろう?

・線や輪ゴム(ループ)や風船(球面)や浮き輪(トーラス)などの、「大雑把な図形」については説明しました。
ですが、私たちにとって「馴染み深い図形」とは、面の上だと円とか三角形とか四角形とか、3次元空間の中だと球とか円錐とか三角錐とか円柱とか直方体とかですね。
(これらは大学数学では多様体(たようたい)と呼ばれるものとほぼ同じです。多様体とは、座標と関係なく、面積などの演算が一定になる図形のことですが、高校数学で出て来る図形は全てそういう多様体だと思います。)
 大雑把にはこれは全部、穴のない円や球のバリエーションだったりします。ですが、高校数学ではもちろん「わかったわかった、そういうのはいいから、正確な面積とか体積とか出そうな」という問題が出て来る訳です。そうした場合、「大雑把な図形」よりは高度な、「馴染み深い図形」の話を考えなければなりません。

・「大雑把な図形」について、どんなことを考慮すれば、「馴染み深い図形」になるのか?
 簡単のために、三角形の面積を求める式、「底辺×高さ÷2」のことを思い出してみましょう。
 ここから何を見出すべきかというと、「ユークリッド空間の持つユークリッド距離を使っている」ということと、「掛け算や割り算を使っている、演算能力がある」ということです。
・ということで、「馴染み深い図形」は、ユークリッド空間と演算とで出来ています。
「演算の対象となる、何らかのユークリッド空間、これこそが「馴染み深い図形」=多様体の正体である」と考えてください。
逆に言えば、「馴染み深い図形」には、演算に利用すべき何らかのユークリッド距離と、その演算方法が必ずあります。それさえ押さえておけば、特に簡単なものについては、正確な面積や体積は出せます。
(簡単なユークリッド距離を使った演算くらいでは、簡単に面積や体積が出せないような、簡単でない図形については、積分のところで少し説明します。)

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